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馬の文献:蹄葉炎(Brown et al. 2008)

「健常馬および蹄葉炎の罹患馬に対する成長ホルモン放出ホルモンのプラスミド療法の効果と予備研究」
Brown PA, Bodles-Brakhop A, Draghia-Akli R. Plasmid growth hormone releasing hormone therapy in healthy and laminitis-afflicted horses-evaluation and pilot study. J Gene Med. 2008; 10(5): 564-574.

この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に対する有用な内科的療法を検討するため、健常馬(Healthy horses)および蹄葉炎の罹患馬(Laminitis-afflicted horses)に対して、頚部への成長ホルモン放出ホルモン(Growth hormone releasing hormone: GHRH)のプラスミドの筋肉内投与(Intra-muscular administration)と、その箇所への電気穿孔法(Electroporation)を介しての遺伝子療法(Gene therapy)によるGHRH分泌を促し、その後の体重、跛行(Lameness)、血液検査などの評価が行われました。

結果としては、六頭の健常馬に対するGHRHのプラスミド療法では、治療後の四ヶ月~六ヶ月目までに、有意な体重増加(Weight gain)、赤血球生成の亢進(Increased erythrocyte production)、インスリン様成長因子濃度(Concentration of insulin-like growth factor: IGF)の上昇などが認められました。また、四頭の蹄葉炎の罹患馬のうち、GHRHのプラスミド療法が実施された二頭では、対照郡の二頭に比べて、有意な体重増加を示し、治療開始から六ヶ月目までには、有意な炎症低下(Significant reduction of inflammation)と跛行の改善(Lameness improvement)が認められました。このため、馬に対するGHRHのプラスミド療法によって、蹄葉炎の治療効果が期待できると考察されています。

この論文では、馬の蹄葉炎に対するGHRHプラスミド療法の効能が評価されましたが、試験方法には多くの問題点があります。まず、プラスミド療法の効能を証明する生体外実験(In vitro experiment)は、ネズミの筋肉細胞を使用して行われているだけで、馬の培養細胞は用いられておらず、この結果からどうやって馬に対する生体内実験(In vivo experiment)へと進むことを正当化できたのか分かりません。また、健常馬に対する実験では、対照郡(プラスミド注射なしで電気穿孔する、プラスミド注射して電気穿孔しない、etc)との比較が行われていないため、体重増加や赤血球およびIGFの生成亢進などの変化が、本当にプラスミド療法による治療効果なのか、単に実験に用いられた馬が成長する過程で生じたものなのかは不明です。また、治療箇所の組織における遺伝子活性(Gene expression)は解析されておらず、本当にプラスミド療法によってGHRH分泌が誘導されたのかすらハッキリしません。

また、四頭の蹄葉炎の罹患馬に対する実験では、更に多くの問題点が見られます。この論文内で示されている、治療前と治療後のレントゲン像では、蹄骨回転(Distal phalanx rotation)がやや改善している傾向が見られるものの、レントゲン検査だけでどうやって“炎症の減退”が評価できたのかは不明ですし、“有意な”という表現を裏付けするP値は記述されていません。また、力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)で評価された“有意な”跛行改善についても、両前肢への荷重分布特性(Load distribution profiles)が治療後に改善されたと述べられているのみで、そのP値が記述されていないばかりか、歩様解析や跛行に関するいかなるデータやグラフも示されていません。さらに、プラスミド療法が応用された二頭の罹患馬が、“放牧地での正常歩様”(Pasture soundness)まで回復したという記述に関しても、正常な歩様の定義となる跛行グレード等のデータは示されていません。その上、治療郡と対照郡がそれぞれ二頭ずつというサンプル数について、実験の検出力(Statistical power)や正当な標本サイズ(Appropriate sample size)に関する考察はなされておらず、また、これら四頭の蹄葉炎の病態が、実験前には“類似した”重篤度(Similar severity)であった、という記述を裏付けるデータ(レントゲン検査、跛行検査、etc)も示されていません。

一般的に、遺伝子治療(Gene therapy)における治療遺伝子導入(Therapeutic gene transduction)においては、様々な種類のウイルス性および非ウイルス性の媒介物(Viral/Non-viral vectors)が応用されています。このうち、プラスミドと電気穿孔による遺伝子導入は、電気的な刺激(Electric stimulation)によって細胞膜表面の細孔(Cell membrane pore)を開口させて、プラスミドに組み込まれた治療用の遺伝子を細胞内に流入させる手法で、非ウイルス性の遺伝子導入法に分類されます。この手法は、特定のウイルスを用いた遺伝子導入に比べて、コストが安く安全性が高いという長所がある反面、遺伝子導入の効率(Transduction efficiency)が低く、治療遺伝子の効能期間(Effective time length)も短いという短所があります。今回の論文でも、プラスミドの筋肉内投与とその後の電気穿孔術による、局所的および全身的な副作用(Local/Systemic adverse effect)は認められていませんでした。

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