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馬の病気:直腸脱

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直腸脱(Rectal prolapse)について。

直腸が肛門から逸脱を起こす疾患で、雄馬よりも牝馬に好発し、下痢(Diarrhea)、難産(Dystocia)、腸内寄生虫(Intestinal parasitism)、直腸炎(Proctitis)、直腸腫瘍(Rectal tumor)などの、裏急後重(Tenesmus)や腹圧上昇(Elevated intraabdominal pressure)を起こす病態、もしくは呼吸器疾患に起因する慢性咳嗽(Chronic coughing)などが素因として挙げられています。

直腸脱の診断は視診と触診によって下され、その病態に応じて、粘膜層のみの逸脱(タイプ1)、直腸壁全層の逸脱(タイプ2)、直腸壁全層に加え小結腸(Small colon)の一部が逸脱(タイプ3)、小結腸と直腸が重積を起こして逸脱(タイプ4)に類別されます。タイプ1~3の直腸脱は粘膜腫瘤(Mucosal mass)、タイプ4は筒状膨満(Tubular distension)の外観を示し、慎重な触診によって正確な病態把握と病状経過の判定に努めることが重要です。タイプ3や4の直腸脱では、疝痛症状にあわせて腹膜炎(Peritonitis)を併発する危険が高いため、必ず腹水検査(Abdominocentesis)を実施することが推奨されています。

タイプ1や2の直腸脱では直腸切除(Rectal resection)は通常必要とされず、潤滑剤とマッサージによって脱腸部を腹腔内に押し戻した後、Purse-string縫合術で肛門閉鎖をして、逸脱部直腸の回復を促します。この際には、12~24時間の給餌停止(Feed withholding)、数時間おきの糞便除去(Fecal removal)、ミネラルオイルの浣腸などを行い、良好な治癒が確認された後にも、ミネラルオイルの経口投与と糞便軟化を促す給餌(Bran mashes, moistened pellets, etc)を最低十日間は継続し、直腸脱の再発(Recurrence)を予防することが重要です。タイプ3や4の直腸脱に対して同様の保存性療法(Conservative treatment)が試みられる場合には、継時的な腹水検査によって直腸組織の生存性をモニタリングしたり、腹腔鏡手術(Laparoscopy)を介して後腹膜の裂傷や小結腸の生存性(Small colon viability)を確認する方法も試みられています。

タイプ3の直腸脱において、脱腸組織の活力減退(Devitalization)が見られたり、保存性治療に不応性(Refractory)を示した症例に対しては、逸脱した直腸の切除を行うことが推奨されます。施術に際しては、外肛門括約筋(External anal sphincter)に刺入した留置針を用いて、健常粘膜部を外反位置に固定した後、外周切開創(Circumferential incision)によって、浮腫状壊死(Edematous necrosis)を呈した粘膜と粘膜下組織(Edematous necrotic mucosa and submucosa)を切除し、粘膜辺縁同士を縫合します。また、重度の活力減退が見られる場合には、直腸切除と直腸吻合術(Rectal anastomosis)が実施され、上述の手法と同様に健常粘膜部を外反位置に固定した後、直腸壁全層におよぶ外周切開創によって、壊死脱腸部を切除して、切開創辺縁同士を水平マットレス縫合(Horizontal mattress suture)で吻合します。

タイプ4の直腸脱では、かなりの長さの腸間膜が後方に牽引されることで(逸脱している直腸の長さの二倍の長さの腸間膜)、腸間膜脈管裂傷(Mesenteric vasculature tear)に伴う血行障害から腸梗塞(Bowel infarction)を起こして、多くの症例で致死的病態を呈するため、安楽死処置(Euthanasia)が選択される場合が殆どです。しかし、正中開腹術(Midline celiotomy)や腹腔鏡手術によって、小結腸と直腸の生存性が確認された症例に対しては、壊死部の切除、直腸吻合術、係蹄状直腸瘻造設術(Loop colostomy)などの外科的療法が応用される事もあります。

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