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馬の文献:蹄葉炎(van Eps et al. 2012)

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「蹄部低体温はオリゴ糖誘導性蹄葉炎における蹄葉組織の炎症性信号を抑制する」
van Eps AW, Leise BS, Watts M, Pollitt CC, Belknap JK. Digital hypothermia inhibits early lamellar inflammatory signalling in the oligofructose laminitis model. Equine Vet J. 2012; 44(2): 230-237.

この研究論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に有用な予防法を検討するため、十四頭の実験馬を用いて、オリゴ糖給餌によって蹄葉炎を発症(Oligofructose inducing laminitis)させてから、片方の前肢蹄に寒冷療法(Cryotherapy)を実施し、もう一方の前肢蹄は無治療として、このうち七頭からは跛行発生前(オリゴ糖給餌から24時間後)、残りの七頭からは跛行の発生後に、両前肢の蹄葉組織を採取して、これらの組織におけるサイトカイン(IL-6, IL-1beta, IL-10)、キモカイン(CXCL1, CXCL6, CXCL8, MCP-1, MCP-2)、細胞癒着分子(ICAM-1, E-selectin)、二型シクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase-2: COX2)などの、遺伝子活性(Gene expression analysis)の評価が行われました。

結果としては、実験馬の対照蹄(無治療の前肢蹄)では、正常馬の蹄に比べて、多くのサイトカイン、キモカイン、細胞癒着分子、およびCOX2の遺伝子活性の亢進が認められたのに対して、実験馬の寒冷療法が実施された蹄では、対照蹄に比べて、殆どのサイトカイン、キモカイン、細胞癒着分子、およびCOX2の遺伝子活性の減退が認められました。このため、馬の蹄部寒冷療法では、蹄葉損傷において重要な役目を担っていると推測される、蹄葉炎症性現象(Laminar inflammatory events)を抑制することが示唆され、内毒素血症(Endotoxemia)などの蹄葉炎を続発する危険がある症例に対しては、蹄部寒冷療法によって重篤な蹄葉炎病態の予防効果(Prophylactic effect)が期待できると考えられました。

この研究の限界点(Limitation)としては、寒冷療法の長期的効能(Long-term effect)は評価されていないため、跛行の発現後の検体で示されたデータが、実際に蹄葉炎の進行を防ぐ効能を示したのか否かは、評価されていません。また、寒冷療法は蹄内のあらゆる遺伝子に作用するため、この研究で活性測定された炎症性遺伝子が、蹄葉炎の原因なのか結果なのか?(Cause or results of laminitis?)は解明されておらず、“蹄葉損傷の発現において重要な役目を担っている”ことを裏付けるデータは示されていません。他の文献では、蹄葉組織の裂離(Laminar separation)は二型マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase II: MMP-2)の活性亢進によるもので、炎症性反応は二次的な変化である可能性も指摘されています(van Eps and Pollitt. EVJ. 2004;36:255)。

一般的に、馬の蹄部に対する寒冷療法は、副作用(Adverse effect)を起こすことなく長期間にわたる蹄冷却を達成できることが示されていますが、冷やすだけでは病因と考えられる遺伝子活性を完全に抑えることはできず、つまり、蹄葉炎の発症を遅らせる事はできても、発症そのものを予防することは困難な症例も多いと考えられます。このため、今後の研究では、核内因子カッパビー(Nuclear factor-kappa B)や、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼの信号経路(Mitogen-activated protein kinase [MAPK] signaling pathway)を特異的に抑制する薬剤を、局所灌流(Regional perfusion)などの手法で蹄部に導入することで、蹄葉組織の炎症性現象を抑えることによる蹄葉炎の予防効果を検証したり、それによって詳細な蹄葉炎の病因論を確立する必要がある、という考察がなされています。

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