馬の文献:舟状骨症候群(Marsh et al. 2012)
文献 - 2015年12月01日 (火)
「舟状骨症候群の症状を呈した馬における舟嚢へのコルチコステロイドとヒアルロン酸の注射への反応とその後の高磁場MRI検査:2000~2008年の101症例」
Marsh CA, Schneider RK, Sampson SN, Roberts GD. Response to injection of the navicular bursa with corticosteroid and hyaluronan following high-field magnetic resonance imaging in horses with signs of navicular syndrome: 101 cases (2000-2008). J Am Vet Med Assoc. 2012; 241(10): 1353-1364.
この症例論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する舟嚢注射の治療効果を評価するため、2000~2008年にかけて、舟状骨症候群の症状を呈した101頭の症例馬に対して、舟嚢(Navicular bursa)へのコルチコステロイド(Corticosteroid)およびヒアルロン酸(Hyaluronan)の注射を実施して、その後の治療反応性(Response to treament)および高磁場MRI検査(High-field magnetic resonance imaging)の異常所見の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、コルチコステロイドとヒアルロン酸が舟嚢注射された101頭の馬のうち、意図した用途へ復帰(Returned to their intended use)したのは75%(76/101頭)で、意図した用途にて使役できた期間は平均9.7ヶ月であり、また、跛行が消失したのは35%(35/101頭)であったことが示されました。そして、治療前に跛行を呈した期間が六ヶ月未満であった症例では、六ヶ月以上であった症例に比べて、意図した用途へ復帰できる確率や、意図した用途にて使役できた期間、跛行が消失する確率などが、有意に優れていました。このため、コルチコステロイドとヒアルロン酸の舟嚢内投与は、舟状骨症候群の罹患馬のうち、特に跛行症状が半年未満である症例において、比較的に良好な疼痛緩和作用が期待できることが示唆されました。他の文献を見ると、同様な舟嚢注射による治療成績は、意図した用途へ復帰した割合は80%または74%で、意図した用途にて使役できた期間は4.6ヶ月または7.3ヶ月であったことが報告されています(Bell et al. JAVMA. 2009;234:920, Dabareiner et al. JAVMA. 2003;223:1469)。
この研究では、舟嚢注射による効能は、MRI検査で見つかった病変の種類によって異なる傾向が認められ、最も治療効果が高いのは、原発性の深屈腱炎(Primary deep digital
flexor [DDF] tendonitis)の症例であり、次いで、舟嚢炎(Navicular bursitis)の症例、および、深屈腱炎および舟状骨側副靭帯癒着(Adhesions to the collateral sesamoidean ligament of the navicular bone)の症例であったことが示されました。一方で、舟嚢近位部の瘢痕組織(Scar tissue in the proximal portion of the navicular bursa)や、舟状骨と深屈腱の癒着、および、複数の異常所見(Multiple abnormalities)が認められた症例では、舟嚢注射による効能は芳しくなかった事が報告されています。このため、コルチコステロイドとヒアルロン酸の舟嚢内投与では、MRI検査によって病変のタイプや位置を確定診断(Definitive diagnosis)することで、正確な予後判定(Prognostication)が可能になると考察されています。
この研究では、舟嚢注射と休養(Rest)が併用された場合には、意図した用途にて使役できた期間は19ヶ月であり、跛行が消失した馬の割合は71%でした、一方で、舟嚢注射のみが行われた場合には、意図した用途にて使役できた期間は5.5ヶ月であり、跛行が消失した馬の割合は17%にとどまっていました。このため、舟状骨症候群の治療に際しては、舟嚢への抗炎症剤やヒアルロン酸の注射だけでなく、充分な休養期間を置くことが重要であると考察されています。
