馬の文献:蹄葉炎(Ramsey et al. 2011)
文献 - 2015年11月16日 (月)
「馬の蹄角度の違いが背側蹄葉負荷に及ぼす影響」
Ramsey GD, Hunter PJ, Nash MP. The effect of hoof angle variations on dorsal lamellar load in the equine hoof. Equine Vet J. 2011; 43(5): 536-542.
この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に対する有用な装蹄療法(Therapeutic shoeing)の手法を検討するため、有限要素メッシュ(Finite element meshes)によって作成した馬の蹄に、0~15度の掌側蹄角度(Palmar hoof angle)を与え、垂直床反力(Vertical ground reaction force)、踏着中間部モーメント(Mid-stance moment)、反回関節モーメント(Breakover joint moment)が最大になる環境下で、背側蹄葉組織への負荷(Dorsal lamellar load)の指標となる貯蔵弾性エネルギー(Stored elastic energy)の測定が行われました。
結果としては、全ての種類の物理的環境下において、掌側蹄角度が増加するのに伴って、背側蹄葉連結部(Dorsal laminar junction)への負荷が上昇する傾向が認められ、掌側蹄角度の増加が15度の場合には0度であった場合に比べて、蹄葉連結部への負荷が1.3~3.8倍も高いことが示されました。また、最大蹄反回関節モーメントの環境下では、掌側蹄角度が増加するのに伴って、近位蹄葉縁(Proximal laminar border)への負荷が上昇することが示されました。このため、少なくともこの研究で用いられた実験モデルでは、蹄葉炎の装蹄療法において、掌側蹄角度を増加させることで蹄葉組織への負荷を減少させる、という治療指針の有用性を裏付けるデータは確認されませんでした。
一般的に、馬の蹄葉炎に対する装蹄療法では、蹄踵挙上(Raised heel)を施すことで深屈腱(Deep digital flexor tendon: DDFT)から蹄骨(Distal phalanx)に掛かる緊張力(Tensile force)を緩和することで、蹄葉組織への負荷を減退させ、蹄骨変位(Displacement of distal phalanx)の悪化を防ぎ、蹄葉組織の早期治癒を促す方針が推奨されています。しかし、過去の文献においては、蹄葉組織負荷は深屈腱の牽引よりも、中節骨を通して方向付けられる荷重(Orientation of the load transmitted through the second phalanx)のほうが大きく影響している、という知見もあります(Coffman et al. JAVMA. 1970;156:219)。今回の研究において、掌側蹄角度を増加させると蹄葉組織への負荷がむしろ上昇する、という実験結果は、この知見と合致するものでした。さらに、他の文献では、蹄葉炎の罹患馬に対して、掌側蹄角度を敢えて減少させるために、蹄踵を逆に低くする装蹄法によって、良好な治療成績を示したという報告もなされています(Strasser, H. 2001. The Hoofcare Specialist’s Handbook: Hoof Orthopedics and Holistic Lameness Rehabilitation, Sabine Kells, Qualicum Beach, BC, Canada.)。
一般的に、蹄葉炎の罹患蹄において蹄骨回転(Distal phalanx rotation)が起こるのは、蹄葉組織は弱体化した状態で蹄骨が深屈腱によって掌側へ引っ張られるためである、と仮説されてきました(Hood. Vet Clin N Am Eq Pract. 1999;15:437)。しかし、もしこれが本当ならば、蹄葉組織が裂離(Laminar separation)して蹄骨回転が起きた後には、深屈腱に掛けられている緊張力は著しく減少しているはずですが、蹄葉炎の罹患蹄における蹄反回時の深屈腱緊張は、正常蹄に比べて、僅かに13%しか減少していないことが報告されています(McGuigan et al. EVJ. 2005;37:161)。さらに、今回の研究では近位蹄葉組織のほうが遠位蹄葉組織よりも大きな負荷が掛かっており、深屈腱による蹄骨の牽引が蹄葉組織負荷の根源であるとする説(その場合には、遠位蹄葉組織のほうが大きな負荷を示すハズ)には矛盾が生じてきます。
このため、代替機序(Alternative proposed mechanism)としては、蹄枕(Digital cushion)や深屈腱付着部(Attachment of DDFT)が蹄骨回転の支点(Fulcrum about which the distal phalanx rotates)として働いている、というものがあり(Coffman et al. JAVMA. 1970;156:219)、この蹄枕や深屈腱は軟部組織(Soft tissue)であるため、蹄骨を十分に支持する機能(Sufficient support function)を果たせないと考えられています。しかし、蹄踵収縮(Contracted heels)や蹄叉枝成長(Ingrowth bars)を生じていた蹄では、蹄枕や深屈腱の支持作用が蹄骨回転を防いで、蹄骨遠位変位(Distal displacement)に至らしめる可能性もあり、このような蹄および蹄周辺組織の状態の差異が、回転型蹄葉炎(Rotational laminitis)および沈下型蹄葉炎(Sinker laminitis)の病態の違いを引き起こす、ひとつの要因になっているという考察がなされています。
