馬の文献:蹄葉炎(van Eps et al. 2004)
文献 - 2015年11月11日 (水)
「馬の蹄葉炎:寒冷療法は急性病変の重篤度を減退させる」
van Eps AW, Pollitt CC. Equine laminitis: cryotherapy reduces the severity of the acute lesion. Equine Vet J. 2004; 36(3): 255-260.
この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に有用な保存性療法(Conservative treatment)を検討するため、六頭の実験馬に対して、糖質過剰給餌によって蹄葉炎を発症させ(Carbohydrate overload inducing laminitis)、一方の前肢蹄を持続的に氷水に漬けることによる寒冷療法(Cryotherapy)を実施して、対側前肢(Contralateral forelimb)の蹄は対照郡(Control group)とし、蹄壁の表面温度(Hoof wall surface temperature)の測定、跛行検査(Lameness examination)、治療開始から48時間後における蹄葉組織の組織学的検査(Histological evaluation)、および二型マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinase-2: MMP-2)の遺伝子活性(Gene expression)の評価が行われました。
結果としては、全ての実験馬において、氷水を用いての寒冷療法によって、十分な蹄壁表面温度の低下が達成され、寒冷療法が実施された前肢には跛行が認められませんでした。そして、蹄葉組織の病変スコアは、寒冷療法が実施された蹄のほうが、対側肢の蹄よりも、有意に低かったことが示されました。このため、内毒素血症(Endotoxemia)の罹患馬などの、蹄葉炎を続発する危険があると予測される症例に対しては、遠位肢の持続的な寒冷療法によって、急性蹄葉炎(Acute laminitis)の予防効果(Prophylactic effect)が期待できることが示唆されました。しかし、この実験では、動物愛護の観点から、寒冷療法は48時間までで終了されていることから、実際の臨床症例において経過が長引いた場合に、二日以上にわたって寒冷療法を実施することの安全性については、更なる検討を要すると考えられました。
この研究では、寒冷療法が実施された前肢のほうが、対側肢の前肢に比べて、蹄葉組織のMMP-2活性が有意に低かったことが示されました。他の文献では、MMP-2活性の亢進が、蹄葉裂離(Lamina separation)につながっている事が示唆されています(Pollitt et al. EVJ Suppl. 1998;26:119, Kyaw et al. EVJ. 2004;36:221)。このため、蹄部の冷却を介しての低代謝状態(Hypometabolism)によって、MMP-2活性が抑制されたことが、急性蹄葉炎の発症を予防できた要因である可能性が示唆されています。しかし、冷却された蹄では、MMP-2だけでなく、他の多くの遺伝子活性が抑制されるため、この実験のデータのみから、MMP-2抑制が寒冷療法の効能機序(Mechanism of action)であると結論付けるのは難しいと考察されています。
この研究では、寒冷療法が実施された前肢における脈管収縮(Vasoconstriction)を介して、血液中の引き金因子(Triggering factor)が蹄葉組織に流れ込むのを減退できたことが、寒冷療法によって蹄葉炎が予防できたひとつの要因である可能性が指摘されています。しかし、この研究では、蹄部への血流度合いは測定されておらず、遠位肢が氷水に漬けられていることから、蹄壁表面温度も血液循環(Blood circulation)の指標とはなりえず、寒冷療法によって臨床的に有意な脈管収縮が誘導できたか否かは、詳細には検討されていません。
この研究では、寒冷療法を終了した後における蹄壁温度の推移は報告されておらず、蹄を冷やすのを止めた後に、末端低温状態(Digital hypothermia)から回復するための反跳的な脈管拡張(Rebound vasodilation)によって、蹄温上昇が起こるのか否かは評価されていませんでした。このため、実際の臨床症例に対する寒冷療法において、蹄部の冷却を止める適切なタイミング(内毒素血症の改善した直後に寒冷療法を止めて良いのか?その後も蹄部冷却を少し続けたほうが良いのか?)については、更なる検討を要すると考えられました。
この研究の限界点(Limitation)としては、対照郡として別の馬を用いず、同じ馬の対側肢を対照郡として使用していることが挙げられ、つまり、この対側肢に起こった蹄葉炎によって中程度~重度の跛行(Moderate to severe lameness)が生じたことによって、寒冷療法が実施されたほうの前肢に軽度の疼痛(Mild pain)が生じていたとしても、見た目上の跛行症状は覆い隠されてしまった可能性があります。
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van Eps AW, Pollitt CC. Equine laminitis: cryotherapy reduces the severity of the acute lesion. Equine Vet J. 2004; 36(3): 255-260.
