馬の文献:蹄葉炎(Peloso et al. 1996)
文献 - 2015年11月08日 (日)
「片側跛行を呈したウマ科動物の対側肢蹄葉炎の発症に関する危険因子の対照症例調査」
Peloso JG, Cohen ND, Walker MA, Watkins JP, Gayle JM, Moyer W. Case-control study of risk factors for the development of laminitis in the contralateral limb in Equidae with unilateral lameness. J Am Vet Med Assoc. 1996; 209(10): 1746-1749.
この症例論文では、馬の負重性蹄葉炎(Support laminitis)の発症に関する危険因子(Risk factor)を検討するため、片側跛行(Unilateral lameness)を呈して対側肢(Contralateral limb)に蹄葉炎を起こした20頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。そして、一致&不一致対照馬(Matched/Unmatched control horse)としては、それぞれの患馬の入院前後で同様な病態を呈したものの、対側肢蹄葉炎を続発しなかった馬(=一致対照馬)、および、研究期間内で球節または冠関節の固定術(Fetlock/Pastern arthrodesis)のため長期間の入院を要したものの、対側肢蹄葉炎を続発しなかった馬(=不一致対照馬)が選択され、患馬郡とのデータ比較が行われました。
結果としては、負重性蹄葉炎の罹患馬では、跛行の発現から消失までに平均37.5日間が経過していたのに対して、一致対照郡の馬では、跛行の発現から消失までに平均6.5日間しか経過しておらず、負重性蹄葉炎を起こした馬のほうが、跛行の継続時間が有意に長かったことが示されました。このため、重度の片側跛行を呈した患馬において、跛行が数週間以上に及ぶ場合には、対側肢の負重性蹄葉炎を続発する危険性が高いというデータが示され、内科的療法や装蹄療法などの併用によって、積極的な予防処置(Aggressive preventive measures)を施すことが重要であると考えられました。
この症例論文では、患馬の体重を比較すると、負重性蹄葉炎の罹患馬では平均443kg、一致対照馬では542kg、不一致対照馬では455kgというように、三つの症例郡のあいだに有意差は認められず、体重そのものは蹄葉炎発症の危険因子(Risk factor)とは見なされないことが示唆されました。しかし、過去の文献では、蹄葉炎を発症して生存した馬郡の平均体重(384kg)は、蹄葉炎を発症して安楽死(Euthanasia)となった馬郡の平均体重(473kg)よりも有意に軽かったという報告や(Baxter et al. JAVMA. 1986;189:326)、近位小腸炎(Proximal enteritis)の合併症として起こった両側性蹄葉炎では、体重が550kgを超える馬では、体重が550kg以下である馬に比べて、蹄葉炎を続発する確率が二倍以上も高いという知見も示されています(Cohen et al. JAVMA. 1994;204:250)。
この症例論文では、跛行症状の発現から24時間以内に撮影された側方レントゲン像(Lateral radiographic view)において、蹄骨の回転(Rotation)や沈下(Sinker)の診断が試みられましたが、この際に、蹄骨背側部の軟部組織の厚さ(Thickness of soft-tissue: ST)と蹄骨の掌側皮質骨の長さ(Palmar cortical length: PCL)(=蹄骨尖から蹄関節面までの距離)が測定され、この二つの測定値の比率が算出されました(PCLのうちSTが占める割合)。そして、負重性蹄葉炎の罹患馬では、この比率が全て29%以上であったのに対して、対照馬では、この比率が全て29%未満であったことが報告されています。このため、片側跛行によって対側肢蹄葉炎の危険性がある症例においては、側方レントゲン像上でのST/PCL比率をモニタリングすることで、蹄葉炎の早期発見ができる可能性があると考えられました。
