馬の病気:胎便貯留
馬の消化器病 - 2013年05月04日 (土)

胎便貯留(Meconium retention)について。
新生児の腸管内に存在する胎便(Meconium)は、胎児期の腺性分泌物(Glandular secretion)、脱落細胞(Sloughed cells)、嚥下された羊水(Swallowed amniotic fluid)などから構成され、正常個体では生後48時間以内に排出されることが一般的です。胎便貯留の病因としては、初乳摂取不全(Failure to ingest colostrum)や発育不足(Dysmaturity)などが挙げられ、雌の新生児(Fillies)よりも雄の新生児(Colts)に発症が多いことが知られています(雄のほうが骨盤腔が長くて狭いため)。
胎便貯留の症状としては、しぶり腹(Straining)、猫背起立姿勢(Arched back stance)、授乳低下(Reduced suckling)などの軽度の疝痛症状(Mild colic signs)を示し、病状の悪化に伴って転げ回る仕草(Rolling)や腹部膨満(Abdominal distension)などの重度疝痛症状を呈します。
胎便貯留の診断では、腹腔を通した触診、または、慎重な直腸検査(Rectal examination)によって、骨盤進入部(Pelvic inlet)に停滞した胎便を触知できる場合もあります。しかし、それよりも近位部における病態では、腹部造影レントゲン検査(Contrast abdominal radiography)による確定診断を要します。胎便貯留の罹患馬では、造影剤が横行結腸(Transverse colon)まで到達していない所見が認められ、側方撮影像(Lateral view)と共に背腹方撮影像(Ventrodorsal view)によって、より正確に胎便貯留の診断が行われます。また、直腸~小結腸の内視鏡検査(Endoscopy)によって、胎便の視診が試みられる場合もあります。
胎便貯留の治療では、内科的支持療法(Supportive medical therapy)を第一指針とし、Acetylcysteineや石鹸水などによる浣腸(Enema)が有効で、Foleyカテーテルを介して溶液を注入した後、45分間にわたって溶液を腸内に充分に浸潤させてから排出させます。この療法が奏功しない症例では、ミネラルオイルの経口投与が行われます。そして、腹腔膨満(Abdominal distension)を続発した場合には、口籠装着(Muzzle placement)によって母乳摂取(Milk intake)を制限してから、補液療法(Fluid therapy)による再水和(Rehydration)と電解質不均衡(Electrolyte imbalance)の改善、栄養供給(Provision of nutritional support)、免疫抗体移行の補正(Correction of failure of passive transfer)などが行われます。
胎便貯留の予後は一般に良好で、殆どの子馬において単一回の浣腸療法(稀に三回以内)によって胎便排出が見られることが示されていますが、保存性療法(Conservative therapy)に不応性(Refractory)を示した症例に対しては、正中開腹術(Midline celiotomy)と腸切開術(Enterotomy)による胎便摘出を要することもあります。しかし、この場合には、慎重な腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)を実施して、疝痛症状が小腸捻転や重積(Small intestinal volvulus/ intussusception)や膀胱破裂(Urinal bladder rupture)などの他の疾患に起因していないことを確認することが重要です。
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