馬の文献:蹄葉炎(O'Grady. 2010)
文献 - 2015年11月15日 (日)
「慢性蹄葉炎の装蹄法」
O'Grady SE. Farriery for chronic laminitis. Vet Clin North Am Equine Pract. 2010; 26(2): 407-423.
この総説論文では、馬の慢性蹄葉炎(Chronic laminitis)に対する装蹄法(Farriery)が解説されています。
慢性蹄葉炎は、蹄葉組織の力学的崩壊(Mechanical collapse)と蹄骨変位(Displacement of distal phalanx)として定義され、その変位形式としては、回転型(Rotation)、沈下型(Sinker)、内外側回転型(Mediolateral rotation: Asymmetric distal displacement)の三種類が上げられています。馬の慢性蹄葉炎に対する装蹄療法においては、蹄内での蹄骨の安定化(Stabilization)、疼痛制御(Pain control)、蹄骨と蹄葉組織の健常関係を取り戻すことによる蹄成長の促進(Encourage new hoof growth)、の三つの指針が有効です。そして、それを達成するための原則(Principle)としては、(1)荷重可能な全ての蹄底支持面を導入すること、(2)適切な蹄反回(Appropriate breakover)を促すこと、(3)必要に応じて蹄踵挙上(Heel elevation)すること、などが挙げられています。
慢性蹄葉炎における削切では、蹄底面(Ground surface of hoof capsule)と蹄骨下面(Solar surface of distal phalanx)を再整列(Realignment)させることが重要で、このための適切な装蹄方針を決定するためには、側方からのレントゲン像が必須となります。蹄底面と蹄骨下面がなす角度は、2~5度が正常で、蹄骨尖の位置(蹄骨尖から新たな蹄底面へと垂直に降ろした線と、新たな蹄底面を示す線の交差点)から蹄底背側点(=反回点)までの距離は、15~20mmが正常です。しかし、蹄底の厚さ(蹄骨下面からの蹄底までの距離)は15~20mmは必要であるため、重度の蹄骨回転を起こした症例では、段階を追って再整列化を達成する治療指針が重要です。
削切に際しては、まず蹄叉を低く削ってから、蹄底の幅が最大になる箇所(Widest part of hoof sole)に横線を引きますが、この箇所は再整列のための新たな蹄底面の最前部になることが多いことが知られています。そして、この線から掌側の蹄踵を削切していきますが、この際には、蹄踵と蹄叉が同じ高さになることが理想と言われています。一方で、新たな蹄底面を確立するため蹄踵を削切しすぎると、深屈腱から掛かる緊張力(Tensile force)が増加するというジレンマもあります。
慢性蹄葉炎においては、削切のみでの治療が可能な症例もありますが、蹄鉄が装着される場合には、反回点の位置、蹄叉支持の有無および種類、蹄踵挙上の度合い、などを考慮する必要があります。正常な反回点の位置は、レントゲン像上における、蹄骨尖の位置(蹄骨尖から新たな蹄底面へと垂直に降ろした線と、新たな蹄底面を示す線の交差点)から背側へ6~9mmとされています。また、目標となる背側蹄壁を示した線(背側蹄骨面から15~18mmの平行線)を下ろし、この線と新たな蹄底面を示す線の交差点を新たな蹄尖の位置とし、この位置よりも反回点が掌側に来ないようにすることが重要です。蹄叉支持の必要性は、各症例の疼痛症状の重篤度によって異なりますが、衝撃吸収(Absorption of concussion)のためのクッション性素材の蹄叉支持具を、蹄鉄と蹄底のあいだに充填される症例が殆どです。蹄踵挙上は、常歩時に蹄尖から踏着する症例に対して有効であると提唱されており、蹄鉄装着後の蹄の踏み方で、2~6度の範囲で蹄踵挙上を施します。しかし、行き過ぎた蹄踵挙上は、蹄踵拘縮(Heel contracture)を引き起こすため、その度合いは最小限に抑えるべきである、という警鐘が鳴らされています。
慢性蹄葉炎に対する装蹄療法では、様々なタイプの蹄鉄が使用されており、それぞれの効能は各症例の病態や重篤度によって異なります。WWA蹄鉄(Wide Web Aluminum shoe)は、最もシンプルかつ基本的で、安価な蹄鉄のひとつで、蹄尖短縮および蹄踵伸長のデザインを持ち、装蹄グルーによって接着することも可能です。蹄踵挙上は、ゴム製のレイルを挿入することで達成され、蹄鉄と蹄底のあいだにパッドをはさむことで、蹄叉支持具を装着することもできます。また、EDSS蹄鉄(Equine Digital Support System)という同様のシステムも市販されています。一方、スチュワード木靴は、安価な合板(Plywood)を用いて作成され、蹄尖短縮、蹄踵伸長、蹄踵挙上などに適したデザインへの加工が容易で、蹄底支持面を拡大して、蹄底面に均一に荷重させることができるという利点があります。
内外側回転型の蹄葉炎は、それほど頻繁に見られる病態ではありませんが、レントゲン検査での背掌側撮影像(Dorso-palmar view)によって診断が下され、その殆どが内側蹄骨の遠位変位(Distal displacement of medial coffin bone)を示し、内側蹄壁の成長不全(Lack of medial hoof wall growth)を呈する症例も見られます。装蹄療法としては、罹患側への過剰な荷重を軽減するため、対軸側の蹄側壁を伸長(Extension of contraaxial hoof wall)する手法(内側蹄骨の遠位変位の場合には、外側の蹄側壁の伸長)が試みられます。また、ゴム製レイルを片軸性に挿入(Uniaxial installation)することで、罹患側の蹄踵のみを挙上(Uniaxial heel elevation on affected side)する手法も有効であると考えられています。
