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馬の文献:蹄葉炎(Ritmeester et al. 1998)

「エッグバー・ハートバー蹄鉄の装着と蹄冠の溝削りが行われた慢性蹄葉炎の罹患馬におけるシンティグラフィーによる蹄部循環および蹄壁成長の評価」
Ritmeester AM, Blevins WE, Ferguson DW, Adams SB. Digital perfusion, evaluated scintigraphically, and hoof wall growth in horses with chronic laminitis treated with egg bar-heart bar shoeing and coronary grooving. Equine Vet J Suppl. 1998; (26): 111-118.

この研究論文では、馬の慢性蹄葉炎(Chronic laminitis)に有用な装蹄療法(Shoeing therapy)の手法を評価するため、慢性蹄葉炎に対してエッグバー・ハートバー蹄鉄(Egg bar-heart bar)の装着が行われた五頭の患馬、および、エッグバー・ハートバー蹄鉄の装着と蹄冠の溝削り(Coronary grooving)が行われた五頭の患馬における、核医学検査(Nuclear scintigraphy)を介しての蹄部循環(Digital perfusion)および蹄壁成長(Hoof wall growth)の評価が行われました。

結果としては、エッグバー・ハートバー蹄鉄の装着のみが行われた五頭のうち、四頭(80%)において疼痛症状の改善が見られ、平均跛行グレードは治療前の3.5から、十八週間目には1.9と有意に減少していました。また、治療開始から十八週間目までには、背側蹄葉域の相対的活性(Relative activity in the dorsal laminar area)が有意に増加して、蹄底域の相対的活性は有意に減少していました。このため、慢性蹄葉炎を呈した馬に対しては、エッグバー・ハートバー蹄鉄を用いることで、背側蹄葉組織への血液循環(Dorsal lamina perfusion)を亢進して、跛行の改善、正常な蹄組織の再成長(Regrowth of dorsal lamina tissue)、蹄骨反転(Derotation)などの効能が期待できると考えられました。

一般的に、馬の背側蹄葉組織への血流は、蹄骨の底面縁(Solar edge of distal phalanx)から反回するように走行している回旋動脈(Circumflex artery)から供給されており、慢性蹄葉炎において蹄骨が回転もしくは沈下すると、この動脈を蹄骨端が下方へと圧迫することが知られています。ハートバー蹄鉄の装着では、蹄叉(Frog)の下面に伸展させたアームによって、この蹄骨の落ち込みを物理的に底面側から支持(Solar support)することで、蹄骨端から下方へと掛かる動脈への圧迫力を軽減して、蹄葉組織への血液循環を改善できると考えられています。そして、この研究では、核医学検査を介して、このようなハートバー蹄鉄の効能を証明するデータが示されたと言えます。

一般的に、馬の遠位肢(Distal limb)は球節部で曲がっているため、蹄底支持面の尾側端(Caudal boarder of solar support surface)に当たる蹄球の最後部は、管部からの体重負荷軸(Weight-bearing axis)を垂直に降ろした点よりも前方に位置することになり、球節を過度に沈下させる力を中和するには、深屈腱(Deep digital flexor tendon)や浅屈腱(Superfiicial flexor tendon)などの緊張力が必要となります。エッグバー蹄鉄の装着では、蹄球最後部よりもさらに掌側方向に伸展した蹄鉄を着けることによって、蹄底支持面の尾側端をより後方に伸ばして、これを体重負荷軸を垂直に降ろした点に近づけることで、深屈腱から蹄骨に作用する緊張力を緩和する効果が期待されます。しかし、この研究では、ハートバー蹄鉄とエッグバー蹄鉄が同時に用いられているため、それぞれの蹄鉄の効能を独立して評価することは出来ませんでした。

この研究では、エッグバー・ハートバー蹄鉄の装着と蹄冠の溝削りが施された五頭のうち、三頭(60%)において疼痛症状の改善が見られ、治療開始から十八週間目までには、蹄踵壁と蹄尖壁の成長比率(Heel-toe hoof wall growth ratio)が有意に増加していましたが、蹄葉域や蹄底域の相対的活性は変化していませんでした。このため、慢性蹄葉炎を呈した馬に対しては、蹄冠の溝削りを実施することで、蹄尖壁の成長を促進して(=蹄踵壁と比較した場合の、蹄尖壁の相対的な成長度合いが増加する)、健常な蹄葉組織の再生と蹄骨反転の効果が期待できると考えられました。しかし、上述にある蹄鉄装着のみの治療郡で見られたような、背側蹄葉組織への血流向上が認められておらず、その理由については明瞭には解明されていません。

一般的に、慢性の回転型蹄葉炎(Rotational laminitis)の罹患蹄では、背側蹄冠真皮(Dorsal coronary corium)が蹄壁と蹄骨伸筋突起(Extensor process of the distal phalanx)に挟まれるようにして持続的圧迫(Persistent compression)を受けて、蹄冠虚血(Coronary ischemia)を続発することが知られています。そして、この圧迫を取り除くために、古典的には背側蹄壁除去術(Dorsal hoof wall resection)が試みられてきましたが、この手法では、深刻な蹄壁組織の損失(Considerable loss of hoof capsule)や蹄骨不安定化(Coffin bone instability)を生じて、蹄壁治癒の遅延(Delayed healing of hoof wall)を招く可能性が指摘されています。このため、蹄冠の溝削りの手法では、過度の蹄壁損失を避けつつ、背側蹄冠真皮の圧迫を取り除くことができると仮説されています。しかし、この研究では、核医学検査の所見だけを見ると、蹄冠部への血液循環の向上効果は示されておらず、蹄冠の溝削りが奏功した機序(Mechanism)については、さらなる実験と検討を要すると考察されています。

この研究では、装蹄療法が奏功した馬では、不応性(Refractory)を示した馬に比べて、治療前の核医学検査における背側蹄葉域の相対的活性が有意に高く(=蹄葉への血流がより多く維持されていた)、また、蹄骨の回転度合い(Degree of distal phalanx rotation)は、装蹄療法が奏功した馬では平均9.5度(範囲:5~21度)であったのに対して、不応性を示した馬では平均23.5度(範囲:11~30度)と、有意に大きかったことが報告されています。このため、慢性蹄葉炎の治療に際しては、核医学検査やレントゲン検査における蹄葉組織の血液循環や蹄骨変位度(Displacement of distal phalanx)の測定値が、装蹄療法による治療効果を予後判定(Prognostication)する有用な指標になる可能性が示唆されました。

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