馬の文献:舟状骨症候群(Byron et al. 2009)
文献 - 2015年11月27日 (金)
「掌側蹄踵疼痛を呈した馬におけるレントゲンおよび核医学検査結果への放射状体外衝撃波療法の影響」
Byron C, Stewart A, Benson B, Tennent-Brown B, Foreman J. Effects of radial extracorporeal shock wave therapy on radiographic and scintigraphic outcomes in horses with palmar heel pain. Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(2): 113-118.
この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する放射状体外衝撃波療法(Radial extracorporeal shock wave therapy)の治療効果を評価するため、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)による跛行改善(Lameness improvement)、およびレントゲン検査(Radiography)での異常所見によって、掌側蹄踵疼痛(Palmar heel pain)の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された八頭の患馬に対して、七~十日おきに三回の衝撃波療法が実施され、治療前と治療後にレントゲン検査(Radiography)および核医学検査(Nuclear scintigraphy)の比較が行われました。
結果としては、八頭の患馬におけるレントゲン検査の病態スコアでは、治療前と治療後で有意差は認められず、また、核医学検査の舟状骨(Navicular bone)と蹄骨(Distal phalanx)の密度比率(Density ratio)でも、治療前と治療後で有意差は認められませんでした。このため、馬の掌側蹄踵疼痛に対する衝撃波療法では、レントゲンおよび核医学検査結果への影響は確認されませんでした。そして、跛行症状の減退などの臨床的な効能が発現する機序(Action of mechanism)としては、局所組織代謝の刺激(Stimulation of local tissue metabolism)ではなく、鎮痛作用(Analgesic effect)によるものである、という考察がなされています。
一般的に、馬の運動器疾患(Musculoskeletal disorders)に対する衝撃波療法では、短期的な鎮痛効果(Short-term analgesic effect)が見られるという、経験的な研究報告(Anecdotal reports)がありますが(Boening et al. Proc AAEP. 2000;46:203, Palmer et al. Proc AAEP. 2002;48:318, McCarroll et al. Proc AAEP. 2000;46:200)、これらは原稿審査の無いプロシーディングしての報告であり、治療効果の発現機序は明らかにされていません。また、馬の掌側蹄踵に対する衝撃波療法では、力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)による疼痛症状の減退効果は認められなかったという報告もあります(Brown et al. Vet Surg. 2005;34:554)。
一般的に、骨組織に及ぼす衝撃波療法の影響については、間葉系前駆細胞の動員(Recruitment of mesenchymal stem cells)、血管新生(Neovascularization)の増加、トランスフォーミング増殖因子ベータ(Transforming growth factor beta)および血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor)の活性亢進、などが挙げられており(Chen et al. JOR. 2005;22:526)、これらによって骨治癒促進(Bone healing enhancement)の効能が期待されると考えられています。しかし、今回の研究では、衝撃波が当てられた舟状骨における骨代謝の変化や、レントゲン像上の病態改善などは認められておらず、衝撃波療法が馬の舟状骨症候群に対して、“病気改善効果”(Disease-modifying effect)を誘導するという明確な証拠は示されませんでした。
この研究では、罹患馬の跛行肢における舟状骨と蹄骨の密度比率は、健常馬のそれよりも有意に高かったことが示されており、これは、慢性跛行(Chronic lameness)に起因する局所組織への血流増加(Increased blood circulation)によるものと推測されています。そして、この密度比率は、衝撃波の使用によって有意には変化していませんでした。つまり、健常な実験動物において認められる、衝撃波による代謝向上作用(Improved metabolism)を示すデータを、舟状骨症候群の罹患馬にそのまま当てはめることはできない、という考察がなされています。
一般的に、衝撃波が当てられた箇所では、侵害受容器の局所的損傷(Damage to local nociceptors)、末梢神経伝達物質の枯渇(Depletion of peripheral neurotransmitters)、オピオイド分泌による開門制御作用(Gate-control effect via opioid)、などによって鎮痛効果が生じることが知られています。また、衝撃波が当てられた箇所の馬の掌側指神経では、神経髄鞘破壊(Nerve myelin sheath disruption)に伴う神経伝導速度(Nerve conduction velocity)の低下が見られたという知見もあります(Bolt et al. AJVR. 2004;65:1714)。しかし、馬の舟状骨症候群に対する衝撃波療法の効能が、単なる末梢神経系の破壊による鎮痛作用のみであるならば、骨組織および軟部組織の治癒は期待できず、逆に痛みが覆い隠されてしまうこと(Masking pain)によって、舟状骨や周囲組織に過剰な荷重が生じたり、適切な運動復帰の時期を見誤ってしまうなどの、有害作用(Detrimental effect)が起こる場合もありうると考えられるかもしれません。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:舟状骨症候群


Byron C, Stewart A, Benson B, Tennent-Brown B, Foreman J. Effects of radial extracorporeal shock wave therapy on radiographic and scintigraphic outcomes in horses with palmar heel pain. Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(2): 113-118.