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馬の病気:蹄葉炎


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この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に対する有用な装蹄療法(Therapeutic shoeing)の手法を検討するため、有限要素メッシュ(Finite element meshes)によって作成した馬の蹄に、0~15度の掌側蹄角度(Palmar hoof angle)を与え、垂直床反力(Vertical ground reaction force)、踏着中間部モーメント(Mid-stance moment)、反回関節モーメント(Breakover joint moment)が最大になる環境下で、背側蹄葉組織への負荷(Dorsal lamellar load)の指標となる貯蔵弾性エネルギー(Stored elastic energy)の測定が行われました。
結果としては、全ての種類の物理的環境下において、掌側蹄角度が増加するのに伴って、背側蹄葉連結部(Dorsal laminar junction)への負荷が上昇する傾向が認められ、掌側蹄角度の増加が15度の場合には0度であった場合に比べて、蹄葉連結部への負荷が1.3~3.8倍も高いことが示されました。また、最大蹄反回関節モーメントの環境下では、掌側蹄角度が増加するのに伴って、近位蹄葉縁(Proximal laminar border)への負荷が上昇することが示されました。このため、少なくともこの研究で用いられた実験モデルでは、蹄葉炎の装蹄療法において、掌側蹄角度を増加させることで蹄葉組織への負荷を減少させる、という治療指針の有用性を裏付けるデータは確認されませんでした。
一般的に、馬の蹄葉炎に対する装蹄療法では、蹄踵挙上(Raised heel)を施すことで深屈腱(Deep digital flexor tendon: DDFT)から蹄骨(Distal phalanx)に掛かる緊張力(Tensile force)を緩和することで、蹄葉組織への負荷を減退させ、蹄骨変位(Displacement of distal phalanx)の悪化を防ぎ、蹄葉組織の早期治癒を促す方針が推奨されています。しかし、過去の文献においては、蹄葉組織負荷は深屈腱の牽引よりも、中節骨を通して方向付けられる荷重(Orientation of the load transmitted through the second phalanx)のほうが大きく影響している、という知見もあります(Coffman et al. JAVMA. 1970;156:219)。今回の研究において、掌側蹄角度を増加させると蹄葉組織への負荷がむしろ上昇する、という実験結果は、この知見と合致するものでした。さらに、他の文献では、蹄葉炎の罹患馬に対して、掌側蹄角度を敢えて減少させるために、蹄踵を逆に低くする装蹄法によって、良好な治療成績を示したという報告もなされています(Strasser, H. 2001. The Hoofcare Specialist’s Handbook: Hoof Orthopedics and Holistic Lameness Rehabilitation, Sabine Kells, Qualicum Beach, BC, Canada.)。
一般的に、蹄葉炎の罹患蹄において蹄骨回転(Distal phalanx rotation)が起こるのは、蹄葉組織は弱体化した状態で蹄骨が深屈腱によって掌側へ引っ張られるためである、と仮説されてきました(Hood. Vet Clin N Am Eq Pract. 1999;15:437)。しかし、もしこれが本当ならば、蹄葉組織が裂離(Laminar separation)して蹄骨回転が起きた後には、深屈腱に掛けられている緊張力は著しく減少しているはずですが、蹄葉炎の罹患蹄における蹄反回時の深屈腱緊張は、正常蹄に比べて、僅かに13%しか減少していないことが報告されています(McGuigan et al. EVJ. 2005;37:161)。さらに、今回の研究では近位蹄葉組織のほうが遠位蹄葉組織よりも大きな負荷が掛かっており、深屈腱による蹄骨の牽引が蹄葉組織負荷の根源であるとする説(その場合には、遠位蹄葉組織のほうが大きな負荷を示すハズ)には矛盾が生じてきます。
このため、代替機序(Alternative proposed mechanism)としては、蹄枕(Digital cushion)や深屈腱付着部(Attachment of DDFT)が蹄骨回転の支点(Fulcrum about which the distal phalanx rotates)として働いている、というものがあり(Coffman et al. JAVMA. 1970;156:219)、この蹄枕や深屈腱は軟部組織(Soft tissue)であるため、蹄骨を十分に支持する機能(Sufficient support function)を果たせないと考えられています。しかし、蹄踵収縮(Contracted heels)や蹄叉枝成長(Ingrowth bars)を生じていた蹄では、蹄枕や深屈腱の支持作用が蹄骨回転を防いで、蹄骨遠位変位(Distal displacement)に至らしめる可能性もあり、このような蹄および蹄周辺組織の状態の差異が、回転型蹄葉炎(Rotational laminitis)および沈下型蹄葉炎(Sinker laminitis)の病態の違いを引き起こす、ひとつの要因になっているという考察がなされています。
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