馬の文献:蹄葉炎(Pollitt et al. 1998)
文献 - 2015年11月09日 (月)
「バチマスタットは馬の蹄葉炎におけるマトリックスメタロプロテイナーゼを抑制する」
Pollitt CC, Pass MA, Pollitt S. Batimastat (BB-94) inhibits matrix metalloproteinases of equine laminitis. Equine Vet J Suppl. 1998; (26): 119-1124.
この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の治療および予防に有用な内科的療法を検討するため、正常馬および蹄葉炎の罹患馬から、蹄壁(Hoof wall)、蹄葉真皮(Dermal lamella)、蹄葉表皮(Epidermal lamella)を含む外植片(Explant)を分離培養し、マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinases: MMP)の活性亢進の評価、および、MMP抑制剤であるバチマスタットの添加による、外植片の病態変化が評価されました。
結果としては、正常馬から採取した外植片を、MMP賦活薬であるAPMA(Aminophenylmercuric acetate)を含む溶液の中で培養したところ、MMP2およびMMP9の活性亢進が認められ、蹄葉裂離(Lamina separation)を再現することができたことから、生体外蹄葉炎モデル(In vitro laminitic model)として用いられることが示されました。そして、蹄葉炎の罹患馬から採取した外植片では、MMP2とMMP9の活性亢進が認められました。さらに、APMA含有溶液で培養された正常馬の外植片に、バチマスタットを添加したところ、蹄葉裂離を予防できることが示され、蹄葉炎馬の外植片の培養液にバチマスタットを添加したところ、MMP活性を抑制できることが示されました。これらのデータを総合すると、蹄葉炎の発症に際いては、蹄葉組織内におけるMMP活性が、蹄葉裂離に関与していることが示唆され、このMMP活性を抑制できるバチマスタットの投与によって、馬の蹄葉炎を予防できる可能性があると考えられました。
この研究で認められた、蹄葉炎馬の蹄葉組織におけるMMP活性は、他の文献とも合致しており(Pollitt et al. EVJ. 1996;28:38)、急性蹄葉炎(Acute laminitis)の発現に際して、MMP活性亢進が基底膜退行(Degeneration of basement membrane)を引き起こして蹄葉裂離に至るという、蹄葉炎の病因論のひとつを裏付けるデータが示されたと言えます。しかし、この研究では、MMP抑制剤によって外植片の蹄葉裂離が予防できたものの、この生体外モデルが実際の蹄葉炎における分子遺伝学的な現象(Molecular genetical events)を忠実に再現しているか否かは明確ではなく、MMP活性が初期病態における二次的な変化(Secondary change)であった場合には、例えMMPを抑制しても、蹄葉炎の発症そのものを防ぐことは出来ない可能性もあると考えられました。
この研究では、APMA含有溶液で培養された正常馬の外植片に、バチマスタットを添加した場合にも、MMPの活性自体は抑制されておらず、バチマスタット添加によって蹄葉裂離が予防された効能の、具体的な発現機序(Mechanism of action)は明確には解明されていません。また、この場合にも、組織学的検査(Histological examination)においては、基底膜の部分的な分離(Partial separation)が起こっており、MMP抑制剤の投与によっても、蹄葉組織の退行性変化を完全に防げたわけではない事が示されています。
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Pollitt CC, Pass MA, Pollitt S. Batimastat (BB-94) inhibits matrix metalloproteinases of equine laminitis. Equine Vet J Suppl. 1998; (26): 119-1124.
この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の治療および予防に有用な内科的療法を検討するため、正常馬および蹄葉炎の罹患馬から、蹄壁(Hoof wall)、蹄葉真皮(Dermal lamella)、蹄葉表皮(Epidermal lamella)を含む外植片(Explant)を分離培養し、マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinases: MMP)の活性亢進の評価、および、MMP抑制剤であるバチマスタットの添加による、外植片の病態変化が評価されました。
結果としては、正常馬から採取した外植片を、MMP賦活薬であるAPMA(Aminophenylmercuric acetate)を含む溶液の中で培養したところ、MMP2およびMMP9の活性亢進が認められ、蹄葉裂離(Lamina separation)を再現することができたことから、生体外蹄葉炎モデル(In vitro laminitic model)として用いられることが示されました。そして、蹄葉炎の罹患馬から採取した外植片では、MMP2とMMP9の活性亢進が認められました。さらに、APMA含有溶液で培養された正常馬の外植片に、バチマスタットを添加したところ、蹄葉裂離を予防できることが示され、蹄葉炎馬の外植片の培養液にバチマスタットを添加したところ、MMP活性を抑制できることが示されました。これらのデータを総合すると、蹄葉炎の発症に際いては、蹄葉組織内におけるMMP活性が、蹄葉裂離に関与していることが示唆され、このMMP活性を抑制できるバチマスタットの投与によって、馬の蹄葉炎を予防できる可能性があると考えられました。
この研究で認められた、蹄葉炎馬の蹄葉組織におけるMMP活性は、他の文献とも合致しており(Pollitt et al. EVJ. 1996;28:38)、急性蹄葉炎(Acute laminitis)の発現に際して、MMP活性亢進が基底膜退行(Degeneration of basement membrane)を引き起こして蹄葉裂離に至るという、蹄葉炎の病因論のひとつを裏付けるデータが示されたと言えます。しかし、この研究では、MMP抑制剤によって外植片の蹄葉裂離が予防できたものの、この生体外モデルが実際の蹄葉炎における分子遺伝学的な現象(Molecular genetical events)を忠実に再現しているか否かは明確ではなく、MMP活性が初期病態における二次的な変化(Secondary change)であった場合には、例えMMPを抑制しても、蹄葉炎の発症そのものを防ぐことは出来ない可能性もあると考えられました。
この研究では、APMA含有溶液で培養された正常馬の外植片に、バチマスタットを添加した場合にも、MMPの活性自体は抑制されておらず、バチマスタット添加によって蹄葉裂離が予防された効能の、具体的な発現機序(Mechanism of action)は明確には解明されていません。また、この場合にも、組織学的検査(Histological examination)においては、基底膜の部分的な分離(Partial separation)が起こっており、MMP抑制剤の投与によっても、蹄葉組織の退行性変化を完全に防げたわけではない事が示されています。
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