馬の文献:蹄葉炎(Alford et al. 2001)
文献 - 2015年11月10日 (火)
「馬の蹄葉炎の危険因子に関する複数病院での一致対照症例検討」
Alford P, Geller S, Richrdson B, Slater M, Honnas C, Foreman J, Robinson J, Messer M, Roberts M, Goble D, Hood D, Chaffin M. A multicenter, matched case-control study of risk factors for equine laminitis. Prev Vet Med. 2001; 49(3-4): 209-222.
この症例論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の発病に関与する危険因子(Risk factor)を検討するため、1995~1997年にかけての、複数病院における急性および慢性蹄葉炎(Acute/Chronic laminitis)の一致対照症例検討(Matched case-control study)における医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究では、患馬の年齢が蹄葉炎の危険因子になる傾向が認められ、急性蹄葉炎の患馬では、五歳未満の馬に比べて、5~7歳の馬では五倍近く(オッズ比:4.7)、13~31歳の馬では四倍近くも(オッズ比:3.9)、蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。また、慢性蹄葉炎の患馬では、六歳未満の馬に比べて、10~14歳の馬では三倍(オッズ比:3.0)、15~38歳の馬では三倍近くも(オッズ比:2.9)、蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。このように、急性蹄葉炎の危険因子として、年齢が二峰性様式(Bimodal pattern)を示した要因としては、8~12歳馬が閾値年齢(Threshold age)であった可能性がある、と考察されていますが、詳細な理論的根拠(Rationale)は示されていませんでした。
この研究では、牝馬である場合が蹄葉炎の危険因子になる傾向が認められ、急性蹄葉炎の患馬では、去勢馬(Gelding)に比べて牝馬のほうが、三倍近く(オッズ比:2.6)も蹄葉炎の有病率が高いことが示され、また、慢性蹄葉炎の患馬では、去勢馬に比べて牝馬のほうが、二倍(オッズ比:2.0)も蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。このように、牝馬のほうが蹄葉炎を発症しやすい要因としては、繁殖周期の異常(Abnormal reproductive cycle)によるエストロゲンの高濃度または低濃度状態(Hyper/Hypo-estrogenic states)が挙げられており、また、牧草摂食が蹄葉炎の引き金因子(Laminitis-triggering factor by ingestion of lush grass)による植物エストロゲン配合物(Plant estrogenic compounds)の関与も指摘されています。
この研究では、品種の違いが蹄葉炎の危険因子になる傾向が認められ、慢性蹄葉炎の患馬では、サラブレッドに比べて、ポニーでは九倍以上(オッズ比:9.1)、アパルーサでは五倍以上(オッズ比:5.3)、アラビアンでは五倍近く(オッズ比:4.8)、トロッター&ペイサーでは八倍以上(オッズ比:8.2)、クォーターホースでは三倍以上(オッズ比:3.3)、その他の混血品種でも七倍以上も(オッズ比:7.5)、蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。このように、蹄葉炎がサラブレッド種に起こりにくい要因としては、遺伝的素因(Genetic predisposition)よりも、運動不足やそれに起因する内分泌異常を起こしにくいという運動形式の違いが挙げられています。一方で、蹄葉炎に罹患したサラブレッドは競走使役は困難であるケースが多いため、他の品種に比べて、大病院での診断および治療の対象になる場合が少なかった可能性もある、という考察もなされています。
この研究では、頚部が盛り上がった外観(Cresty neck)が認められたのは、対照郡では1%未満であったのに対して、急性蹄葉炎の患馬では12%、慢性蹄葉炎の患馬では15%と、顕著に高い傾向が見られました。このような頚部の盛り上がりは、蹄葉炎の結果、もしくは蹄葉炎の病因病態の結果として生じる可能性もありますが、脂肪の蓄積(Fat accumulation)は蹄葉炎の発症よりも長時間を要することを考慮すると、馬代謝性症候群(Equine metabolic syndrome)、肥満症(Obesity)、インシュリン耐性(Insulin resistance)、甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)などに起因する臨床症状として発現し、これらの一次性疾患(Primary disorder)から蹄葉炎を続発する場合もあると考察されています。
この症例論文のように、複数病院の医療記録を収集して解析(Multicenter data analysis)した場合には、サンプル数を増やし易いという利点がありますが、一方で、各診療施設における細かい診療方法の違いや、各地域での飼養馬の品種や用途の違い、さらには、各地域の馬社会における経済的状況(Economic status)の相違に起因して、病態分布や治療成績に有意な影響がでることも考えられるため、論文内容の解釈には注意を要すると考えられます。例えば、この症例論文では、含まれた六つの病院のうち五つでは、慢性蹄葉炎のほうが急性蹄葉炎よりも症例数が多いという予測された傾向(Predictable trend)が認められましたが、残りの一つの病院では、急性蹄葉炎の症例のほうが多く(貧しい地域で慢性蹄葉炎の治療費を負担できない畜主が多かった?、この病院での蹄病診療内容が不十分で、慢性蹄葉炎の患馬は他の病院へと紹介されてしまった?)、診療方針の相違や地域偏差(Regional variation)が、データに何らかの影響を与えた可能性は否定できないと考察されています。
