馬の文献:舟状骨症候群(Symonds et al. 2006)
文献 - 2015年11月25日 (水)
「舟状骨症候群の罹患馬におけるフォースプレートを用いてのエトドラックの鎮痛効果の評価」
Symonds KD, MacAllister CG, Erkert RS, Payton ME. Use of force plate analysis to assess the analgesic effects of etodolac in horses with navicular syndrome. Am J Vet Res. 2006; 67(4): 557-561.
この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する有用な内科的療法を評価するため、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)による跛行改善(Lameness improvement)、およびレントゲン検査(Radiography)での異常所見によって、舟状骨症候群の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された二十二頭の患馬に対して、七頭には一日二回のエトドラック(Etodolac)の経口投与(Oral administration)、八頭には一日一回のエトドラックの経口投与、残りの七頭には対照薬(コーンシロップ)の経口投与を、それぞれ三日間にわたって実施し、投与前と、最終投与から一日半(6、12、24、36時間後)にわたる、力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)を介しての跛行症状の変化が評価されました。
結果としては、エトドラックの投与馬では(両方の投与頻度)、最終投与から一日以内(6、12、24時間後)において、最大垂直力(Peak vertical force)の有意な上昇が見られ、罹患肢への有意な荷重増加(Increased weight bearing)が起こった事が示されました。このような、跛行肢に対する鎮痛作用(Analgesic effect)は、一日一回および一日二回の投与郡のあいだでは有意差がなく、また、最終投与から36時間目においては、最大垂直力の有意な上昇は認められませんでした。このため、舟状骨症候群の罹患馬に対しては、エトドラックの経口投与によって、十分な鎮痛効果が期待されることが示唆されました。一方、一日一回および一日二回の投与郡の比較では、P値は0.06と有意水準(Significance level)である0.05に極めて近く、実験馬の頭数を増やすことで、一日二回の投与(=薬学的に推奨されている投与頻度)のほうが、有意に良好な鎮痛効果を示すと考えられました。
一般的に、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drug: NSAID)の鎮痛効果は、主にシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase: COX)の酵素抑制(Enzyme inhibition)によって発現します。そして、このCOX酵素のうち、COX-1は常在性酵素(Constitutive enzyme)としてプロスタノイド生成(Prostanoid production)に関与して、正常的生理機能(Normal physiologic functions)を有しているのに対して、COX-2は誘発性酵素(Inducible enzyme)として炎症性刺激(Inflammatory stimuli)に反応して発生することが知られています。つまり、COX-2を主に抑制する薬剤(COX-2 inhibitory NSAID)であるエトドラックを用いることで、COX-1酵素の働きを妨げる割合が下がるため、胃潰瘍(Gastric ulceration)、右背側結腸炎(Right dorsal colitis)、腎不全(Renal failure)などの副作用(Adverse effect)の危険を減少できると考えられています。
この研究では、エトドラック投与後の6~24時間目における最大垂直力の上昇は、投与前の計測値と比べて、5~9%増にとどまりました。一方、過去の文献では、フェニルブタゾンやフルニキシン・メグルミンなどの他のNSAID投与における最大垂直力の上昇は、投与前の計測値と比べて、9~13%増にのぼったことが報告されています(Erkert et al. AJVR. 2005;66:284)。つまり、エトドラック投与では、フェニルブタゾンやフルニキシン・メグルミンの投与ほどの鎮痛効果は達成できなかったことが示唆されました。この要因としては、エトドラックは優先的COX-2抑制剤(Preferential COX-2 inhibitor)であるため、COX-1抑制とCOX-2抑制の比率が0.16(COX-2抑制のほうがCOX-1抑制よりも六倍以上高かった)とかなり低く(Wilson et al. AJVR. 2004;65:810)、COX-1の抑制効果が十分ではなかった可能性が指摘されており、今後の研究では、その他の種類のCOX-2抑制剤(Firocoxib等)の鎮痛効果を評価する必要があると考察されています。
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この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する有用な内科的療法を評価するため、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)による跛行改善(Lameness improvement)、およびレントゲン検査(Radiography)での異常所見によって、舟状骨症候群の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された二十二頭の患馬に対して、七頭には一日二回のエトドラック(Etodolac)の経口投与(Oral administration)、八頭には一日一回のエトドラックの経口投与、残りの七頭には対照薬(コーンシロップ)の経口投与を、それぞれ三日間にわたって実施し、投与前と、最終投与から一日半(6、12、24、36時間後)にわたる、力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)を介しての跛行症状の変化が評価されました。
結果としては、エトドラックの投与馬では(両方の投与頻度)、最終投与から一日以内(6、12、24時間後)において、最大垂直力(Peak vertical force)の有意な上昇が見られ、罹患肢への有意な荷重増加(Increased weight bearing)が起こった事が示されました。このような、跛行肢に対する鎮痛作用(Analgesic effect)は、一日一回および一日二回の投与郡のあいだでは有意差がなく、また、最終投与から36時間目においては、最大垂直力の有意な上昇は認められませんでした。このため、舟状骨症候群の罹患馬に対しては、エトドラックの経口投与によって、十分な鎮痛効果が期待されることが示唆されました。一方、一日一回および一日二回の投与郡の比較では、P値は0.06と有意水準(Significance level)である0.05に極めて近く、実験馬の頭数を増やすことで、一日二回の投与(=薬学的に推奨されている投与頻度)のほうが、有意に良好な鎮痛効果を示すと考えられました。
一般的に、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drug: NSAID)の鎮痛効果は、主にシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase: COX)の酵素抑制(Enzyme inhibition)によって発現します。そして、このCOX酵素のうち、COX-1は常在性酵素(Constitutive enzyme)としてプロスタノイド生成(Prostanoid production)に関与して、正常的生理機能(Normal physiologic functions)を有しているのに対して、COX-2は誘発性酵素(Inducible enzyme)として炎症性刺激(Inflammatory stimuli)に反応して発生することが知られています。つまり、COX-2を主に抑制する薬剤(COX-2 inhibitory NSAID)であるエトドラックを用いることで、COX-1酵素の働きを妨げる割合が下がるため、胃潰瘍(Gastric ulceration)、右背側結腸炎(Right dorsal colitis)、腎不全(Renal failure)などの副作用(Adverse effect)の危険を減少できると考えられています。
この研究では、エトドラック投与後の6~24時間目における最大垂直力の上昇は、投与前の計測値と比べて、5~9%増にとどまりました。一方、過去の文献では、フェニルブタゾンやフルニキシン・メグルミンなどの他のNSAID投与における最大垂直力の上昇は、投与前の計測値と比べて、9~13%増にのぼったことが報告されています(Erkert et al. AJVR. 2005;66:284)。つまり、エトドラック投与では、フェニルブタゾンやフルニキシン・メグルミンの投与ほどの鎮痛効果は達成できなかったことが示唆されました。この要因としては、エトドラックは優先的COX-2抑制剤(Preferential COX-2 inhibitor)であるため、COX-1抑制とCOX-2抑制の比率が0.16(COX-2抑制のほうがCOX-1抑制よりも六倍以上高かった)とかなり低く(Wilson et al. AJVR. 2004;65:810)、COX-1の抑制効果が十分ではなかった可能性が指摘されており、今後の研究では、その他の種類のCOX-2抑制剤(Firocoxib等)の鎮痛効果を評価する必要があると考察されています。
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