馬の文献:舟状骨症候群(Dyson et al. 2003)
文献 - 2015年11月22日 (日)
「蹄部での深屈腱炎による跛行が見られた46頭の馬の症例:MRI検査による診断」
Dyson S, Murray R, Schramme M, Branch M. Lameness in 46 horses associated with deep digital flexor tendonitis in the digit: diagnosis confirmed with magnetic resonance imaging. Equine Vet J. 2003; 35(7): 681-690.
この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)の診断における、MRI検査(Magnetic resonance imaging)の有用性を評価するため、2001~2002年にかけて、蹄部での深屈腱炎(Deep digital flexor tendonitis in the digit)に起因する跛行(Lameness)を呈して、MRI検査による診断が下された馬の症例が報告されています。
結果としては、跛行検査(Lameness examination)および診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって、蹄部に疼痛が限局化(Pain localization)されたものの、レントゲン検査(Radiography)では異常が見られず、MRI検査が実施された75頭の症例のうち、異常所見が認められた馬は46頭(61%)に上りました。このうち、深屈腱のみに病変が見られた馬は32頭(43%)、深屈腱と舟状骨(Navicular bone)の両方に病変が見られた馬は14頭(19%)でした。MRI像での異常所見としては、中心病変(Core lesion)、限局性または散在性の背側縁病変(Focal/Diffuse dorsal border lesion)、正中面裂傷(Sagittal plane splits)、付着部損傷(Insertional injuries)などが含まれました。このため、蹄踵疼痛(Heel pain)の診断が下された馬において、レントゲン検査に陰性であった場合には、MRI検査によって異常所見が発見できる症例が多い事が示唆されました。
この研究では、MRI検査における蹄部深屈腱の異常所見の特徴としては、(1)外内側の一方の腱葉(Tendon lobe)に病変が集中している場合が多いこと、(2)片側性跛行(Unilateral lameness)の症例でも健常馬の蹄部深屈腱に中心病変が見られる場合が多いこと、(3)深屈腱とImpar靭帯の癒着(Adhesion)を併発した場合には跛行が重度である場合が多いこと、(4)MRI画像上で深屈腱とImpar靭帯の液体信号を減退(Reduced fluid signal)させることで深屈腱の肥大(Enlargement)をより正確に見極められる場合が多いこと、などが挙げられています。
この研究では、MRI検査によって蹄部での深屈腱炎が診断された46頭の患馬のうち、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)に陽性(=麻酔後に跛行改善が見られた)であった馬は24%に過ぎなかったのに対して、蹄関節麻酔(Coffin joint block)に陽性であった馬の割合は、深屈腱の病変のみを呈した症例では68%、深屈腱と舟状骨の病変を呈した症例では92%に上っていました。また、深屈腱の病変のみを呈した症例では、舟嚢麻酔(Navicular bursa)に陽性であった馬も67%に上っていました。このため、掌側指神経麻酔に陰性で遠軸神経麻酔(Abaxial nerve block)に陽性であった場合にも、蹄部での深屈腱炎を除外診断(Rule-out)するのは適当でないという警鐘が鳴らされており、蹄関節麻酔や舟嚢麻酔によって、より詳細な疼痛の限局化に努めることで、蹄部での深屈腱炎を疑われる馬を発見できるケースが多いことが示唆されました。
この研究では、MRI検査によって蹄部での深屈腱炎が診断された46頭の患馬のうち、核医学検査(Nuclear scintigraphy)によって、深屈腱の病態を示唆する異常所見が見られた馬は、41%に過ぎませんでした。また、深屈腱の病変が冠関節(Pastern joint: Proximal inter-phalangeal joint)よりも上方まで達していたのは九頭でしたが、このうち超音波検査(Ultrasonography)において病変が確認できたのは二頭のみでした。このため、レントゲン検査では見つからずMRI検査で発見された蹄部深屈腱の病変は、核医学検査では半数以上、超音波検査でもその殆どが見落とされることが示唆され、蹄部での深屈腱炎におけるMRI検査の感度の高さを再確認させるデータが示されたと言えます。
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この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)の診断における、MRI検査(Magnetic resonance imaging)の有用性を評価するため、2001~2002年にかけて、蹄部での深屈腱炎(Deep digital flexor tendonitis in the digit)に起因する跛行(Lameness)を呈して、MRI検査による診断が下された馬の症例が報告されています。
結果としては、跛行検査(Lameness examination)および診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって、蹄部に疼痛が限局化(Pain localization)されたものの、レントゲン検査(Radiography)では異常が見られず、MRI検査が実施された75頭の症例のうち、異常所見が認められた馬は46頭(61%)に上りました。このうち、深屈腱のみに病変が見られた馬は32頭(43%)、深屈腱と舟状骨(Navicular bone)の両方に病変が見られた馬は14頭(19%)でした。MRI像での異常所見としては、中心病変(Core lesion)、限局性または散在性の背側縁病変(Focal/Diffuse dorsal border lesion)、正中面裂傷(Sagittal plane splits)、付着部損傷(Insertional injuries)などが含まれました。このため、蹄踵疼痛(Heel pain)の診断が下された馬において、レントゲン検査に陰性であった場合には、MRI検査によって異常所見が発見できる症例が多い事が示唆されました。
この研究では、MRI検査における蹄部深屈腱の異常所見の特徴としては、(1)外内側の一方の腱葉(Tendon lobe)に病変が集中している場合が多いこと、(2)片側性跛行(Unilateral lameness)の症例でも健常馬の蹄部深屈腱に中心病変が見られる場合が多いこと、(3)深屈腱とImpar靭帯の癒着(Adhesion)を併発した場合には跛行が重度である場合が多いこと、(4)MRI画像上で深屈腱とImpar靭帯の液体信号を減退(Reduced fluid signal)させることで深屈腱の肥大(Enlargement)をより正確に見極められる場合が多いこと、などが挙げられています。
この研究では、MRI検査によって蹄部での深屈腱炎が診断された46頭の患馬のうち、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)に陽性(=麻酔後に跛行改善が見られた)であった馬は24%に過ぎなかったのに対して、蹄関節麻酔(Coffin joint block)に陽性であった馬の割合は、深屈腱の病変のみを呈した症例では68%、深屈腱と舟状骨の病変を呈した症例では92%に上っていました。また、深屈腱の病変のみを呈した症例では、舟嚢麻酔(Navicular bursa)に陽性であった馬も67%に上っていました。このため、掌側指神経麻酔に陰性で遠軸神経麻酔(Abaxial nerve block)に陽性であった場合にも、蹄部での深屈腱炎を除外診断(Rule-out)するのは適当でないという警鐘が鳴らされており、蹄関節麻酔や舟嚢麻酔によって、より詳細な疼痛の限局化に努めることで、蹄部での深屈腱炎を疑われる馬を発見できるケースが多いことが示唆されました。
この研究では、MRI検査によって蹄部での深屈腱炎が診断された46頭の患馬のうち、核医学検査(Nuclear scintigraphy)によって、深屈腱の病態を示唆する異常所見が見られた馬は、41%に過ぎませんでした。また、深屈腱の病変が冠関節(Pastern joint: Proximal inter-phalangeal joint)よりも上方まで達していたのは九頭でしたが、このうち超音波検査(Ultrasonography)において病変が確認できたのは二頭のみでした。このため、レントゲン検査では見つからずMRI検査で発見された蹄部深屈腱の病変は、核医学検査では半数以上、超音波検査でもその殆どが見落とされることが示唆され、蹄部での深屈腱炎におけるMRI検査の感度の高さを再確認させるデータが示されたと言えます。
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