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馬の文献:蹄葉炎(van Eps et al. 2009)

「馬の蹄葉炎モデル:寒冷療法はオリゴ糖投与から七日目の病巣重篤度を減退させる」
van Eps AW, Pollitt CC. Equine laminitis model: cryotherapy reduces the severity of lesions evaluated seven days after induction with oligofructose. Equine Vet J. 2009; 41(8): 741-746.

この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に有用な内科的療法を検討するため、十八頭の実験馬を用いて、最初の六頭に対しては、全肢蹄への寒冷療法(Cryotherapy)を72時間にわたって実施し(蹄葉炎なし+寒冷療法)、次の六頭には、オリゴ糖給餌によって蹄葉炎を発症(Oligofructose inducing laminitis)させてから寒冷療法を実施し(蹄葉炎+寒冷療法)、最後の六頭に対しては、オリゴ糖給餌によって蹄葉炎を発症させてから無治療(蹄葉炎+寒冷療法なし)とし、これらの三郡の馬における、蹄壁の表面温度(Hoof wall surface temperature)の測定、跛行検査(Lameness examination)、レントゲン検査(Radiography)、治療開始から七日目における蹄葉組織の組織学的検査(Histological evaluation)が行われました。

結果としては、跛行症状が認められたのは、蹄葉炎+寒冷療法なしの馬では100%(6/6頭)であったのに対して、蹄葉炎+寒冷療法の馬では50%(3/6頭)であったことが示されました。また、レントゲン検査での背側蹄壁から蹄骨までの距離(Dorsal hoof wall distal phalanx distance)は、蹄葉炎+寒冷療法なしの馬では有意に増加していたのに対して、蹄葉炎+寒冷療法の馬では変化していませんでした。さらに、蹄葉組織の組織学的検査において、蹄葉炎+寒冷療法なしの馬では、その全頭が蹄葉炎の発症を示唆する病理所見を示し、これには、蹄表皮基底細胞の円形“島状”塊形成(Circular island formations of epidermal basal cells)や、中間層との境界における一次蹄表皮と二次蹄表皮の剥離(Detachment of primary epidermal lamella at the junction of stratum medium from secondary epidermal lamella)などが含まれました。一方、蹄葉炎+寒冷療法の馬では、二次蹄表皮における軽度の伸長化とその尖端の先鋭化(Mild elongation and pointing of secondary epidermal lamella tips)を除けば、蹄葉炎の発症を示唆する病理所見は認められませんでした。このため、消化器疾患(Alimentary disorders)に伴う内毒素血症(Endotoxemia)の罹患馬などの、蹄葉炎を続発する危険があると予測される症例に対しては、遠位肢の持続的な寒冷療法によって、蹄葉炎の予防効果(Prophylactic effect)が期待できることが示唆されました。

この研究では、実験馬を枠場に入れ、水槽に四肢を浸し、この水槽の水を冷蔵装置から還流させることで、全肢蹄への寒冷療法が実施され、治療時間中には蹄壁表面温度を1.8~3.6度のあいだに保つことが出来たことが報告されています。水槽を用いたこの手法では、蹄部を氷水に浸す方法に比べて、水温が一定であり、蹄部が冷たくなり過ぎる危険がないという利点が指摘されています。また、馬が肢を動かし易くいため、長時間にわたる寒冷療法によってもストレスが少なく、さらに、定期的な蹄部のモニタリングや蹄叉支持具(Frog support)の交換なども行いやすいと考えられました。しかし、馬は枠場の中に立たされているため、遠位肢に氷水バッグを装着させた場合と異なり、患馬が自発的に寝起きするのを妨げる可能性もあると推測されています。

この研究では、蹄葉炎なし+寒冷療法の馬では、六頭中の一頭が速歩時に軽度の跛行症状(Mild lameness at trot)を示したものの、レントゲン検査や蹄葉組織の組織学的検査における異常所見は認められず、持続的な寒冷療法の安全性(Safety of prolonged cryotherapy)を証明するデータが示されたと考察されています。このため、蹄葉炎を続発する危険性が僅かに疑われるのみの症例に対しても、積極的な予防処置(Aggressive preventive measure)として寒冷療法を行うことが推奨できると言えます。また、内毒素血症に伴う蹄葉炎などが寒冷療法によって予防できた症例においても、内毒素血症の見た目の症状が回復した後にも、寒冷療法をすぐに止めず、ある程度の期間は継続することで、不症候性の内毒素血症(Asymptomatic endotoxemia)に起因する蹄葉炎を防ぐ効能も期待できると考えられました。

この研究で認められた、蹄部の寒冷療法による蹄葉炎の予防効果は、同筆者の他の文献でも示されており(Van Eps et al. EVJ. 2004;36:255)、今回の実験では、治療期間を48時間から72時間に増やしても、安全に蹄部の冷却が実施できたこと、および、オリゴ糖投与から七日間という十分な期間を置いてからレントゲン検査および組織学的検査が行われたことで、負の対照郡(Negative control group:蹄葉炎+寒冷療法なし)における蹄葉炎病態の発生が明瞭に示され、有意な寒冷療法の効能を示唆するデータが導き出されました。一方、今回の実験では、前述の文献で行われたような、蹄葉組織における二型マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinase-2: MMP-2)の遺伝子活性(Gene expression)の評価などはなされておらず、寒冷療法による効能の作用機序(Mechanism of action)については、明瞭には検討されていませんでした。

この研究では、より客観的な跛行検査のため、各実験馬の歩様をビデオに撮って、盲検法(Blinded evaluation)による跛行グレード化が行われました。そして、各馬のグレードには、明らかな観察者間変動(Inter-observer variability)が認められ、複数の検査者による盲目的検査法の重要性が再確認される結果が示されました。一方で、肉眼で行う跛行検査に比べて、ビデオ映像による跛行検査における、信頼性および反復率(Reliability and repeatability)の低さについては考察されていません。

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