一般的に、沈下型蹄葉炎(Sinker laminitis)では、背側蹄壁と蹄骨が平行関係を保つことから、背側蹄葉組織の厚さが増加していくことで、蹄骨の沈下度合いを判定する必要がありますが、その早期診断は難しい場合もあります。このため、蹄骨背側部の軟部組織の厚さを蹄骨の大きさと比較することで、蹄葉状層の剥離度合いを相対的に評価する手法が有用であると推測されており、この論文ではST/PCL比率が29%を超える場合を蹄葉炎とするカットオフ値が提唱されています。また、一頭の馬の蹄葉炎を経過追跡(Follow-up)する場合には、蹄骨背側部の軟部組織の厚さは、レントゲン撮影の際のフィルムと蹄の距離や蹄とカメラの距離の違いで、かなりの誤差が出るという問題が生じます。しかし、ST/PCL比率を応用する場合には、蹄骨の大きさを対象物として用いることができ、また、STとPCLは同じ正中軸に位置しており、レントゲン手技による測定値の誤差が殆ど生じないため継続的に蹄骨沈下を監視する診断法として有用であると考えられました。
この症例論文では、罹患肢へのギプス装着が行われた馬の割合を見ると、負重性蹄葉炎の罹患馬では35%であったのに対して、不一致対照郡の馬では92%に達しており、蹄葉炎を続発した馬のほうが、ギプスの装着率が有意に低かったことが報告されています。しかし、この要因としては、不一致対照郡の馬においては、その病態が球節または冠関節の固定術であったことから、外固定法(External fixation)が積極的に併用されたことが挙げられています。このため、対側肢の蹄葉炎を予防するという目的だけで、罹患肢へのギプス装着を行うことは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。
この症例論文では、負重性蹄葉炎の罹患馬のほうが、対照郡の馬よりも、術後にフェニルブタゾンを投与された期間が有意に長く、フェニルブタゾンの投与日数と蹄葉炎の発症率のあいだには、有意な正の相関(Significant positive correlation)が認められました。しかし、これは、負重性蹄葉炎の罹患馬のほうが跛行症状の持続期間が長かったことに起因すると考えられ、フェニルブタゾンを投与すること自体を、負重性蹄葉炎の危険因子と見なすべきではない、という考察がなされています。
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Peloso JG, Cohen ND, Walker MA, Watkins JP, Gayle JM, Moyer W. Case-control study of risk factors for the development of laminitis in the contralateral limb in Equidae with unilateral lameness. J Am Vet Med Assoc. 1996; 209(10): 1746-1749.
この症例論文では、馬の負重性蹄葉炎(Support laminitis)の発症に関する危険因子(Risk factor)を検討するため、片側跛行(Unilateral lameness)を呈して対側肢(Contralateral limb)に蹄葉炎を起こした20頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。そして、一致&不一致対照馬(Matched/Unmatched control horse)としては、それぞれの患馬の入院前後で同様な病態を呈したものの、対側肢蹄葉炎を続発しなかった馬(=一致対照馬)、および、研究期間内で球節または冠関節の固定術(Fetlock/Pastern arthrodesis)のため長期間の入院を要したものの、対側肢蹄葉炎を続発しなかった馬(=不一致対照馬)が選択され、患馬郡とのデータ比較が行われました。
結果としては、負重性蹄葉炎の罹患馬では、跛行の発現から消失までに平均37.5日間が経過していたのに対して、一致対照郡の馬では、跛行の発現から消失までに平均6.5日間しか経過しておらず、負重性蹄葉炎を起こした馬のほうが、跛行の継続時間が有意に長かったことが示されました。このため、重度の片側跛行を呈した患馬において、跛行が数週間以上に及ぶ場合には、対側肢の負重性蹄葉炎を続発する危険性が高いというデータが示され、内科的療法や装蹄療法などの併用によって、積極的な予防処置(Aggressive preventive measures)を施すことが重要であると考えられました。
