馬の文献:舟状骨症候群(Maher et al. 2011)
文献 - 2015年11月30日 (月)
「陽性造影MRI検査による舟嚢と周囲軟部組織の評価」
Maher MC, Werpy NM, Goodrich LR, McIlwraith CW. Positive contrast magnetic resonance bursography for assessment of the navicular bursa and surrounding soft tissues. Vet Radiol Ultrasound. 2011; 52(4): 385-393.
この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)の検査に有用な画像診断法(Diagnostic imaging)を検討するため、二十本の健常馬の屍体前肢(Cadaveric forelimbs)、六本の蹄踵疼痛(Palmar foot pain)の罹患馬の屍体前肢、および、蹄踵疼痛が診断された十六頭の臨床症例の前肢に対して、陽性造影MRI検査(Positive contrast magnetic resonance bursography)が実施され、屍体前肢においては、MRI所見と剖検(Necropsy)との比較が行われました。
結果としては、蹄踵疼痛の罹患馬の屍体前肢のうち、六本中の二本において、陽性造影MRI検査による舟状骨(Navicular bone)の屈腱面(Flexor cortex)と深屈腱(Deep digital flexor tendon)のあいだの癒着(Adhesion)が認められ、この病態は、通常のMRI像では見られず、剖検によって確認されました。十六頭の蹄踵疼痛の臨床症例においても、舟状骨の近位側または遠位側において滑膜増生(Synovial proliferation)が見られない像(=舟状骨と深屈腱の癒着を強く示唆する)が認められました。また、造影剤が深屈腱の組織内に浸入している像によって縦断裂傷(Longitudinal split)が鮮明に確認されたり、屈腱面の軽度の糜爛(Mild erosion)が発見された症例もありました。このため、蹄踵疼痛の罹患馬における画像診断においては、陽性造影MRI検査を介して、通常のMRI検査では陰性または不明瞭な病変を、より正確に診断できることが示唆されました。
一般的に、馬の蹄部のMRI検査では、舟状骨と深屈腱のあいだに液体隙間(Fluid space)が見られ、これが軟部組織浸潤(Soft tissue accumulation)に置き換わっている場合には、舟状骨と深屈腱の癒着の可能性がありますが、この所見は屈腱面の滑膜肥厚(Synovial membrane hypertrophy)においても認められるため、癒着の確定診断(Definitive diagnosis)を下す決定的な指標にはなりえません。このため、今回の研究で応用された造影MRI像によって、舟状骨と深屈腱のあいだに造影剤が浸入できない所見によって、この箇所での癒着を診断する指針が有効であると考察されています。また、造影剤によって舟状骨と深屈腱が離されることで、屈腱面の関節軟骨(Articular cartilage)の微小な異常を発見できたり、造影剤が舟嚢内から深屈腱の掌側へと漏出(Leakage)している所見で、深屈腱の全層裂傷(Full-thickness tear)を診断できることもあると考えられました。
この研究では、造影剤の注入量に応じて、舟状骨と深屈腱のMRI像に違いが見られました。健常馬の屍体前肢を用いた試験では、舟嚢内に2mLの造影剤が注入された場合には、近位側の舟嚢末端(Proximal recess of navicular bursa)のみが膨満(Distension)したのに対して、4mLの造影剤が注入された場合には、舟状骨の屈腱面と深屈腱とのあいだが離開し、さらに、6mLの造影剤が注入された場合には、舟状骨遠位側のImpar靭帯と深屈腱とのあいだが離開することが示されました。つまり、より遠位側の舟嚢における癒着を診断するためには、より多量の造影剤の注入を要することが示唆されました。しかし一方で、癒着を生じている臨床症例では、滑膜線維化(Fibrosis)によって舟嚢の容積が減少している可能性もあると推測されており、6mL以上の量の造影剤を注入しようとすると、針外端からの滑液逆流が見られたり、舟嚢の破裂(Rupture)を引き起こすケースもありうる、という警鐘が鳴らされています。
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この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)の検査に有用な画像診断法(Diagnostic imaging)を検討するため、二十本の健常馬の屍体前肢(Cadaveric forelimbs)、六本の蹄踵疼痛(Palmar foot pain)の罹患馬の屍体前肢、および、蹄踵疼痛が診断された十六頭の臨床症例の前肢に対して、陽性造影MRI検査(Positive contrast magnetic resonance bursography)が実施され、屍体前肢においては、MRI所見と剖検(Necropsy)との比較が行われました。
結果としては、蹄踵疼痛の罹患馬の屍体前肢のうち、六本中の二本において、陽性造影MRI検査による舟状骨(Navicular bone)の屈腱面(Flexor cortex)と深屈腱(Deep digital flexor tendon)のあいだの癒着(Adhesion)が認められ、この病態は、通常のMRI像では見られず、剖検によって確認されました。十六頭の蹄踵疼痛の臨床症例においても、舟状骨の近位側または遠位側において滑膜増生(Synovial proliferation)が見られない像(=舟状骨と深屈腱の癒着を強く示唆する)が認められました。また、造影剤が深屈腱の組織内に浸入している像によって縦断裂傷(Longitudinal split)が鮮明に確認されたり、屈腱面の軽度の糜爛(Mild erosion)が発見された症例もありました。このため、蹄踵疼痛の罹患馬における画像診断においては、陽性造影MRI検査を介して、通常のMRI検査では陰性または不明瞭な病変を、より正確に診断できることが示唆されました。
一般的に、馬の蹄部のMRI検査では、舟状骨と深屈腱のあいだに液体隙間(Fluid space)が見られ、これが軟部組織浸潤(Soft tissue accumulation)に置き換わっている場合には、舟状骨と深屈腱の癒着の可能性がありますが、この所見は屈腱面の滑膜肥厚(Synovial membrane hypertrophy)においても認められるため、癒着の確定診断(Definitive diagnosis)を下す決定的な指標にはなりえません。このため、今回の研究で応用された造影MRI像によって、舟状骨と深屈腱のあいだに造影剤が浸入できない所見によって、この箇所での癒着を診断する指針が有効であると考察されています。また、造影剤によって舟状骨と深屈腱が離されることで、屈腱面の関節軟骨(Articular cartilage)の微小な異常を発見できたり、造影剤が舟嚢内から深屈腱の掌側へと漏出(Leakage)している所見で、深屈腱の全層裂傷(Full-thickness tear)を診断できることもあると考えられました。
この研究では、造影剤の注入量に応じて、舟状骨と深屈腱のMRI像に違いが見られました。健常馬の屍体前肢を用いた試験では、舟嚢内に2mLの造影剤が注入された場合には、近位側の舟嚢末端(Proximal recess of navicular bursa)のみが膨満(Distension)したのに対して、4mLの造影剤が注入された場合には、舟状骨の屈腱面と深屈腱とのあいだが離開し、さらに、6mLの造影剤が注入された場合には、舟状骨遠位側のImpar靭帯と深屈腱とのあいだが離開することが示されました。つまり、より遠位側の舟嚢における癒着を診断するためには、より多量の造影剤の注入を要することが示唆されました。しかし一方で、癒着を生じている臨床症例では、滑膜線維化(Fibrosis)によって舟嚢の容積が減少している可能性もあると推測されており、6mL以上の量の造影剤を注入しようとすると、針外端からの滑液逆流が見られたり、舟嚢の破裂(Rupture)を引き起こすケースもありうる、という警鐘が鳴らされています。
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