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慢性蹄葉炎は、蹄葉組織の力学的崩壊(Mechanical collapse)と蹄骨変位(Displacement of distal phalanx)として定義され、その変位形式としては、回転型(Rotation)、沈下型(Sinker)、内外側回転型(Mediolateral rotation: Asymmetric distal displacement)の三種類が上げられています。馬の慢性蹄葉炎に対する装蹄療法においては、蹄内での蹄骨の安定化(Stabilization)、疼痛制御(Pain control)、蹄骨と蹄葉組織の健常関係を取り戻すことによる蹄成長の促進(Encourage new hoof growth)、の三つの指針が有効です。そして、それを達成するための原則(Principle)としては、(1)荷重可能な全ての蹄底支持面を導入すること、(2)適切な蹄反回(Appropriate breakover)を促すこと、(3)必要に応じて蹄踵挙上(Heel elevation)すること、などが挙げられています。
慢性蹄葉炎における削切では、蹄底面(Ground surface of hoof capsule)と蹄骨下面(Solar surface of distal phalanx)を再整列(Realignment)させることが重要で、このための適切な装蹄方針を決定するためには、側方からのレントゲン像が必須となります。蹄底面と蹄骨下面がなす角度は、2~5度が正常で、蹄骨尖の位置(蹄骨尖から新たな蹄底面へと垂直に降ろした線と、新たな蹄底面を示す線の交差点)から蹄底背側点(=反回点)までの距離は、15~20mmが正常です。しかし、蹄底の厚さ(蹄骨下面からの蹄底までの距離)は15~20mmは必要であるため、重度の蹄骨回転を起こした症例では、段階を追って再整列化を達成する治療指針が重要です。
削切に際しては、まず蹄叉を低く削ってから、蹄底の幅が最大になる箇所(Widest part of hoof sole)に横線を引きますが、この箇所は再整列のための新たな蹄底面の最前部になることが多いことが知られています。そして、この線から掌側の蹄踵を削切していきますが、この際には、蹄踵と蹄叉が同じ高さになることが理想と言われています。一方で、新たな蹄底面を確立するため蹄踵を削切しすぎると、深屈腱から掛かる緊張力(Tensile force)が増加するというジレンマもあります。
慢性蹄葉炎においては、削切のみでの治療が可能な症例もありますが、蹄鉄が装着される場合には、反回点の位置、蹄叉支持の有無および種類、蹄踵挙上の度合い、などを考慮する必要があります。正常な反回点の位置は、レントゲン像上における、蹄骨尖の位置(蹄骨尖から新たな蹄底面へと垂直に降ろした線と、新たな蹄底面を示す線の交差点)から背側へ6~9mmとされています。また、目標となる背側蹄壁を示した線(背側蹄骨面から15~18mmの平行線)を下ろし、この線と新たな蹄底面を示す線の交差点を新たな蹄尖の位置とし、この位置よりも反回点が掌側に来ないようにすることが重要です。蹄叉支持の必要性は、各症例の疼痛症状の重篤度によって異なりますが、衝撃吸収(Absorption of concussion)のためのクッション性素材の蹄叉支持具を、蹄鉄と蹄底のあいだに充填される症例が殆どです。蹄踵挙上は、常歩時に蹄尖から踏着する症例に対して有効であると提唱されており、蹄鉄装着後の蹄の踏み方で、2~6度の範囲で蹄踵挙上を施します。しかし、行き過ぎた蹄踵挙上は、蹄踵拘縮(Heel contracture)を引き起こすため、その度合いは最小限に抑えるべきである、という警鐘が鳴らされています。
慢性蹄葉炎に対する装蹄療法では、様々なタイプの蹄鉄が使用されており、それぞれの効能は各症例の病態や重篤度によって異なります。WWA蹄鉄(Wide Web Aluminum shoe)は、最もシンプルかつ基本的で、安価な蹄鉄のひとつで、蹄尖短縮および蹄踵伸長のデザインを持ち、装蹄グルーによって接着することも可能です。蹄踵挙上は、ゴム製のレイルを挿入することで達成され、蹄鉄と蹄底のあいだにパッドをはさむことで、蹄叉支持具を装着することもできます。また、EDSS蹄鉄(Equine Digital Support System)という同様のシステムも市販されています。一方、スチュワード木靴は、安価な合板(Plywood)を用いて作成され、蹄尖短縮、蹄踵伸長、蹄踵挙上などに適したデザインへの加工が容易で、蹄底支持面を拡大して、蹄底面に均一に荷重させることができるという利点があります。
内外側回転型の蹄葉炎は、それほど頻繁に見られる病態ではありませんが、レントゲン検査での背掌側撮影像(Dorso-palmar view)によって診断が下され、その殆どが内側蹄骨の遠位変位(Distal displacement of medial coffin bone)を示し、内側蹄壁の成長不全(Lack of medial hoof wall growth)を呈する症例も見られます。装蹄療法としては、罹患側への過剰な荷重を軽減するため、対軸側の蹄側壁を伸長(Extension of contraaxial hoof wall)する手法(内側蹄骨の遠位変位の場合には、外側の蹄側壁の伸長)が試みられます。また、ゴム製レイルを片軸性に挿入(Uniaxial installation)することで、罹患側の蹄踵のみを挙上(Uniaxial heel elevation on affected side)する手法も有効であると考えられています。
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