馬の文献:舟状骨症候群(Ostblom et al. 1984)
文献 - 2015年11月19日 (木)
「舟状骨病:エッグバー蹄鉄による治療成績」
Ostblom LC, Lund C, Melsen F. Navicular bone disease: results of treatment using egg-bar shoeing technique. Equine Vet J. 1984; 16(3): 203-206.
この研究論文では、馬の舟状骨病(Navicular bone disease)に対する有効な装蹄療法(Therapeutic shoeing)の手法を検討するため、1977~1981年にかけて、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)での跛行改善(Lameness improvement)によって、舟状骨病の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された82頭の患馬の、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究での装蹄療法では、蹄尖削切(Toe trimming)による蹄繋軸矯正(Correction of hoof-pastern axis)の後、蹄底部における二つの最長直径(蹄側と蹄尖の境界点から反対側の蹄踵までの距離)の和に、蹄踵間の距離を足したものを鉄の長さとし、それを楕円状に加工して後部を1.5cm重ねることでエッグバー蹄鉄(Egg-bar shoe)が作成されました。そして、このエッグバー蹄鉄を両前肢に装着して、蹄踵の掌側縁よりも後方に蹄鉄尾を伸展させることで、蹄踵に掛かる荷重の掌側支持機能(Palmar support function)が作用させられました。
結果としては、エッグバー蹄鉄による装蹄療法が応用された患馬のうち、正常歩様を回復した馬は57%、一時的な歩様改善(Temporary gait improvement)が見られた馬は18%、歩様改善が認められなかった馬は25%となっていました。また、馬の使役タイプ別に見る正常歩様への回復率は、障害飛越(Show-jumping)では88%、野外騎乗(Hacking)では77%、馬場馬術(Dressage)では50%、“その他”のタイプでは13%となっていました。このため、馬の舟状骨病では、エッグバー蹄鉄を用いての装蹄療法によって、中程度の予後が期待できることが示唆されましたが、馬の使役タイプがなぜ予後に影響を与えたのかに関しては、この論文内では詳細には考察されていません。
この研究では、82頭の患馬のうち、17頭が安楽死(Euthanasia)となり、10頭が引退となり、残りの55頭のみに治療が試みられました。つまり、治療法が無作為に選択(Random selection)されたわけではないため、エッグバー蹄鉄の装着が奏功しそうな馬にのみ応用されたという治療指針の偏向(Bias)が存在したケースも考えられ、このため、装蹄療法の治療効果が過剰評価(Over-estimation)されている可能性は否定できないと考えられました。また、質問表(Questionnaire from)への回答が得られたのは76%の畜主にとどまり、この回答率の低さがデータに影響を与えた場合もありうると考えられました(献身的なケアーをする畜主ほど回答率が高く、結果的に治療成績も良い傾向を示した)。
この研究では、蹄踵削切や蹄踵伸展の度合いは各装蹄師の判断に任されており、また、休養期間の長さや運動内容の変更など、予後に相乗的に影響(Synergetic effect)する他の因子についても明瞭な制御はなされていない事から、エッグバー蹄鉄による装蹄療法の治療効果を正確に評価するには、研究デザインに問題点が多いと言えるかもしれません。さらに、この研究における舟状骨病の診断は、視診(Inspection)、跛行検査(Lameness examination)、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)に委ねられており、必ずレントゲン検査が行われたわけでもなく、また、時代的にMRI検査も応用されておらず、それぞれの症例において、舟状骨(Navicular bone)やその他の周囲軟部組織(舟嚢、深屈腱、蹄関節、舟状骨繋靭帯、Impar靭帯)に、実際に原発病変(Primary lesion)があったのか否か、そしてどの程度の重篤な病変が存在したのかは明確ではありません。
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この研究論文では、馬の舟状骨病(Navicular bone disease)に対する有効な装蹄療法(Therapeutic shoeing)の手法を検討するため、1977~1981年にかけて、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)での跛行改善(Lameness improvement)によって、舟状骨病の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された82頭の患馬の、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究での装蹄療法では、蹄尖削切(Toe trimming)による蹄繋軸矯正(Correction of hoof-pastern axis)の後、蹄底部における二つの最長直径(蹄側と蹄尖の境界点から反対側の蹄踵までの距離)の和に、蹄踵間の距離を足したものを鉄の長さとし、それを楕円状に加工して後部を1.5cm重ねることでエッグバー蹄鉄(Egg-bar shoe)が作成されました。そして、このエッグバー蹄鉄を両前肢に装着して、蹄踵の掌側縁よりも後方に蹄鉄尾を伸展させることで、蹄踵に掛かる荷重の掌側支持機能(Palmar support function)が作用させられました。
結果としては、エッグバー蹄鉄による装蹄療法が応用された患馬のうち、正常歩様を回復した馬は57%、一時的な歩様改善(Temporary gait improvement)が見られた馬は18%、歩様改善が認められなかった馬は25%となっていました。また、馬の使役タイプ別に見る正常歩様への回復率は、障害飛越(Show-jumping)では88%、野外騎乗(Hacking)では77%、馬場馬術(Dressage)では50%、“その他”のタイプでは13%となっていました。このため、馬の舟状骨病では、エッグバー蹄鉄を用いての装蹄療法によって、中程度の予後が期待できることが示唆されましたが、馬の使役タイプがなぜ予後に影響を与えたのかに関しては、この論文内では詳細には考察されていません。
この研究では、82頭の患馬のうち、17頭が安楽死(Euthanasia)となり、10頭が引退となり、残りの55頭のみに治療が試みられました。つまり、治療法が無作為に選択(Random selection)されたわけではないため、エッグバー蹄鉄の装着が奏功しそうな馬にのみ応用されたという治療指針の偏向(Bias)が存在したケースも考えられ、このため、装蹄療法の治療効果が過剰評価(Over-estimation)されている可能性は否定できないと考えられました。また、質問表(Questionnaire from)への回答が得られたのは76%の畜主にとどまり、この回答率の低さがデータに影響を与えた場合もありうると考えられました(献身的なケアーをする畜主ほど回答率が高く、結果的に治療成績も良い傾向を示した)。
この研究では、蹄踵削切や蹄踵伸展の度合いは各装蹄師の判断に任されており、また、休養期間の長さや運動内容の変更など、予後に相乗的に影響(Synergetic effect)する他の因子についても明瞭な制御はなされていない事から、エッグバー蹄鉄による装蹄療法の治療効果を正確に評価するには、研究デザインに問題点が多いと言えるかもしれません。さらに、この研究における舟状骨病の診断は、視診(Inspection)、跛行検査(Lameness examination)、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)に委ねられており、必ずレントゲン検査が行われたわけでもなく、また、時代的にMRI検査も応用されておらず、それぞれの症例において、舟状骨(Navicular bone)やその他の周囲軟部組織(舟嚢、深屈腱、蹄関節、舟状骨繋靭帯、Impar靭帯)に、実際に原発病変(Primary lesion)があったのか否か、そしてどの程度の重篤な病変が存在したのかは明確ではありません。
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