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この症例論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の発病に関与する危険因子(Risk factor)を検討するため、1995~1997年にかけての、複数病院における急性および慢性蹄葉炎(Acute/Chronic laminitis)の一致対照症例検討(Matched case-control study)における医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究では、患馬の年齢が蹄葉炎の危険因子になる傾向が認められ、急性蹄葉炎の患馬では、五歳未満の馬に比べて、5~7歳の馬では五倍近く(オッズ比:4.7)、13~31歳の馬では四倍近くも(オッズ比:3.9)、蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。また、慢性蹄葉炎の患馬では、六歳未満の馬に比べて、10~14歳の馬では三倍(オッズ比:3.0)、15~38歳の馬では三倍近くも(オッズ比:2.9)、蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。このように、急性蹄葉炎の危険因子として、年齢が二峰性様式(Bimodal pattern)を示した要因としては、8~12歳馬が閾値年齢(Threshold age)であった可能性がある、と考察されていますが、詳細な理論的根拠(Rationale)は示されていませんでした。
この研究では、牝馬である場合が蹄葉炎の危険因子になる傾向が認められ、急性蹄葉炎の患馬では、去勢馬(Gelding)に比べて牝馬のほうが、三倍近く(オッズ比:2.6)も蹄葉炎の有病率が高いことが示され、また、慢性蹄葉炎の患馬では、去勢馬に比べて牝馬のほうが、二倍(オッズ比:2.0)も蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。このように、牝馬のほうが蹄葉炎を発症しやすい要因としては、繁殖周期の異常(Abnormal reproductive cycle)によるエストロゲンの高濃度または低濃度状態(Hyper/Hypo-estrogenic states)が挙げられており、また、牧草摂食が蹄葉炎の引き金因子(Laminitis-triggering factor by ingestion of lush grass)による植物エストロゲン配合物(Plant estrogenic compounds)の関与も指摘されています。
この研究では、品種の違いが蹄葉炎の危険因子になる傾向が認められ、慢性蹄葉炎の患馬では、サラブレッドに比べて、ポニーでは九倍以上(オッズ比:9.1)、アパルーサでは五倍以上(オッズ比:5.3)、アラビアンでは五倍近く(オッズ比:4.8)、トロッター&ペイサーでは八倍以上(オッズ比:8.2)、クォーターホースでは三倍以上(オッズ比:3.3)、その他の混血品種でも七倍以上も(オッズ比:7.5)、蹄葉炎の有病率が高いことが示されました。このように、蹄葉炎がサラブレッド種に起こりにくい要因としては、遺伝的素因(Genetic predisposition)よりも、運動不足やそれに起因する内分泌異常を起こしにくいという運動形式の違いが挙げられています。一方で、蹄葉炎に罹患したサラブレッドは競走使役は困難であるケースが多いため、他の品種に比べて、大病院での診断および治療の対象になる場合が少なかった可能性もある、という考察もなされています。
この研究では、頚部が盛り上がった外観(Cresty neck)が認められたのは、対照郡では1%未満であったのに対して、急性蹄葉炎の患馬では12%、慢性蹄葉炎の患馬では15%と、顕著に高い傾向が見られました。このような頚部の盛り上がりは、蹄葉炎の結果、もしくは蹄葉炎の病因病態の結果として生じる可能性もありますが、脂肪の蓄積(Fat accumulation)は蹄葉炎の発症よりも長時間を要することを考慮すると、馬代謝性症候群(Equine metabolic syndrome)、肥満症(Obesity)、インシュリン耐性(Insulin resistance)、甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)などに起因する臨床症状として発現し、これらの一次性疾患(Primary disorder)から蹄葉炎を続発する場合もあると考察されています。
この症例論文のように、複数病院の医療記録を収集して解析(Multicenter data analysis)した場合には、サンプル数を増やし易いという利点がありますが、一方で、各診療施設における細かい診療方法の違いや、各地域での飼養馬の品種や用途の違い、さらには、各地域の馬社会における経済的状況(Economic status)の相違に起因して、病態分布や治療成績に有意な影響がでることも考えられるため、論文内容の解釈には注意を要すると考えられます。例えば、この症例論文では、含まれた六つの病院のうち五つでは、慢性蹄葉炎のほうが急性蹄葉炎よりも症例数が多いという予測された傾向(Predictable trend)が認められましたが、残りの一つの病院では、急性蹄葉炎の症例のほうが多く(貧しい地域で慢性蹄葉炎の治療費を負担できない畜主が多かった?、この病院での蹄病診療内容が不十分で、慢性蹄葉炎の患馬は他の病院へと紹介されてしまった?)、診療方針の相違や地域偏差(Regional variation)が、データに何らかの影響を与えた可能性は否定できないと考察されています。
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