この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に有用な保存性療法(Conservative treatment)を検討するため、六頭の実験馬に対して、糖質過剰給餌によって蹄葉炎を発症させ(Carbohydrate overload inducing laminitis)、一方の前肢蹄を持続的に氷水に漬けることによる寒冷療法(Cryotherapy)を実施して、対側前肢(Contralateral forelimb)の蹄は対照郡(Control group)とし、蹄壁の表面温度(Hoof wall surface temperature)の測定、跛行検査(Lameness examination)、治療開始から48時間後における蹄葉組織の組織学的検査(Histological evaluation)、および二型マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinase-2: MMP-2)の遺伝子活性(Gene expression)の評価が行われました。
結果としては、全ての実験馬において、氷水を用いての寒冷療法によって、十分な蹄壁表面温度の低下が達成され、寒冷療法が実施された前肢には跛行が認められませんでした。そして、蹄葉組織の病変スコアは、寒冷療法が実施された蹄のほうが、対側肢の蹄よりも、有意に低かったことが示されました。このため、内毒素血症(Endotoxemia)の罹患馬などの、蹄葉炎を続発する危険があると予測される症例に対しては、遠位肢の持続的な寒冷療法によって、急性蹄葉炎(Acute laminitis)の予防効果(Prophylactic effect)が期待できることが示唆されました。しかし、この実験では、動物愛護の観点から、寒冷療法は48時間までで終了されていることから、実際の臨床症例において経過が長引いた場合に、二日以上にわたって寒冷療法を実施することの安全性については、更なる検討を要すると考えられました。
この研究では、寒冷療法が実施された前肢のほうが、対側肢の前肢に比べて、蹄葉組織のMMP-2活性が有意に低かったことが示されました。他の文献では、MMP-2活性の亢進が、蹄葉裂離(Lamina separation)につながっている事が示唆されています(Pollitt et al. EVJ Suppl. 1998;26:119, Kyaw et al. EVJ. 2004;36:221)。このため、蹄部の冷却を介しての低代謝状態(Hypometabolism)によって、MMP-2活性が抑制されたことが、急性蹄葉炎の発症を予防できた要因である可能性が示唆されています。しかし、冷却された蹄では、MMP-2だけでなく、他の多くの遺伝子活性が抑制されるため、この実験のデータのみから、MMP-2抑制が寒冷療法の効能機序(Mechanism of action)であると結論付けるのは難しいと考察されています。
この研究では、寒冷療法が実施された前肢における脈管収縮(Vasoconstriction)を介して、血液中の引き金因子(Triggering factor)が蹄葉組織に流れ込むのを減退できたことが、寒冷療法によって蹄葉炎が予防できたひとつの要因である可能性が指摘されています。しかし、この研究では、蹄部への血流度合いは測定されておらず、遠位肢が氷水に漬けられていることから、蹄壁表面温度も血液循環(Blood circulation)の指標とはなりえず、寒冷療法によって臨床的に有意な脈管収縮が誘導できたか否かは、詳細には検討されていません。
この研究では、寒冷療法を終了した後における蹄壁温度の推移は報告されておらず、蹄を冷やすのを止めた後に、末端低温状態(Digital hypothermia)から回復するための反跳的な脈管拡張(Rebound vasodilation)によって、蹄温上昇が起こるのか否かは評価されていませんでした。このため、実際の臨床症例に対する寒冷療法において、蹄部の冷却を止める適切なタイミング(内毒素血症の改善した直後に寒冷療法を止めて良いのか?その後も蹄部冷却を少し続けたほうが良いのか?)については、更なる検討を要すると考えられました。
この研究の限界点(Limitation)としては、対照郡として別の馬を用いず、同じ馬の対側肢を対照郡として使用していることが挙げられ、つまり、この対側肢に起こった蹄葉炎によって中程度~重度の跛行(Moderate to severe lameness)が生じたことによって、寒冷療法が実施されたほうの前肢に軽度の疼痛(Mild pain)が生じていたとしても、見た目上の跛行症状は覆い隠されてしまった可能性があります。
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