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馬の文献:蹄葉炎(Eastman et al. 1999)

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「深屈腱切断術による馬の慢性蹄葉炎の治療:1988~1997年の35症例」
Eastman TG, Honnas CM, Hague BA, Moyer W, von der Rosen HD. Deep digital flexor tenotomy as a treatment for chronic laminitis in horses: 35 cases (1988-1997). J Am Vet Med Assoc. 1999; 214(4): 517-519.

この症例論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1988~1997年にかけて、慢性蹄葉炎(Chronic laminitis)を呈して、深屈腱切断術(Deep digital flexor tenotomy)による治療が応用された35頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、深屈腱切断術が応用された患馬のうち、六ヶ月以上にわたって生存した馬は77%で、二年以上にわたって生存した馬は59%であったことが示されました。また、29%の症例では、十分な跛行の改善(Sufficient lameness improvement)によって、軽度の騎乗使役(Light riding use)に復帰できたことが報告されています。さらに、馬主またはトレーナーへの聞き取り調査(Survey)では、73%が手術後の治療効果に満足して、将来的に同じような状況ではやはり深屈腱切断術を選択する、という結果が示されました。このため、慢性蹄葉炎を呈した馬に対しては、深屈腱切断術によって良好な予後が期待され、長期生存を果たす馬の割合が比較的に高く、畜主の満足度(Satisfaction)が達成できる場合が多いことが示唆されました。

一般的に、馬の慢性蹄葉炎では、深屈腱の切断術を介して、蹄骨(Distal phalanx: Coffin bone: P3)に掌側方向から掛かる緊張力(Tensile force)を減少することで、疼痛症状の減退(Pain release)や、装蹄療法(Shoeing therapy)による蹄骨反転(P3 derotation)を助ける治療指針が行われています。この症例論文では、86%の症例において、起立位手術(Standing surgery)による管部中央部(At mid-carpal region)での深屈腱切断術が行われ、残りの14%の症例においては、全身麻酔下(Under general anesthesia)での繋部(At pastern)での深屈腱切断術が実施されました。しかし、この二つの術式の選択基準(Selection criteria)、および治療効果や術後合併症(Post-operative complication)の危険性(=蹄関節の亜脱臼、術創感染、etc)などは、統計的には比較されていませんでした。

この症例論文では、生存馬(Survivor)と非生存馬(Non-survivor)のデータを比較した場合、術前の蹄葉炎グレード(=Obel grade)、体重(Body weight)、蹄骨の回転度合い(Degree of distal phalanx rotation)などは、短期および長期生存率(Short/Long-term survival rate)に有意には相関していませんでした。このため、深屈腱切断術における予後判定の指標(Prognostic parameter)は解明されていませんでしたが、他の文献では、患馬の体重、跛行グレード、蹄骨回転角度などが、その予後と負の相関(Negative correlation)を示すことが報告されています。また、この症例論文では、治療法が無作為に選択(Random selection)されたわけではないため、深屈腱切断術が奏功しそうな馬に積極的に応用されたという偏向(Bias)は否定できない(=重度の跛行や蹄骨回転によって予後不良が予測される場合には、始めから切腱術は試みられなかった)と考えられました。

この症例論文では、術前のレントゲン検査によって、全頭が回転型蹄葉炎(Rotational laminitis)を発症していたことが確認されており、沈下型蹄葉炎(Sinker laminitis)の症例は含まれていませんでした。一般的に、シンカー型蹄葉炎は、ローテーション型よりも広範囲にわたる蹄葉組織が損傷されて、蹄骨の急激な遠位変位(Rapid distal displacement)を起こすことから、深屈腱の切断術による治療効果は限定的(Limited therapeutic benefit)であると考えられています。

この症例論文では、生存した患馬のうち、疼痛症状の悪化(Exacerbation)によって二度目の深屈腱切断術を要した馬は一頭のみであったことが報告されています。この症例論文では、馬の蹄葉炎に対する切腱術において、再手術の有用性やタイミング、その術式(切る箇所を変えるか?、二度目は腱切断術[Tenotomy]ではなく腱切除術[Tenectomy]にするか?)などは検討されていませんが、起立位手術を介しての管部中央での深屈腱切断術のほうが、再手術は行い易いという考察がなされています。

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