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馬の文献:舟状骨症候群(Willemen et al. 1999)

「整形外科的装蹄療法が馬の深屈腱から舟状骨に掛かる力に及ぼす影響」
Willemen MA, Savelberg HH, Barneveld A. The effect of orthopaedic shoeing on the force exerted by the deep digital flexor tendon on the navicular bone in horses. Equine Vet J. 1999; 31(1): 25-30.

この研究論文では、馬のナビキュラー病(Navicular disease)に対する有効な装蹄療法(Therapeutic shoeing)の手法を検討するため、正常な十二頭のダッチブレッドの実験馬を用いて、蹄踵挙上具(Heel wedge)の装着、エッグバー蹄鉄(Egg-bar shoe)の装着、通常の平坦な蹄鉄(Flat shoe)、および蹄鉄なしの状態(Bare-foot)で、運動学的歩様解析(Kinematic gait analysis)および力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)を介しての、深屈腱(Deep digital flexor tendon)から舟状骨(Navicular bone: Distal sesamoid bone)に掛かる圧迫力(Compressive force)の評価が行われました。

結果としては、蹄踵挙上具の装着では、平坦な蹄鉄に比べて、深屈腱から舟状骨に掛かる圧迫力が24%減退していたのに対して、エッグバー蹄鉄の装着では、平坦な蹄鉄に比べて、有意な圧迫力の変化は認められませんでした。また、蹄鉄なしの状態では、平坦な蹄鉄に比べて、深屈腱から舟状骨に掛かる圧迫力が14%減退していたことが示されました。一方で、エッグバー蹄鉄の装着では、蹄踵挙上具の装着および平坦な蹄鉄に比べて、活発性の少ない歩様(Less animated gait)を呈したことが報告されています。このため、ナビキュラー病の罹患馬に対する装蹄療法では、エッグバー蹄鉄よりも蹄踵挙上具の装着のほうが、より効果的に深屈腱から舟状骨に掛かる力を減退できることが示唆されました。

この研究では、蹄踵挙上によって舟状骨に作用する圧迫力が減少した要因として、(1)深屈腱の近位および遠位側の角度の差(Angle between the proximal and distal part of deep digital flexor tendon)が小さくなったこと、(2)蹄尖の角度が増加(Increased toe angle)することで、圧迫力を決定する要因である蹄関節(Coffin joint: Distal inter-phalangeal joint)の箇所での支点から力点までの距離が減少(Decreased lever arm)したこと、(3)球節(Fetlock joint: Metacarpo-phalangeal joint)の箇所での浅屈腱(Superficial digital flexor tendon)および繋靭帯(Suspensory ligament)に掛かる荷重が増加することで、深屈腱から生じる緊張力が相対的に減少(Relative reduction)したこと、(4)蹄踵挙上によって蹄角度の増加が繋ぎの角度の減少につながった場合には、球節の沈下(Fetlock sinking)が緩和されて、それを支持するために生じる深屈腱の牽引が減退したこと、などが挙げられています。

この研究では、エッグバー蹄鉄の装着によって舟状骨に作用する圧迫力が減少しなかった要因として、歩様解析がゴム製表面のトレッドミル上で行われたため、後方に伸長したエッグバー蹄鉄尾が蹄踵沈下(=砂地や馬房敷料の上で生じる)を防ぐ作用が再現できなかったこと、が挙げられています。また、アンダーランヒールの蹄形を呈することの多いナビキュラー病の罹患馬においては、エッグバー蹄鉄の装着によって掌側蹄部での蹄壁成長(Palmar hoof growth)が促進されて、蹄踵を再確立(Heel re-establishment)できるという長期的効能(Long-term effect)も、健常な実験馬を用いたこの研究では評価されていません。一方、エッグバー蹄鉄の装着が活発性の少ない歩様を生み出した要因としては、後方に伸長した蹄鉄によって、蹄部の重みが尾側分布(Caudal distribution of hoof weight)して、遊脚相(Swing phase)における遠位肢の上方変位(Upward displacement of lower limb)を引き起こしたことが挙げられています。

この研究の限界点(Limitation)としては、ナビキュラー病を有しない健康馬による実験であったため、装蹄療法を実施する前の蹄繋軸(Hoof-pastern axis)が正常で、蹄踵挙上によって蹄繋軸の前方破折(Broken-forward)を起こしたことが挙げられ、このような変化は、実際のナビキュラー病の罹患馬では再現できないケースが多いと推測されます。つまり、健常蹄に対する蹄踵挙上具の影響を評価したデータにおいては、深屈腱から舟状骨に掛かる圧迫力の減少効果が、過剰評価(Over-estimation)されている可能性も否定できないと考えられます。

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