馬の病気:トリパノソーマ症
馬の感染症 - 2015年11月04日 (水)

馬のトリパノソーマ症(Trypanosomiasis)について。
トリパノソーマ症は、鞭毛虫類のトリパノソーマの感染によって起こる疾患で、原因原虫としては、Trypanosoma equiperdum、Trypanosoma evansi、Trypanosoma bruceiの三種類が重要であると言われています。
馬のトリパノソーマ症のうち、Trypanosoma equiperdumの感染によって起こるものを媾疫(Covering sickness, Dourine)と呼び、生殖器感染(Genital infection)によって発症します。症状としては、まず原虫感染によって、雄馬の包皮や雌馬の陰門部に、炎症(Inflammation)、浮腫(Edema)、腫脹(Swelling)、潰瘍(Ulceration)などが起こり(第一期)、次に、貧血(Anemia)や削痩(Weight loss)、リンパ節浮腫(Lymph node edema)、蕁麻疹様の丘疹(Urticaria-like papule)などが認められ(第二期)、その後、毒素によって知覚神経と運動神経の麻痺(Paralysis of sensory/motor neurons)に至ります(第三期)。媾疫の致死率(Mortality rate)は50~75%に及びます。
馬のトリパノソーマ症のうち、Trypanosoma evansiの感染によって起こるものをズルラと呼び、ツェツェバエ(Tsetse fly)、サシバエ、アブ、イヌノミ、吸血コウモリ等によって、宿主動物(馬、犬、コウモリ、野生動物)からの伝播が生じます。症状としては、四肢や腹部の浮腫(Limb/Abdominal edema)や、回帰性の発熱(Relapsing fever)が見られ、多くが慢性に移行します(病気の経過は1~4ヶ月)。
馬のトリパノソーマ症のうち、Trypanosoma bruceiの感染によって起こるものをナガナと呼び、ツェツェバエによって、宿主動物(牛、馬、豚、犬、野生動物)からの伝播が生じます。症状としては、弛張熱(Remittent fever)、頚部や腹部の浮腫、貧血(Anemia)、流涙(Epiphora)、鼻汁排出(Nasal discharge)などが認められ、最後は衰弱と麻痺と呈して死亡します(病気の経過は2週間~4ヶ月)。
馬のトリパノソーマ症の診断では、血液や生殖器粘膜の直接鏡検や、塗抹標本の鏡検が行われ、原虫の培養が試みられる事もあります。また、補体結合反応(Complement binding reaction)による血清診断(Serodiagnosis)も可能ですが、ELISA法や蛍光抗体法(Fluorescent antibody assay)も使用されています。
馬のトリパノソーマ症に有効な予防法や治療法はなく、治癒したように見えても再発して、感染源となる場合が多いことが知られています。このため、汚染国からの輸入馬の検疫や、媒介昆虫(Insect vactor)の防除が重要になります。
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