この症例論文では、患馬の体重を比較すると、負重性蹄葉炎の罹患馬では平均443kg、一致対照馬では542kg、不一致対照馬では455kgというように、三つの症例郡のあいだに有意差は認められず、体重そのものは蹄葉炎発症の危険因子(Risk factor)とは見なされないことが示唆されました。しかし、過去の文献では、蹄葉炎を発症して生存した馬郡の平均体重(384kg)は、蹄葉炎を発症して安楽死(Euthanasia)となった馬郡の平均体重(473kg)よりも有意に軽かったという報告や(Baxter et al. JAVMA. 1986;189:326)、近位小腸炎(Proximal enteritis)の合併症として起こった両側性蹄葉炎では、体重が550kgを超える馬では、体重が550kg以下である馬に比べて、蹄葉炎を続発する確率が二倍以上も高いという知見も示されています(Cohen et al. JAVMA. 1994;204:250)。
この症例論文では、跛行症状の発現から24時間以内に撮影された側方レントゲン像(Lateral radiographic view)において、蹄骨の回転(Rotation)や沈下(Sinker)の診断が試みられましたが、この際に、蹄骨背側部の軟部組織の厚さ(Thickness of soft-tissue: ST)と蹄骨の掌側皮質骨の長さ(Palmar cortical length: PCL)(=蹄骨尖から蹄関節面までの距離)が測定され、この二つの測定値の比率が算出されました(PCLのうちSTが占める割合)。そして、負重性蹄葉炎の罹患馬では、この比率が全て29%以上であったのに対して、対照馬では、この比率が全て29%未満であったことが報告されています。このため、片側跛行によって対側肢蹄葉炎の危険性がある症例においては、側方レントゲン像上でのST/PCL比率をモニタリングすることで、蹄葉炎の早期発見ができる可能性があると考えられました。
一般的に、沈下型蹄葉炎(Sinker laminitis)では、背側蹄壁と蹄骨が平行関係を保つことから、背側蹄葉組織の厚さが増加していくことで、蹄骨の沈下度合いを判定する必要がありますが、その早期診断は難しい場合もあります。このため、蹄骨背側部の軟部組織の厚さを蹄骨の大きさと比較することで、蹄葉状層の剥離度合いを相対的に評価する手法が有用であると推測されており、この論文ではST/PCL比率が29%を超える場合を蹄葉炎とするカットオフ値が提唱されています。また、一頭の馬の蹄葉炎を経過追跡(Follow-up)する場合には、蹄骨背側部の軟部組織の厚さは、レントゲン撮影の際のフィルムと蹄の距離や蹄とカメラの距離の違いで、かなりの誤差が出るという問題が生じます。しかし、ST/PCL比率を応用する場合には、蹄骨の大きさを対象物として用いることができ、また、STとPCLは同じ正中軸に位置しており、レントゲン手技による測定値の誤差が殆ど生じないため継続的に蹄骨沈下を監視する診断法として有用であると考えられました。
この症例論文では、罹患肢へのギプス装着が行われた馬の割合を見ると、負重性蹄葉炎の罹患馬では35%であったのに対して、不一致対照郡の馬では92%に達しており、蹄葉炎を続発した馬のほうが、ギプスの装着率が有意に低かったことが報告されています。しかし、この要因としては、不一致対照郡の馬においては、その病態が球節または冠関節の固定術であったことから、外固定法(External fixation)が積極的に併用されたことが挙げられています。このため、対側肢の蹄葉炎を予防するという目的だけで、罹患肢へのギプス装着を行うことは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。
この症例論文では、負重性蹄葉炎の罹患馬のほうが、対照郡の馬よりも、術後にフェニルブタゾンを投与された期間が有意に長く、フェニルブタゾンの投与日数と蹄葉炎の発症率のあいだには、有意な正の相関(Significant positive correlation)が認められました。しかし、これは、負重性蹄葉炎の罹患馬のほうが跛行症状の持続期間が長かったことに起因すると考えられ、フェニルブタゾンを投与すること自体を、負重性蹄葉炎の危険因子と見なすべきではない、という考察がなされています。
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