馬の文献:蹄葉炎(Ingle-Fehr et al. 1999)
文献 - 2015年11月09日 (月)
「アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの経口投与が健常馬の蹄部および蹄葉血液循環に及ぼす影響」
Ingle-Fehr JE, Baxter GM. The effect of oral isoxsuprine and pentoxifylline on digital and laminar blood flow in healthy horses. Vet Surg. 1999; 28(3): 154-160.
この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の治療および予防に有用な内科的療法を検討するため、六頭の正常馬に対して、アイソクスプリンまたはペントキシフィリンの経口投与(Oral administration)、およびエースプロマジンの経静脈投与(Intravenous injection)における、レーザードップラーを介しての蹄部および蹄葉血液循環(Digital and laminar blood flow)の評価が行われました。
結果としては、アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの経口投与では、蹄部および蹄葉血液循環の上昇は認められなかったのに対して、エースプロマジンの経静脈投与では、投与から15~75分間に掛けて、血液循環の有意な上昇が起こりました。このため、蹄部虚血(Hoof ischemia)が病因で発症したと推測される蹄葉炎に対しては、アイソクスプリンまたはペントキシフィリンの経口投与よりも、エースプロマジンの経静脈投与のほうが、より効果的な蹄葉組織への血流改善効果が期待できることが示唆されました。しかし、この研究のデータは、蹄葉炎に対するアイソクスプリンおよびペントキシフィリンの治療効果を否定するには不十分であり、実際の蹄葉炎の罹患馬における血液循環の改善の有無を検討する必要がある、という考察もなされています。
一般的に、ベータ受容体作動薬(Beta receptor agonist)であるアイソクスプリンは、カルシウムチャンネルを賦活化(Calcium channel activation)することで平滑筋弛緩(Smooth muscle relaxation)を誘導して、末梢血管拡張(Peripheral vasodilator)の効果が期待されます(Matthews et al. AJVR. 1986;47:2130)。また、キサンチン誘導体(Xanthine derivative)であるペントキシフィリンは、リン酸ジエステル加水分解酵素を抑制(Phosphodiesterase inhibition)して、赤血球の柔軟性や変形能(Flexibility and deformability of erythrocytes)を亢進することで、血液粘稠性が上がるのを予防(Inhibiting the elevation of blood viscosity)できることが知られています(Dettelbach et al. J Clin Pharmacol. 1985;25:8)。さらに、アルファ1受容体作動薬(Alpha-1 receptor agonist)であるエースプロマジンは、平滑筋弛緩と末梢血管拡張などの効能から、馬の遠位肢の動脈血流の増加(Increased arterial blood flow)できることが報告されています(Walker et al. AJVR. 1986;47:1075)。
この研究では、アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの全身性投与では、蹄部の血流増加作用は示されていませんが、他の文献では、アイソクスプリンやペントキシフィリンが投与された蹄葉炎や舟状骨症候群(Navicular syndrome)の罹患馬において、疼痛症状の改善が見られたことが報告されています(Turner et al. Mod Vet Prac. 1986;67:24, Turner et al. EVJ. 1989;21:338)。この理由としては、(1)アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの効能は、血液循環改善とは別の機序で発現した、(2)アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの効能は、健常な実験馬では再現できなかった、(3)この研究で用いられた血流の測定法は、アイソクスプリンおよびペントキシフィリンによる血流改善を探知できるほどの感度が無かった、(4)アイソクスプリンおよびペントキシフィリンが経口投与された場合には、血液循環の改善を誘導するのに必要な有効血中濃度まで達しなかった、などの可能性があると考察されています。
この研究では、エースプロマジンの全身性投与によって、蹄部の血流増加作用が示されましたが、これは蹄葉炎の罹患馬を用いた実験ではないため、この研究データのみから、エースプロマジン投与を蹄葉炎の治療薬として推奨するのは適当ではないと考えられ、また、末梢血管拡張の効果持続時間は二時間以下と短く、実際の臨床症例に対しては、十分な血流改善の効果を誘導するためには、極めて頻繁な投与を長期間にわたって継続する必要があると考えられました。さらに、蹄葉炎の罹患蹄において血流減少を引き起こす動静脈シャント(Arteriovenous shunt)は、蹄葉組織の裂離(Lamina tissue separation)を引き起こす直接的な原因ではなく、血液中にある蹄葉炎の引き金因子(Triggering factor)が蹄葉組織に到達しないよう迂回させるという、馬体の防御的な働き(Defensive function)であるという説もあり、蹄葉炎症例に対する血管拡張剤投与の合理性(Rationale)については、賛否両論(Controversy)があります。
