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馬の文献:舟状骨症候群(Denoix et al. 2003)

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「ナビキュラー病の新しい治療薬としてのチルドロン酸:二重盲検と偽薬対照による臨床試験」
Denoix JM, Thibaud D, Riccio B. Tiludronate as a new therapeutic agent in the treatment of navicular disease: a double-blind placebo-controlled clinical trial. Equine Vet J. 2003; 35(4): 407-413.

この研究論文では、馬のナビキュラー病(Navicular disease)に対する有効な内科的療法を検討するため、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)による跛行改善(Lameness improvement)、およびレントゲン検査(Radiography)による異常所見によって、ナビキュラー病の推定診断(Presumptive diagnosis)が下され、算入基準(Inclusion criteria)に合致した33頭の患馬のうち、九頭には偽薬(Placebo)、残りの24頭には二種類の濃度のチルドロン酸(Tiludronate)が投与され、治療後の192日目までの、二重盲検(Double-blind test)による跛行症状の診断が行われました。

結果としては、投与後の二ヶ月目における治療失敗率(Failure rate)(=“不十分な”治療効果のため試験から除外された馬の割合)を見ると、偽薬対照郡では56%にのぼったのに対して、低濃度チルドロン酸の投与郡では17%、高濃度チルドロン酸の投与郡では0%であったことが示されました。また、投与後の六ヶ月目に“ポジティブな”治療効果を示した馬の割合は、偽薬対照郡では13%に過ぎなかったのに対して、高濃度チルドロン酸の投与郡では67%にのぼっており、また、投与後の六ヶ月目に無跛行または“軽度の”跛行(Little to no lameness)のみを呈した馬の割合は、偽薬対照郡では13%に過ぎなかったのに対して、高濃度チルドロン酸の投与郡では50%と、いずれも有意に高かったことが示されました。しかし、これらの項目では、偽薬対照郡と低濃度チルドロン酸の投与とのあいだに、有意差は認められませんでした。このため、ナビキュラー病の罹患馬に対しては、チルドロン酸の投与によって、良好な跛行改善効果が期待されるものの、低濃度のチルドロン酸投与では、その効能は不十分であることが示唆されました。

一般的に、馬のナビキュラー病には多数の病因論(Etiology)が提唱されていますが、その一つとして、舟状骨(Navicular bone)の骨再構築(Bone remodeling)に異常を生じて、過剰な骨吸収(Excessive bone resorption)から屈腱面(Flexor cortex)の硬化症(Sclerosis)および海綿骨化(Spongirosa)を引き起こすという病因や、骨吸収と骨形成が脱共役(Uncoupling of bone resorption and formation)を起こすという病因が仮説されています。このため、チルドロン酸の投与によって、破骨細胞抑制(Osteoclast inhibitor)を介して骨吸収を減退させたり、骨再構築の過程を正常に制御することで、ナビキュラー病の病態改善が期待できる、と推測されています。

この研究では、治療薬が無作為に選択(Random selection)され、偽薬との比較、および二重盲検を介して、信頼性の高いチルドロン酸の治療効果の試験がなされています。しかし、この研究デザインの限界点(Limitation)としては、チルドロン酸の治療効果が、跛行症状の変化のみによって評価されており、それも主観に頼る基準が多いという問題点が挙げられます。一方、レントゲン検査では顕著な変化は確認されておらず、また、経時的なCT検査などによって、実際に舟状骨の骨吸収や骨密度(Bone density)、硬化症の重篤度などに変化が起きたのか否かは、詳細には評価されていません。このため、今後の研究では、歩様解析(Gait analysis)によって跛行症状の改善を、より客観的かつ定量的に試験(Objective and quantitative evaluation)したり、組織学的検査(Histologic assessment)などによって、骨再構築像への影響を調査する必要があると考えられました。

この研究では、特に重度跛行や高齢の症例において、チルドロン酸が複数回にわたって投与されることで、より良好な症状改善効果が見られる傾向があり、これは人間の医学領域における、パジェット病患者への治療成績とも合致していました(Fraser et al. Postgrad Med J. 1997;73:496)。今後の研究では、より症例数を増やすことで、患馬の年齢や病態の重さに相応した、適切な投与濃度(Optimal dosage)を検討する必要がある、という考察がなされています。

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