馬の病気:小結腸便秘
馬の消化器病 - 2013年05月02日 (木)

小結腸便秘(Small colon impaction)について。
硬化した糞便によって小結腸の通過障害(Small colon obstruction)を生じる疾患で、サルモネラ感染に起因する大腸炎(Enteritis)、咀嚼不全(Poor mastication)、飲水不足(Decreased water intake)、腸内寄生虫(Intestinal parasite)、運動不足などが病因として挙げられています。また、有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)による小結腸絞扼(Small colon strangulation)、粘膜下血腫(Submucosal hematoma)、糞石(Fecaliths)、脂肪腫症(Lipomatosis)などに続発する病態も知られています。小結腸便秘は、15歳齢以上の高齢馬に多く見られ、飲水量の減少しがちな秋~冬に掛けての発症率が高いことが報告されています。
小結腸便秘の症状としては、軽度の疝痛(Mild colic)、排便減退(Decreased manure production)、下痢(Diarrhea)、食欲不振(Anorexia)、発熱(Fever)、抑欝(Depression)などが見られ、血液検査では白血球減少症(Leukopenia)を呈します。診断は直腸検査(Rectal examination)によって、小結腸の硬化および膨満を触診することで下されます。多くの症例でサルモネラ症(Salmonellosis)と急性下痢(Acute dirrhea)を併発するため、全ての小結腸便秘の患馬に対して、糞便培養(Fecal culture)を五日連続で実施することが推奨されています。経過が長引いた患馬では、稀に経鼻カテーテルによる胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)を呈する事もあります。
小結腸便秘の治療では、経鼻および経静脈補液療法(Enteral/Intravenous fluid therapy)による再水和(Rehydration)と電解質不均衡(Electrolyte imbalance)の改善を行い、ミネラルオイルや硫酸マグネシウム投与が併用される場合もあります。病態の経過によっては、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)や、サルモネラ抗血清(Antiserum)も用いられます。また、起立位浣腸(Standing enema)と硬膜外麻酔(Epidural anesthesia)を用いて、停滞物の遊離を促す方法もありますが、医原性の結腸外傷(Iatrogenic colon trauma)の危険を考慮して、使用には賛否両論があります。内科療法に不応性(Refractory)を示し、腹腔膨満(Abdominal distension)を呈した場合には、外科治療を応用することが推奨されます。
小結腸便秘の外科的治療では、経直腸ホースから温水を導入しながら、正中開腹術(Midline celiotomy)を介しての便秘部マッサージと腸内容物の遊離が行われます。この際には、小結腸の漿膜損傷(Serosal damage)を軽減するため、マッサージに際しては充分な潤滑剤(Carboxymethylcellulose, etc)を使うことが重要です。外部からのマッサージに不応性の便秘症例では、小結腸切開術(Small colon enterotomy)を介して、停滞物の摘出を要する場合もあります。また、骨盤曲大腸切開術(Pelvic flexure enterotomy)によって、大結腸の内容物除去を行い、術後の小結腸便秘の再発を防ぐことも大切です。便秘部の虚血性壊死(Ischemic necrosis)を続発した場合は、小結腸の切除と吻合術(Small colon resection and anastomosis)が施されます。
小結腸便秘の予後は比較的良好で、八~九割の治癒率が期待できることが示されていますが、殆どの症例において重度の腸管炎症に伴うことから、入院期間は大結腸便秘(Large colon impaction)よりも長期間にわたる場合が多いことが報告されています。便秘の再発(Re-impaction)を予防するため、術後には数週間を掛けて元の飼料内容まで戻すことが推奨されています。
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