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この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の治療および予防に有用な内科的療法を検討するため、六頭の正常馬に対して、アイソクスプリンまたはペントキシフィリンの経口投与(Oral administration)、およびエースプロマジンの経静脈投与(Intravenous injection)における、レーザードップラーを介しての蹄部および蹄葉血液循環(Digital and laminar blood flow)の評価が行われました。
結果としては、アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの経口投与では、蹄部および蹄葉血液循環の上昇は認められなかったのに対して、エースプロマジンの経静脈投与では、投与から15~75分間に掛けて、血液循環の有意な上昇が起こりました。このため、蹄部虚血(Hoof ischemia)が病因で発症したと推測される蹄葉炎に対しては、アイソクスプリンまたはペントキシフィリンの経口投与よりも、エースプロマジンの経静脈投与のほうが、より効果的な蹄葉組織への血流改善効果が期待できることが示唆されました。しかし、この研究のデータは、蹄葉炎に対するアイソクスプリンおよびペントキシフィリンの治療効果を否定するには不十分であり、実際の蹄葉炎の罹患馬における血液循環の改善の有無を検討する必要がある、という考察もなされています。
一般的に、ベータ受容体作動薬(Beta receptor agonist)であるアイソクスプリンは、カルシウムチャンネルを賦活化(Calcium channel activation)することで平滑筋弛緩(Smooth muscle relaxation)を誘導して、末梢血管拡張(Peripheral vasodilator)の効果が期待されます(Matthews et al. AJVR. 1986;47:2130)。また、キサンチン誘導体(Xanthine derivative)であるペントキシフィリンは、リン酸ジエステル加水分解酵素を抑制(Phosphodiesterase inhibition)して、赤血球の柔軟性や変形能(Flexibility and deformability of erythrocytes)を亢進することで、血液粘稠性が上がるのを予防(Inhibiting the elevation of blood viscosity)できることが知られています(Dettelbach et al. J Clin Pharmacol. 1985;25:8)。さらに、アルファ1受容体作動薬(Alpha-1 receptor agonist)であるエースプロマジンは、平滑筋弛緩と末梢血管拡張などの効能から、馬の遠位肢の動脈血流の増加(Increased arterial blood flow)できることが報告されています(Walker et al. AJVR. 1986;47:1075)。
この研究では、アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの全身性投与では、蹄部の血流増加作用は示されていませんが、他の文献では、アイソクスプリンやペントキシフィリンが投与された蹄葉炎や舟状骨症候群(Navicular syndrome)の罹患馬において、疼痛症状の改善が見られたことが報告されています(Turner et al. Mod Vet Prac. 1986;67:24, Turner et al. EVJ. 1989;21:338)。この理由としては、(1)アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの効能は、血液循環改善とは別の機序で発現した、(2)アイソクスプリンおよびペントキシフィリンの効能は、健常な実験馬では再現できなかった、(3)この研究で用いられた血流の測定法は、アイソクスプリンおよびペントキシフィリンによる血流改善を探知できるほどの感度が無かった、(4)アイソクスプリンおよびペントキシフィリンが経口投与された場合には、血液循環の改善を誘導するのに必要な有効血中濃度まで達しなかった、などの可能性があると考察されています。
この研究では、エースプロマジンの全身性投与によって、蹄部の血流増加作用が示されましたが、これは蹄葉炎の罹患馬を用いた実験ではないため、この研究データのみから、エースプロマジン投与を蹄葉炎の治療薬として推奨するのは適当ではないと考えられ、また、末梢血管拡張の効果持続時間は二時間以下と短く、実際の臨床症例に対しては、十分な血流改善の効果を誘導するためには、極めて頻繁な投与を長期間にわたって継続する必要があると考えられました。さらに、蹄葉炎の罹患蹄において血流減少を引き起こす動静脈シャント(Arteriovenous shunt)は、蹄葉組織の裂離(Lamina tissue separation)を引き起こす直接的な原因ではなく、血液中にある蹄葉炎の引き金因子(Triggering factor)が蹄葉組織に到達しないよう迂回させるという、馬体の防御的な働き(Defensive function)であるという説もあり、蹄葉炎症例に対する血管拡張剤投与の合理性(Rationale)については、賛否両論(Controversy)があります。
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