馬の文献:舟状骨症候群(Spriet et al. 2004)
文献 - 2015年11月23日 (月)
「超音波制御による舟嚢注射」
Spriet M, David F, Rossier Y. Ultrasonographic control of navicular bursa injection. Equine Vet J. 2004; 36(7): 637-639.
この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)の診療における、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)および治療のために有用な舟嚢注射(Navicular bursa injection)の手法を検討するため、十頭の健常な実験馬の両前肢蹄を用いて、超音波制御(Ultrasonographic control)による舟嚢注射が試みられました。
この研究では、起立位で蹄球(Heel bulbs)のあいだを皮下局所麻酔(Subcutaneous local anesthesia)および消毒滅菌した後、一人の術者が蹄部を保持した状態で、もう一人の術者が蹄球間に穿刺した脊髄針(Spinal needle)を、「舟状骨の位置(Navicular position)」(側方から見て蹄冠の掌側縁と背側縁の中間点から遠位側へ1cmの位置)へと進展させました。そして、一人目の術者が蹄叉(Frog)の上に当てたプローブからの矢状超音波像(Sagittal ultrasonographic view)において、舟状骨の屈腱面(Flexor cortex of navicular bone)に針の先端が位置していることを視認した後、舟嚢内へ造影剤(Contrast material)を注入してからレントゲン検査(Radiography)することで、舟嚢注射の成功の有無が確認されました、
結果としては、超音波制御による舟嚢注射に要した時間は平均42秒で、このうち、一度目で正確な針穿刺(Accurate needle placement)が確認された蹄(11/20蹄)では、22秒しか要さなかった事が示されました。そして、針を刺し直さなければならなかった蹄(9/20蹄)でも、超音波像によって正確な針穿刺が見られ、造影レントゲン検査では、100%の確率(20/20蹄)で舟嚢注射が達成されたことが報告されています。また、この研究で、術後合併症(Post-operative complication)を起こした馬は一頭もありませんでした。このため、舟状骨症候群の罹患馬における診断および治療に際しては、超音波制御を介しての舟嚢注射によって、正確な診断麻酔および治療薬の注入が達成できることが示唆されました。
一般的に、舟嚢への麻酔薬や治療薬の注入では、馬を立たせたり蹄部を木のブロックに載せた状態で針穿刺して、側方レントゲン像(Lateral radiography)によって針先が舟嚢内に存在しているのを確認してから、薬剤注入を実施する手法が応用されています。近年では、デジタル式のレントゲン機器の普及によって、ほぼ瞬間的にレントゲン像が得られるようになった事で、超音波制御を介しての舟嚢注射における、「迅速に薬剤を注射できる」という利点はそれほど重要ではなくなったのかもしれません。しかし、側方レントゲン像では、外内側面における針先のずれは判断できないため、超音波像によって屈腱面の真ん中(Center of flexor cortex)に針先が存在しているのを確認できる、という利点があると考えられます。また、超音波像では、針先から舟嚢内へと注入されていく溶液の流れを視認できるという利点もある、と考察されています。
この研究では、実験馬を十日間放牧した後で実験に用いることで、蹄叉組織が十分な水分を含み、鮮明な超音波像が得られる工夫がなされています。このため、実際の臨床症例への応用に際して、蹄叉が乾燥してしまっている場合には、三十分間にわたって蹄部を水に浸す(Foot soaking)ことで、蹄叉に水分を含ませる処置を要する場合もある、という考察がなされています。
この研究では、針の刺し直しを要した九回の舟嚢穿刺のうち、近位側に針先がずれていたのが六回、遠位側に針先がずれていたのが三回であったことが報告されており、「舟状骨の位置」を狙って一度目に針進展させた場合には、針先が屈腱面に到達していたのは55%(11/20蹄)に過ぎませんでした。このため、今回の研究での実験結果は、「舟状骨の位置」へと針進展させて舟嚢注射する手法で、92%の成功率が達成されたという他の文献の成績(Schramme et al. EVJ. 2000;32:263)よりも低いものとなっていました。しかし、上述の針の刺し直しを要した場合にも、針先のずれは許容範囲内で、そのまま溶液を注入しても舟嚢注射は成功していた可能性もある、と推測されており、舟嚢への針穿刺の術式を直接的に比較するのは難しい、と考察されています。
