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馬の文献:蹄葉炎(Morrison. 2010)

「慢性蹄葉炎:蹄管理」
Morrison S. Chronic laminitis: foot management. Vet Clin North Am Equine Pract. 2010; 26(2): 425-446.

この総説論文では、馬の慢性蹄葉炎(Chronic laminitis)に対する蹄管理(Foot management)および深屈腱切断術(Deep digital flexor tenotomy)が解説されています。

慢性蹄葉炎における蹄骨(Distal phalanx)の再整列化(Realignment)では、深屈腱切断術によって蹄骨に掛かる緊張力(Tensile force)を取り除く指針が有効になります。深屈腱切断術では、実施のタイミングが重要で、進行した骨疾患(Advanced bone disease)が続発する前に施術することが推奨されています。蹄骨が重度に損傷された症例では、蹄骨そのものが慢性疼痛の発生箇所(Chronic source of pain)になり、手術後にも罹患肢への十分な荷重ができず、切断された深屈腱が大量の瘢痕組織(Abundant scar tissue)を呈したり、浅屈腱(Superficial digital flexor tendon)との癒着(Adhesion)を生じて、深屈腱の拘縮(Contracture)を再発しやすいことが知られています。また、術後に罹患肢への速やかな体重負荷(Immediate weight bearing)を妨げる可能性のある感染症(Sepsis)が存在する場合は、まずそれを治療してから深屈腱切断術に踏み切るべきであると提唱されています。

一般的に、深屈腱切断術が良好な治療成績を示すためには、適切な装蹄療法(Therapeutic shoeing)を介しての術後の蹄管理が必須です。この際には、治療用蹄鉄を装蹄グルーで接着する場合が多いため、手術時の消毒処置などで蹄が塗れてグルーが着きにくくなる事を考慮して、施術する前に装蹄療法を行うことが推奨されています。罹患馬には、鎮静剤(Sedatives)の投与と、遠軸種子骨神経麻酔(Abaxial sesamoid block)によって遠位肢を無痛化(Distal limb analgesia)した後、出来る限り低く蹄踵を削切してから、側方撮影像でのレントゲン検査(Latero-medial radiography)を行います。このレントゲン像上では、まず蹄底面の掌側端(蹄踵の最後部)から、蹄骨底面に平行になる線を引き、これを蹄鉄の設置線とします。そして、背側蹄冠(Dorsal coronary band)から垂直線を下ろし、この線のうち上述の蹄鉄設置線と実際の踏着面との距離を測定し、これが蹄鉄を装着した際に必要な蹄尖の挙上幅(Amount of heel elevation)になります。

次に、蹄鉄を装着しますが、これには鍛造アルミ蹄鉄(Forged alminum shoe)もしくは蹄踵部が溶接されたプレート(Welded-in heel shoe)を用いることが推奨されており、クッション性の衝撃吸収素材を、上述で測定した高さだけ楔型にして蹄尖挙上(Toe wedge)を施します。そして、適切な蹄鉄の装着角度が確認された後、アクリル癒着素材(Acrylic adhesive)を浸したファイバーグラス布によって、蹄鉄を蹄へと接着しますが、この際には、蹄踵および蹄側部だけを接着して、蹄尖部は開放しておくことが重要です。また、背掌側レントゲン像(Dorso-palmar radiographic view)において、蹄骨の内外側沈下(Medio-lateral sinking)が確認された場合には、沈下していない側(蹄骨内側部が沈下している場合には蹄底外側部)の蹄底支持を少し低くすることで、内外側方向への蹄骨の再整列(Medio-lateral realignment of distal phalanx)を併用する手法も試みられています。

蹄鉄が設置された後には、遠位肢をビニール袋などで覆ってから、術部の消毒に入りますが、多くの慢性蹄葉炎の症例では、全身麻酔(General anesthesia)を避けて、起立位手術(Standing surgery)による管部中央での深屈腱切断術(Mid-cannon tenotomy)が選択されます。施術に際しては、まず高四点神経麻酔(High 4-point nerve block)によって管部全体を無痛化してから、深屈腱と浅屈腱のあいだに設けた皮膚切開創(Skin incision)からアプローチします。次に、二つの屈腱のあいだをメッツェンバーム剪刀(Metzenbaum scissors)によって剥離した後、二本の曲げられる開創鉤(Malleable retractors)を用いて深屈腱を分離してから(腱の後ろ側を走行している脈管や神経を守るため)、メス刃(No.15)で深屈腱を切断します。そして、皮下組織と皮膚を縫合閉鎖してから、管部および繋部に圧迫包帯(Pressure bandage)を巻きます。その後、再び側方レントゲン撮影を行い、蹄鉄の設置具合いや、蹄関節亜脱臼(Subluxation of coffin joint)の有無を確認します。

慢性蹄葉炎に対する蹄管理では、蹄冠の溝削り(Coronary band grooving)または蹄壁切除(Hoof wall resection)によって、健常な蹄成長(Healthy hoof growth)を促す治療が併用されることもあります。その実施の有無を判断する場合、異常蹄輪(Abnormal hoof rings)の出現や、蹄部静脈造影術(Digital venography)による循環障害(Compromised circulation)の診断が有用とされています。蹄冠溝削りでは、罹患している側の蹄冠をヤスリまたはBurrを用いて、蹄壁の全層(Full thickness of hoof wall)に達する深さまで削ります(僅かに出血が見られる深さ)。蹄壁切除では、罹患している側の蹄冠から下方に1.3~2.5cmの箇所に、半楕円状溝(Semielliptical shape groove)を削り取り、メス刃で蹄骨表面に達する深さまで蹄葉組織を切除してから、ニッパーで蹄冠部の蹄壁を静かに剥がして行きます。術後には、切除部位を抗生物質に浸したガーゼで覆い、蹄部全体に圧迫包帯を巻きます。

蹄冠の溝削りまたは蹄壁切除の部位には、10~14日以内に上皮化(Epithelialization)が見られ、数ヶ月以内に蹄壁中層(Stratum medium hoof wall)が再生(Regeneration)することが一般的です。また、亜鉛含有の塗布剤(Topical products containing zinc)や滅菌羊膜(Disinfected amniotic membrane)を局所的に用いることで、上皮化を加速させる治療法も試みられています(Long et al. Proc AAEP. 2006:501)。

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