この研究では、舟状骨と深屈腱のあいだの癒着が認められた症例に対して、注射によって舟嚢を加圧(Pressurization of the navicular bursa)して、癒着を剥がす治療法が試みられました。治療成績のデータを見ると、MRI検査で癒着が見つかった場合には、舟嚢注射療法の効能が低いことから、物理的に癒着部を剥離させることで、予後が改善する可能性があると推測されています。しかし、今回は回顧的解析の研究であるため、陽性対照郡(癒着が見つかっても敢えて加圧療法をしなかった群)、および、陰性対照郡(癒着無しでも加圧療法を行った郡)がいないため、舟嚢の加圧によってどの程度の効能があるのかは評価できない、という考察がなされています。
この研究では、蹄鉗子(Hoof tester)において蹄叉中央部(Middle of frog)での圧痛が認められた馬は、全症例の四分の三にとどまっており、また、跛行のグレードも病変の重さとは相関していませんでした。このため、舟状骨症候群における病変の重篤度を、蹄鉗子での圧痛や跛行のみで推測するのは適切ではない、という警鐘が鳴らされています。
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結果としては、コルチコステロイドとヒアルロン酸が舟嚢注射された101頭の馬のうち、意図した用途へ復帰(Returned to their intended use)したのは75%(76/101頭)で、意図した用途にて使役できた期間は平均9.7ヶ月であり、また、跛行が消失したのは35%(35/101頭)であったことが示されました。そして、治療前に跛行を呈した期間が六ヶ月未満であった症例では、六ヶ月以上であった症例に比べて、意図した用途へ復帰できる確率や、意図した用途にて使役できた期間、跛行が消失する確率などが、有意に優れていました。このため、コルチコステロイドとヒアルロン酸の舟嚢内投与は、舟状骨症候群の罹患馬のうち、特に跛行症状が半年未満である症例において、比較的に良好な疼痛緩和作用が期待できることが示唆されました。他の文献を見ると、同様な舟嚢注射による治療成績は、意図した用途へ復帰した割合は80%または74%で、意図した用途にて使役できた期間は4.6ヶ月または7.3ヶ月であったことが報告されています(Bell et al. JAVMA. 2009;234:920, Dabareiner et al. JAVMA. 2003;223:1469)。
この研究では、舟嚢注射による効能は、MRI検査で見つかった病変の種類によって異なる傾向が認められ、最も治療効果が高いのは、原発性の深屈腱炎(Primary deep digital
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この研究では、舟嚢注射と休養(Rest)が併用された場合には、意図した用途にて使役できた期間は19ヶ月であり、跛行が消失した馬の割合は71%でした、一方で、舟嚢注射のみが行われた場合には、意図した用途にて使役できた期間は5.5ヶ月であり、跛行が消失した馬の割合は17%にとどまっていました。このため、舟状骨症候群の治療に際しては、舟嚢への抗炎症剤やヒアルロン酸の注射だけでなく、充分な休養期間を置くことが重要であると考察されています。
この研究では、舟状骨と深屈腱のあいだの癒着が認められた症例に対して、注射によって舟嚢を加圧(Pressurization of the navicular bursa)して、癒着を剥がす治療法が試みられました。治療成績のデータを見ると、MRI検査で癒着が見つかった場合には、舟嚢注射療法の効能が低いことから、物理的に癒着部を剥離させることで、予後が改善する可能性があると推測されています。しかし、今回は回顧的解析の研究であるため、陽性対照郡(癒着が見つかっても敢えて加圧療法をしなかった群)、および、陰性対照郡(癒着無しでも加圧療法を行った郡)がいないため、舟嚢の加圧によってどの程度の効能があるのかは評価できない、という考察がなされています。
この研究では、蹄鉗子(Hoof tester)において蹄叉中央部(Middle of frog)での圧痛が認められた馬は、全症例の四分の三にとどまっており、また、跛行のグレードも病変の重さとは相関していませんでした。このため、舟状骨症候群における病変の重篤度を、蹄鉗子での圧痛や跛行のみで推測するのは適切ではない、という警鐘が鳴らされています。
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