この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する放射状体外衝撃波療法(Radial extracorporeal shock wave therapy)の治療効果を評価するため、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)による跛行改善(Lameness improvement)、およびレントゲン検査(Radiography)での異常所見によって、掌側蹄踵疼痛(Palmar heel pain)の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された八頭の患馬に対して、七~十日おきに三回の衝撃波療法が実施され、治療前と治療後にレントゲン検査(Radiography)および核医学検査(Nuclear scintigraphy)の比較が行われました。
結果としては、八頭の患馬におけるレントゲン検査の病態スコアでは、治療前と治療後で有意差は認められず、また、核医学検査の舟状骨(Navicular bone)と蹄骨(Distal phalanx)の密度比率(Density ratio)でも、治療前と治療後で有意差は認められませんでした。このため、馬の掌側蹄踵疼痛に対する衝撃波療法では、レントゲンおよび核医学検査結果への影響は確認されませんでした。そして、跛行症状の減退などの臨床的な効能が発現する機序(Action of mechanism)としては、局所組織代謝の刺激(Stimulation of local tissue metabolism)ではなく、鎮痛作用(Analgesic effect)によるものである、という考察がなされています。
一般的に、馬の運動器疾患(Musculoskeletal disorders)に対する衝撃波療法では、短期的な鎮痛効果(Short-term analgesic effect)が見られるという、経験的な研究報告(Anecdotal reports)がありますが(Boening et al. Proc AAEP. 2000;46:203, Palmer et al. Proc AAEP. 2002;48:318, McCarroll et al. Proc AAEP. 2000;46:200)、これらは原稿審査の無いプロシーディングしての報告であり、治療効果の発現機序は明らかにされていません。また、馬の掌側蹄踵に対する衝撃波療法では、力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)による疼痛症状の減退効果は認められなかったという報告もあります(Brown et al. Vet Surg. 2005;34:554)。
一般的に、骨組織に及ぼす衝撃波療法の影響については、間葉系前駆細胞の動員(Recruitment of mesenchymal stem cells)、血管新生(Neovascularization)の増加、トランスフォーミング増殖因子ベータ(Transforming growth factor beta)および血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor)の活性亢進、などが挙げられており(Chen et al. JOR. 2005;22:526)、これらによって骨治癒促進(Bone healing enhancement)の効能が期待されると考えられています。しかし、今回の研究では、衝撃波が当てられた舟状骨における骨代謝の変化や、レントゲン像上の病態改善などは認められておらず、衝撃波療法が馬の舟状骨症候群に対して、“病気改善効果”(Disease-modifying effect)を誘導するという明確な証拠は示されませんでした。
この研究では、罹患馬の跛行肢における舟状骨と蹄骨の密度比率は、健常馬のそれよりも有意に高かったことが示されており、これは、慢性跛行(Chronic lameness)に起因する局所組織への血流増加(Increased blood circulation)によるものと推測されています。そして、この密度比率は、衝撃波の使用によって有意には変化していませんでした。つまり、健常な実験動物において認められる、衝撃波による代謝向上作用(Improved metabolism)を示すデータを、舟状骨症候群の罹患馬にそのまま当てはめることはできない、という考察がなされています。
一般的に、衝撃波が当てられた箇所では、侵害受容器の局所的損傷(Damage to local nociceptors)、末梢神経伝達物質の枯渇(Depletion of peripheral neurotransmitters)、オピオイド分泌による開門制御作用(Gate-control effect via opioid)、などによって鎮痛効果が生じることが知られています。また、衝撃波が当てられた箇所の馬の掌側指神経では、神経髄鞘破壊(Nerve myelin sheath disruption)に伴う神経伝導速度(Nerve conduction velocity)の低下が見られたという知見もあります(Bolt et al. AJVR. 2004;65:1714)。しかし、馬の舟状骨症候群に対する衝撃波療法の効能が、単なる末梢神経系の破壊による鎮痛作用のみであるならば、骨組織および軟部組織の治癒は期待できず、逆に痛みが覆い隠されてしまうこと(Masking pain)によって、舟状骨や周囲組織に過剰な荷重が生じたり、適切な運動復帰の時期を見誤ってしまうなどの、有害作用(Detrimental effect)が起こる場合もありうると考えられるかもしれません。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:舟状骨症候群