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馬の文献:蹄葉炎(Hood et al. 2002)

「馬の蹄葉炎予防のためのユニークジヒドロピリジンの効果」
Hood DM, Brumbaugh GW, Wagner IP. Effectiveness of a unique dihydropyridine (BAYTG 1000) for prevention of laminitis in horses. Am J Vet Res. 2002; 63(3): 443-447.

この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)の治療および予防に有用な内科的療法を検討するため、十六頭の実験馬に対して、糖質過剰給餌によって蹄葉炎を発症させ(Carbohydrate overload inducing laminitis)、血管拡張剤(Vasodilator)であるユニークジヒドロピリジン(Unique dihydropyridine: BAYTG-1000)の経口投与(Oral administration)における、サーモグラフィーを介しての蹄壁表面温度(Hoof wall surface temperature)の評価が行われました。

結果としては、BAYTG-1000投与馬では、対照郡の馬に比べて、跛行(Lameness)の発現前に起こる蹄部低温症(Prodromal hypothermia)が有意に予防され、跛行発現から八時間後における蹄葉炎症状のObelグレード平均値が有意に低かった(投与馬:1.7、対照馬:2.5)ことが示されました。また、跛行発現から三日以内に跛行消失したのは、投与郡では67%であったのに対して、対照郡では17%にとどまりました。このため、馬に対するBAYTG-1000によって、蹄部の血液循環(Blood circulation)の改善と、蹄葉炎の疼痛改善(Pain release)、および跛行症状の早期回復(Rapid resolution of lameness)が期待されることが示唆されました。しかし、跛行を発現した馬の割合は、投与郡および対照郡ともに75%(両群とも八頭中六頭が跛行発現)であったことから、BAYTG-1000投与によって蹄葉炎の発症そのものを予防することは出来ませんでした。

一般的に、ジヒドロピリジンは細胞膜のカルシウムチャンネル遮断剤(Calcium-channel blocker)として作用して、末梢脈管の平滑筋弛緩(Relaxation of peripheral vascular smooth muscle)だけでなく、赤血球の変形能向上(Increasing erythrocyte deformability)、血液粘稠性の低下(Decreasing blood viscosity)、白血球と内皮細胞の癒着抑制(Inhibiting adhesion of leukocytes to endothelial cells)などの効能が期待されます。このため、この論文の実験結果は、エースプロマジン、アイソクスプリン、ペントキシフィリンなどの、他の種類の血管拡張剤投与による蹄葉炎の治療&予防についても、有益なデータを示したと考察されています。

この研究では、蹄部の血液循環を評価するため、蹄壁表面温度の測定のみが行われ、ドップラー検査や造影レントゲン検査(Contrast radiography)による詳細な蹄部血流の検討はなされていませんでした。しかし、他の文献では、実験的に誘導した蹄葉炎において、跛行の発現前には表面温度が低下し(=蹄部虚血:Hoof ischemia)、跛行発現後には表面温度が上昇(=蹄部炎症と再還流:Reperfusion)したことが報告されており(Hood et al. AJVR. 2001;62:1167)、馬の蹄壁の表面温度は、蹄部の血液循環を評価する際に、信頼性のある指標(Reliable parameter)になりうると考察されています。

この研究の最大の限界点としては、蹄葉組織の組織学的検査(Histologic examination)やレントゲン検査が行われていないため、蹄葉裂離(Lamina separation)や蹄骨変位(Displacement of distal phalanx)の有無およびその重篤度は評価されていないことが挙げられます。確かのこの論文の実験結果としては、BAYTG-1000投与によって、蹄部血流および跛行の改善が見られましたが、これだけでは、BAYTG-1000に“有益な効能(Beneficial effect)がある”と結論付けるには、不十分なデータであるような気がします。馬の蹄葉炎には多くの病因論(Etiology)が提唱されており、蹄葉炎の初期に起こる動静脈シャント(Arteriovenous shunt)は、血液中にある蹄葉炎の引き金因子(Triggering factor)を迂回させるための、防御的な働き(Defensive function)であるという仮説もなされています。つまり、例え血管拡張剤によって蹄部虚血と跛行を改善しても、蹄葉炎の病態の本質は解決されておらず、むしろ血管拡張によって多量の蹄葉炎の引き金因子が蹄葉組織へと流入してしまう可能性もあり、現にこの実験では、蹄葉炎の発症率を低下させることは出来ていません。一方で、蹄部の虚血性壊死(Ischemic necrosis)が蹄葉組織の裂離を引き起こす一次的な原因(Primary cause)であったならば、蹄部への血液循環の改善によって、蹄葉炎の発症および病態悪化を防ぐことが出来る可能性もあります。このため、今後の研究では、血管拡張剤の投与によって、組織学的な蹄葉炎病態が予防されたり、蹄葉組織における炎症性遺伝子活性(Inflammatory gene expression)の低下が生じるのを探知することで、その治療効果をより総合的に検討する必要があるのかもしれません。

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