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馬の文献:蹄葉炎(McGuigan et al. 2005)

「健常なポニーまたは蹄葉炎から蹄骨回転を起こしたポニーにおける蹄力学と深屈腱に掛かる力」
McGuigan MP, Walsh TC, Pardoe CH, Day PS, Wilson AM. Deep digital flexor tendon force and digital mechanics in normal ponies and ponies with rotation of the distal phalanx as a sequel to laminitis. Equine Vet J. 2005; 37(2): 161-165.

この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に有用な装蹄療法(Conservative treatment)の手法を検討するため、六頭の健常なポニー、および、蹄葉炎による蹄骨回転(Distal phalanx rotation)を起こした六頭のポニーに対して、運動学的歩様解析(Kinematic gait analysis)と力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)を行い、その測定値に基づいて深屈腱(Deep digital flexor tendon)に掛かる緊張力(Tensile force)が推定されました。

結果としては、荷重初期相(Early stance phase)における深屈腱に掛かる緊張力は、健常ポニーでは1.92N/kgであったのに対して、蹄葉炎ポニーではゼロN/kgで、これは蹄葉組織の裂離(Lamina separation)によるものと考えられました。しかし、荷重後期相(Late stance phase)における緊張力は、健常ポニーでは10.0N/kgであったのに対して、蹄葉炎ポニーでは6.4N/kgとそれなりに高く、この緊張力のピークは荷重後期相のかなり終わりのほう(荷重期全体の79%の箇所)であったことが報告されています。このため、蹄骨と蹄壁が裂離してしまった蹄葉炎馬の蹄葉組織に対しても、荷重後期相にはかなりの負荷が掛かっていることが示唆され、蹄葉組織の治癒遅延(Delayed healing)を予防するためにも、荷重後期相において深屈腱に掛かる緊張力を減退させるため、蹄尖の短縮(Toe shortening)によって蹄反回(Hoof break-over)を容易にする装蹄療法が有効であると考えられました。

この研究では、蹄葉炎に罹患したポニーでは、6~13度の蹄骨回転が生じており、蹄関節(Coffin joint)を回転軸、深屈腱付着部(DDFT insertion)を力の作用点とした場合の、モーメントアーム(Moment arm:回転軸と力の作用点までの距離)は約20mmであったため、10度の蹄骨回転で生じる深屈腱短縮は約4mmであると計測されます。深屈腱は蹄骨付着部である遠位端から、支持靭帯(Check ligament)によって第三中手骨(Third metacarpal bone)に付着している箇所まで約30mmであることから、4mmの違いは1.3%の歪み(Strain)の減少につながります。通常の深屈腱への緊張は、歪み1%当たり1800Nであるため、1.3%の歪み減少は、2340Nの緊張低下につながります。この研究では、荷重中間期相における緊張力は8N/kgであり、体重300kgのポニーでは、2400Nに相当することを考えると、蹄骨回転に起因する深屈腱の全長短縮が、蹄葉組織に掛かる緊張度の低下分の殆どすべてをもたらしたと推測されています。

この研究では、蹄葉炎の罹患馬において、蹄尖の短縮する削蹄法(Hoof trimming)によって、深屈腱の緊張を減退させることの有用性が示唆されましたが、これらの六頭のポニーにおいて、蹄尖短縮を施した後の歩様解析は行われていません。このため、蹄葉組織に掛かる緊張を有意に低下させるためには、どのくらい蹄尖を短くすれば良いのかは検討されておらず、また、“適切な蹄尖短縮”の度合いは、蹄骨回転の角度に比例するのか否かは、詳細には評価されていません。このため、今後の研究では、蹄葉炎の罹患蹄のレントゲン像に基づいて、後退させた蹄尖の位置と、深屈腱への緊張力の減退度合いの相関関係を調査することで、適切かつ効能のある装蹄療法の実施指針を確立する必要があると言えます。また、蹄尖短縮と他の装蹄療法(蹄踵伸長や蹄踵挙上など)の相乗効果(Synergistic effect)についても、更なる検討を要すると言えるのかもしれません。

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