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馬の文献:蹄葉炎(Kullmann et al. 2014)

「予防的な蹄寒冷療法は大結腸炎と診断された馬における蹄葉炎の発症率を減少させる」
Kullmann A, Holcombe SJ, Hurcombe SD, Roessner HA, Hauptman JG, Geor RJ, Belknap J. Prophylactic digital cryotherapy is associated with decreased incidence of laminitis in horses diagnosed with colitis. Equine Vet J. 2014; 46(5): 554-559.

この症例論文では、馬の蹄葉炎(Laminitis)に対する予防的な蹄寒冷療法(Prophylactic digital cryotherapy)の効能を評価するため、2002~2012年にかけて二箇所の獣医大学病院にて、大結腸炎(Colitis)の診断が下された130頭の症例(初診時に蹄葉炎を呈していた馬は除く)における、医療記録(Medical records)の単因子及び多因子ロジスティック回帰分析(Univariate and multivariate logistic regression analysis)が行われました。

結果としては、大結腸炎の症例馬における蹄葉炎の発症率(Incidence)は、蹄寒冷療法が行われなかった馬では33%(20/61頭)に上っていたのに対して、蹄寒冷療法が行われた馬では10%(7/69頭)にとどまっていました。また、蹄寒冷療法を実施することによって、蹄葉炎を発症する危険性が約十分の一まで減少(オッズ比:0.1)することが示されました。そして、蹄葉炎を起こした馬の生存率は48%(13/27頭)しかなかったのに対して、蹄葉炎を起こさなかった馬の生存率は98%(101/103頭)に達していました。このため、大結腸炎の罹患馬に対しては、蹄寒冷療法を積極的に応用して蹄葉炎の発症を抑制することで、生存率の向上(Improvement in survival rate)が期待できることが示唆されました。

この研究では、大結腸炎のように、全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome)を伴う消化器疾患に対する、蹄寒冷療法による蹄葉炎の予防作用を裏付けるデータが示されました。また、蹄寒冷療法が実施されずに蹄葉炎を発症した20頭の症例のうち、退院して元通りの運動能力まで回復した馬は45%(9/20頭)であった一方で、蹄寒冷療法が実施されたにも関わらず蹄葉炎を発症した7頭の症例のうち、退院して元通りの運動能力まで回復した馬は57%(4/7頭)であり、両群のあいだには有意差はありませんでした。このため、蹄を氷漬けにするという処置(=蹄寒冷療法)を介しても、長期的な有害作用(Adverse effect)は生じなかったと予測される反面、蹄寒冷療法は急性蹄葉炎を予防する効果はあっても、長期的な蹄葉組織の再生にまで好影響を及ぼす訳ではない、という考察がなされています。

この研究では、入院時の呼吸数(Respiratory rate)が多いほど、蹄葉炎を発症しやすい傾向が認められ、毎分呼吸数が一回多いごとに、蹄葉炎を起こす危険性が8%増加する(呼吸数一回増ごとのオッズ比:1.08)ことが示されました。また、入院時の血中乳酸値(mmol/L)が高いほど、蹄葉炎を発症しやすい傾向が認められ、乳酸値が1-mmol/L高いごとに、蹄葉炎を起こす危険性が24%増加する(乳酸値1-mmol/L増ごとのオッズ比:1.24)ことが示されました。この理由としては、入院時の呼吸数や血中乳酸値が、全身性の炎症反応症候群の重篤度(Severity)を強く反映していたためと推測されています。つまり、消化器疾患の罹患馬において、蹄葉炎の危険性が特に高く、蹄寒冷療法が強く推奨される馬を見極める指標として、呼吸数や血中乳酸値が有用である可能性が示唆されました。

この研究では、二箇所の大学病院が調査対象となりましたが、このうち一方の病院の症例のほうが、もう一方に比べて、蹄葉炎を発症する危険性が四倍近くも高かった(オッズ比:3.97)ことが報告されています。この理由は、明確には結論付けられていませんが、ひとつの可能性として、ポトマック熱(Potomac horse fever)の存在が挙げられています。この研究のデータでは、ポトマック熱の診断が下された馬における蹄葉炎の発症率は55%と極めて高く、また、二箇所の大学病院における症例のうち、ポトマック熱の罹患馬が占める割合は、一方の病院は五割(25/48頭)で、もう一方は三割(25/82頭)と大きな差異がありました。つまり、病院の違いそのものが蹄葉炎の危険因子(Risk factor)だったのではなく、一方の病院がポトマック熱の発症が多い地域(川沿いや湿地帯において起こりやすい病気であるため)に立地していた事から、それらの症例が蹄葉炎を多く発症して、結果的に、蹄葉炎の発症率が高い病院になった、という考察がなされています。

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