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馬の文献:蹄葉炎(Belknap et al. 1989)

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「ヘパリンによる馬の蹄葉炎の予防効果:1980~1986年の71症例」
Belknap JK, Moore JN. Evaluation of heparin for prophylaxis of equine laminitis: 71 cases (1980-1986). J Am Vet Med Assoc. 1989; 195(4): 505-507.

この症例論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の予防法を検討するため、1980~1986年にかけて、小腸疾患に起因して開腹術(Celiotomy)が応用された71頭の患馬における、術後のヘパリン投与の有無を含めた医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。このうち、原発疾患としては、回腸便秘(Ileal impaction)、鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)、小腸捻転(Small intestinal volvulus)、小腸嵌入(Small intestinal incarceration)、近位小腸炎(Proximal enteritis)、癒着(Adhesion)などが含まれました。

結果としては、術後にヘパリンが投与された48頭の患馬では、蹄葉炎の発症率は8%(4/48頭)であったのに対して、ヘパリンが投与されなかった23頭の患馬では、蹄葉炎の発症率は22%(5/23頭)にのぼりました。しかし、両群における発症率のあいだには、統計的な有意差(Statistically significant difference)は認められなかったため、ヘパリン投与による蹄葉炎の予防効果は、更なる臨床試験(Clinical trial)による検証を要すると考察されています。また、蹄葉炎を続発した馬における原発疾患としては、回腸便秘(四頭)、小腸捻転(二頭)、小腸嵌入(二頭)、近位小腸炎(一頭)などが含まれましたが、サンプル数が少ないため、ヘパリン投与が奏功しやすい小腸疾患のタイプは、詳細には評価されていませんでした。

この症例報告では、ヘパリンの予防的投与は、無作為に選択(Random selection)されたわけではなかったため、原発疾患の重篤度が低く蹄葉炎を続発する危険性が低いと予測される症例に対しては、ヘパリンが投与されるケースが少なかったという、治療指針選択に関する偏向(Bias)が生じた可能性は否定できないと考えられます。このため、いかに統計的な有意差が無かったとは言え、ヘパリン投与された馬(=蹄葉炎を起こす危険が高いと予測された馬)のほうが蹄葉炎の発症率が低かったという治療成績は、かなり見通しの明るいデータと言えるのかもしれません。

一般的に、馬の蹄葉炎には非常に多くの潜在的な病因論(Potential etiology)がありますが、その一つとして、血液凝固因子異常(Blood coagulopathy)によって背側蹄葉の血液循環障害(Blood circulation failure)が起こり、蹄葉組織の壊死性剥離(Necrotic separation)に至るという仮説があります。このため、血液凝固防止剤(Anti-coagulant agent)であるヘパリン投与によって、この循環障害を抑制することで、蹄葉炎の予防効果が期待できるという研究報告(炭水化物過剰投与による試験的な蹄葉炎の予防)がありますが(Hood et al. Proc AAEP. 1979:13)、その一方で、ヘパリン投与によって逆に赤血球凝集(RBC agglutination)を誘導させる可能性もある、という知見も示されています(Mahaffey et al. JAVMA. 1986;189:1478)。

この症例報告では、ヘパリン投与による蹄葉炎の予防効果が認められなかった要因としては、(1)ヘパリンの投与濃度が症例によってまちまちであった、(2)凝固因子異常のピークと、ヘパリン投与のタイミングが必ずしも一致していなかった、(3)対照郡においても、ヘパリン以外の治療薬が蹄葉炎の予防効果をもたらした可能性がある、などが挙げられています。また、含まれた患馬は全て開腹術を要するほど病態の悪い、もしくは経過の長い症例であったため、ヘパリンでは不可逆性(Irreversible)の凝固障害が起きていたケースもありえ、さらに、小腸疾患に続発する蹄葉炎では、単に血液凝固異常が病因に関与する割合が低いとも考えられるのかもしれません。

この症例報告では、ヘパリンが投与された馬郡と、投与されなかった馬郡のあいだに、血清アニオンギャップ(Serum anion gap)、腹水(Peritoneal fluid)の白血球数や蛋白濃度には有意差は無かったことが示されました。しかし、蹄葉炎の発症馬と非発症馬のあいだにおける、これらの検査値の比較は行われておらず、血液検査や腹水検査(Abdominocentesis)などの異常所見が、ヘパリン投与を選択する基準となるかに否かについては、この論文では詳細には考察されていません。

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