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この研究では、起立位で蹄球(Heel bulbs)のあいだを皮下局所麻酔(Subcutaneous local anesthesia)および消毒滅菌した後、一人の術者が蹄部を保持した状態で、もう一人の術者が蹄球間に穿刺した脊髄針(Spinal needle)を、「舟状骨の位置(Navicular position)」(側方から見て蹄冠の掌側縁と背側縁の中間点から遠位側へ1cmの位置)へと進展させました。そして、一人目の術者が蹄叉(Frog)の上に当てたプローブからの矢状超音波像(Sagittal ultrasonographic view)において、舟状骨の屈腱面(Flexor cortex of navicular bone)に針の先端が位置していることを視認した後、舟嚢内へ造影剤(Contrast material)を注入してからレントゲン検査(Radiography)することで、舟嚢注射の成功の有無が確認されました、
結果としては、超音波制御による舟嚢注射に要した時間は平均42秒で、このうち、一度目で正確な針穿刺(Accurate needle placement)が確認された蹄(11/20蹄)では、22秒しか要さなかった事が示されました。そして、針を刺し直さなければならなかった蹄(9/20蹄)でも、超音波像によって正確な針穿刺が見られ、造影レントゲン検査では、100%の確率(20/20蹄)で舟嚢注射が達成されたことが報告されています。また、この研究で、術後合併症(Post-operative complication)を起こした馬は一頭もありませんでした。このため、舟状骨症候群の罹患馬における診断および治療に際しては、超音波制御を介しての舟嚢注射によって、正確な診断麻酔および治療薬の注入が達成できることが示唆されました。
一般的に、舟嚢への麻酔薬や治療薬の注入では、馬を立たせたり蹄部を木のブロックに載せた状態で針穿刺して、側方レントゲン像(Lateral radiography)によって針先が舟嚢内に存在しているのを確認してから、薬剤注入を実施する手法が応用されています。近年では、デジタル式のレントゲン機器の普及によって、ほぼ瞬間的にレントゲン像が得られるようになった事で、超音波制御を介しての舟嚢注射における、「迅速に薬剤を注射できる」という利点はそれほど重要ではなくなったのかもしれません。しかし、側方レントゲン像では、外内側面における針先のずれは判断できないため、超音波像によって屈腱面の真ん中(Center of flexor cortex)に針先が存在しているのを確認できる、という利点があると考えられます。また、超音波像では、針先から舟嚢内へと注入されていく溶液の流れを視認できるという利点もある、と考察されています。
この研究では、実験馬を十日間放牧した後で実験に用いることで、蹄叉組織が十分な水分を含み、鮮明な超音波像が得られる工夫がなされています。このため、実際の臨床症例への応用に際して、蹄叉が乾燥してしまっている場合には、三十分間にわたって蹄部を水に浸す(Foot soaking)ことで、蹄叉に水分を含ませる処置を要する場合もある、という考察がなされています。
この研究では、針の刺し直しを要した九回の舟嚢穿刺のうち、近位側に針先がずれていたのが六回、遠位側に針先がずれていたのが三回であったことが報告されており、「舟状骨の位置」を狙って一度目に針進展させた場合には、針先が屈腱面に到達していたのは55%(11/20蹄)に過ぎませんでした。このため、今回の研究での実験結果は、「舟状骨の位置」へと針進展させて舟嚢注射する手法で、92%の成功率が達成されたという他の文献の成績(Schramme et al. EVJ. 2000;32:263)よりも低いものとなっていました。しかし、上述の針の刺し直しを要した場合にも、針先のずれは許容範囲内で、そのまま溶液を注入しても舟嚢注射は成功していた可能性もある、と推測されており、舟嚢への針穿刺の術式を直接的に比較するのは難しい、と考察されています。
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