馬の病気:腸結石症
馬の消化器病 - 2013年05月01日 (水)

腸結石症(Enterolithiasis)について。
結腸内に形成された結石(Enteroliths)に伴って、腸管の通過障害(Intestinal obstruction)を起こす疾患で、殆どの症例において、結石はストルバイト(Magnesium ammonium phospate)で構成されます。馬の腸結石症は、アラビアン、モルガン、サドルブレッドなどの品種に好発し、四歳以上の馬(特に十五歳以上の高齢馬)に発症が多いことが知られています。米国では、マグネシウム含量の高いアルファルファ乾草を給餌されることの多い、カリフォルニア州もしくはフロリダ州での有病率(Prevalence)が高いことが知られており、また、一日12時間以上に及ぶ舎飼いや、牧草地への放牧が限られている事なども危険因子(Risk factors)として挙げられています。馬の腸結石は、右背側大結腸(Right dorsal colon)、横行結腸(Transverse colon)、小結腸(Small colon)に見られることが一般的です。
腸結石症の症状としては、間欠性の軽度~中程度疝痛(Intermittent mild to moderate colic)、食欲不振(Anorexia)、抑欝(Depression)などの症状が見られ、通過障害から大結腸便秘(Large colon impaction)に至った場合には、重度の疝痛症状と進行性の結腸膨満(Progressive colonic distension)を呈する症例もあります。腸結石症の診断は、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)によって下され、八割近くの診断感度がありますが、小結腸における腸結石では、この感度が四割程度まで減少することが報告されています。また、稀に直腸検査によって結石を触診できる場合もあり(特に遠位小結腸にある結石の場合)、一割強の症例において、糞便と一緒に結石を排出したという病歴が示されています。腹水検査(Abdominocentesis)の所見は、一般に正常範囲内ですが、軽度の蛋白濃度の上昇が見られる事もあります。
腸結石症の治療では、正中開腹術(Midline celiotomy)による結石摘出が必要ですが、直腸からの結石排出を行った症例報告もあります。結石のサイズが小さい場合には、左側大結腸まで移動させることで、骨盤曲大結腸切開術(Pelvic flexure enterotomy)を介して腸内物漏出(Ingesta leakage)を最低限にしながら摘出することが可能ですが、結石のサイズが大きい場合には、結石を移動させる際の大腸破裂(Colonic rupture)の危険を考慮して、右背側大結腸切開術もしくは小結腸切開術を介して摘出する術式が用いられます。腸結石の摘出後には、結腸全域をくまなく探索して、小型の結石が残留していないことを確認します。
腸結石症の予後は一般に良好ですが、横行結腸などの創外に出せない箇所の腸管に、壊死を生じた症例では、予後不良を呈する場合もあります。腸結石症の手術後には、二割弱の馬において結石の再発が報告されているため、術後にはアルファルファの給餌量を減らしたり、牧草地への放牧を増やすことなどが、再発予防に効果的であると報告されています。また、サイリウムや酢などの飼料添加や、食餌の陽陰イオンバランス(Dietary cation-anion balance: DCAB)を、プラス200~300 mEq/kgに調整することなども推奨されています(DCABの算出法は以下)。
DCAB = ([Na] + [K] + 0.15[Ca] + 0.15[Mg]) – ([Cl] +0.25[S] + 0.5[P])
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