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馬の文献:蹄葉炎(Parsons et al. 2007)

「馬の入院時における急性蹄葉炎の発症に関わる危険因子:1997~2004年の73症例」
Parsons CS, Orsini JA, Krafty R, Capewell L, Boston R. Risk factors for development of acute laminitis in horses during hospitalization: 73 cases (1997-2004). J Am Vet Med Assoc. 2007; 230(6): 885-889.

この症例論文では、馬の急性蹄葉炎(Acute laminitis)の発症に関わる危険因子(Risk factors)を評価するため、1997~2004年にかけて、入院時(During hospitalization)に蹄葉炎を発症した73頭の患馬、および、同時期の入院馬で蹄葉炎を発症しなかった146頭の対照馬(Control horses)の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、蹄葉炎の罹患馬では内毒素血症(Endotoxemia)を呈したのは47%(34/73頭)にのぼったのに対して、対照馬では内毒素血症を呈したのは8%(11/146頭)にとどまりました。そして、多因子ロジスティック回帰解析(Multivariate logistic regression analysis)の結果では、内毒素血症を起こした症例では、起こさなかった症例に比べて、蹄葉炎を発症する可能性が五倍も高くなることが示されました(オッズ比:5.0)。馬の内毒素血症では、全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome)や多臓器機能不全症候群(Multiple organ dysfunction syndrome)などが誘導されて、急性蹄葉炎を続発する危険性が高くなることが知られており(Moore et al. AJVR. 1979;40:722, Hunt et al. AJVR. 1990;51:1703, Mallem et al. AJVR. 2003;64:708, Menzies et al. EVJ. 2004;36:273)、今回の研究結果では、それを裏付けるデータが示されたと言えます。

このため、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、高体温(Hyperthermia)、粘膜うっ血(Congested mucous membrane)、毛細血管再充満時間の遅延(Prolonged capillary refilling time)などの、内毒素血症が疑われる症状が認められた患馬に対しては、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与による内毒素誘導性炎症の抑制(Inhibition of endotoxin-induced inflammation)、ヘパリン投与による血液凝固障害(Coagulopathy)の改善、ハイドロキシルラディカル捕捉剤(Hydroxyl radical scavenger)であるDMSOの投与による活性酸素種の除去、蹄部の寒冷療法(Foot cryotherapy)等によって、蹄葉炎の積極的な予防処置(Aggressive preventive measures)に努めることが重要であることが示唆されました。一方、この研究では、蹄葉炎の罹患馬と対照馬のあいだにおける治療法の違いは検討されておらず、内毒素血症を呈した対照郡(=内毒素血症は起こしたが蹄葉炎は防げたケース)の馬において、どの種類の治療法が蹄葉炎予防に有用であったのかは、詳細には解明されていません。

この研究では、単因子ロジスティック回帰解析(Univariate logistic regression analysis)の結果から、蹄葉炎を発症する可能性が、疝痛治療のための腹腔手術(Abdominal surgery for colic)が応用された症例では三倍近く(オッズ比:2.9)、間質性肺炎(Interstitial pneumonia)または気管支肺炎(Bronchopneumonia)を起こした症例では三倍以上(オッズ比:3.2)、下痢(Diarrhea)を起こした症例では五倍以上(オッズ比:5.1)、静脈炎&動脈炎(Phlebitis/Arteritis)などの脈管異常(Vascular abnormalities)を起こした症例では五倍以上(オッズ比:5.3)も高くなることが示されました。これらの病態では、原発疾患(Primary disorders)から全身性炎症反応を引き起こしたり、合併症(Complication)として内毒素血症を併発するケースが多いことが、急性蹄葉炎を発症する危険因子となることにつながった、と考察されています。

この研究では、単因子ロジスティック回帰解析の結果から、最大血中フィブリノーゲン濃度(Highest fibrinogen concentration)が10mg/dl増加する毎に、蹄葉炎を発症する危険性が2%増すことが示され(1mg/dl毎のオッズ比:1.002)、また、PCV値が1%増加する毎に、蹄葉炎を発症する危険性が10%増すことが示されました(1%毎のオッズ比:1.1)。このため、入院馬の血液検査において、フィブリノーゲン濃度やPCVなどの測定値が、蹄葉炎の合併症における予後判定の指標(Prognostic indicator)として有用である可能性が示唆されました。

この研究では、下垂体中葉の機能異常(Pituitary pars intermedia dysfunction:いわゆるクッシング病)の有病率(Prevalence)は、蹄葉炎の罹患馬と対照馬のあいだで有意差は無く、ACTH(Adrenocorticotropin)の過剰分泌と循環コルチゾル濃度(Circulating cortisol concentration)の上昇が、蹄葉炎の危険因子になるというデータは示されませんでした。しかし、この研究では、クッシング病を呈した馬のサンプル数が少なく、また、下垂体中葉機能の診断では、ACTH、コルチゾル、インスリンの基底濃度(Basal concentration)の測定のみが行われ、デキサメサゾン抑制試験(Dexamethasone suppression test)(=馬のクッシング病における最も基準となる検査法:Gold standard)や、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(Thyrotropin-releasing hormone)の刺激試験(Stimulation test)などは実施されていませんでした。

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