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馬の文献:舟状骨症候群(Smith et al. 2007)

「二十頭の跛行馬における舟嚢内深屈腱病変の内視鏡検査および治療」
Smith MR, Wright IM, Smith RK. Endoscopic assessment and treatment of lesions of the deep digital flexor tendon in the navicular bursae of 20 lame horses. Equine Vet J. 2007; 39(1): 18-24.

この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する有効な外科的療法を検討するため、舟嚢内視鏡検査(Bursoscopy)を介しての、舟嚢内の深屈腱病変(Deep digital flexor tendon lesion in the navicular bursa)に対する診断および治療が行われた、二十頭の跛行馬の症例が報告されています。

結果としては、内視鏡検査された23箇所の舟嚢のうち、深屈腱の裂傷(Tear)が認められたのは96%(22/23舟嚢)、軟骨病変(Cartilage lesion)が認められたのは35%(8/23舟嚢)であったことが示されました。治療としては、ロンジュールもしくは電動バーを用いての、深屈腱および軟骨損傷部の病巣清掃術(Debridement)が行われ、術後の六ヶ月以上にわたる経過追跡(Follow-up)ができた15頭の患馬のうち、正常歩様(Sound gait)に回復していたのは73%(11/15頭)で、術前と同レベルの騎乗使役に復帰(Returned to preoperative levels of performance)していたのは60%(9/15頭)であったことが報告されています。このため、舟状骨症候群の罹患馬では、内視鏡検査を介して、舟嚢内の深屈腱病変が発見できる場合が多く、また、内視鏡的な病巣清掃術によって、十分な病変治癒と良好な予後を示す症例が比較的に多いことが示唆されました。

この研究では、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)が実施された18頭の症例のうち、跛行改善(Lameness improvement)が見られたのは100%でしたが、完全な跛行消失が見られたのは44%に過ぎませんでした。また、蹄関節麻酔(Coffin joint block)が実施された17頭の症例のうち、跛行改善が見られたのは100%、跛行消失が見られたのは41%でした。さらに、舟嚢麻酔(Navicular bursa block)が実施された15頭のうち、跛行改善が見られたのは100%、跛行消失が見られたのは33%でした。そして、これら三種類の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)の全てが実施された15頭の症例を見ると、跛行の改善&消失が最も顕著であった麻酔法は、六頭では掌側指神経麻酔、六頭では舟嚢麻酔、残りの三頭では掌側指神経麻酔と舟嚢麻酔の併用、であったことが報告されています。このため、掌側指神経麻酔による跛行改善が不完全(Incomplete improvement)であった場合には、舟嚢内視鏡検査の適応症例を見極めるために、蹄関節麻酔や舟嚢麻酔などの蹄部診断麻酔を併用して、より詳細な蹄部疼痛の限局化(Localization of foot pain)に努める必要がある、という考察がなされています。

この研究では、二十頭の患馬のうち、レントゲン検査(Radiography)で異常が認められたのは45%(9/20頭)、核医学検査(Nuclear scintigraphy)で異常が認められたのは47%(7/15頭)であったことが報告されていますが、レントゲン検査および核医学検査では、舟嚢内視鏡検査で発見された病変のタイプや位置を、術前に予測することは出来ませんでした。一方、舟嚢内視鏡検査で発見された深屈腱の病巣のうち、同病巣がCT検査で確認できた症例は86%(6/7頭)、同病巣がMRI検査で確認できた症例は75%(3/4頭)でした。しかし、舟嚢内視鏡検査で発見された軟骨病巣は、いずれの画像診断法によっても(レントゲン検査、核医学検査、CT検査、MRI検査)、確認できなかったことが報告されています。このため、舟嚢内の深屈腱病巣を発見するためには、レントゲン検査や核医学検査よりも、CT検査やMRI検査のほうが優れていましたが、残念ながら、CT検査やMRI検査を用いても、舟嚢内の軟骨病巣を発見するのは困難な症例が多いと考えられました。

一般的に、舟嚢内での深屈腱炎(Deep digital flexor tendinitis)では、保存性療法(Conservative treatment)による予後は芳しくない(Poor prognosis)ことが知られています。他の文献では、MRI検査で発見された舟嚢内深屈腱炎の罹患馬のうち、跛行消失と騎乗使役への復帰を果たした馬の割合は、深屈腱炎のみを起こしていた馬では28%、深屈腱炎と舟状骨の病変を併発していた馬では5%であったことが報告されています(Dyson et al. EVJ. 2005;37:113)。この文献におけるMRI検査の異常所見は、今回の研究の症例と類似しており、これらの症例に対しても舟嚢内視鏡検査&治療が行われていれば、今回の研究で示されたような良好な予後(騎乗使役への復帰率:60%)が期待できたと考察されています。

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