馬の文献:蟻洞(Turner et al. 1996)
文献 - 2015年12月09日 (水)

「抗生物質含有の蹄整復素材を用いての蟻洞の治療:有望な新療法」
Turner TA, Anderson BH. Use of antibiotic-impregnated hoof repair material for the treatment of hoof wall separation: a promising new treatment. Proc AAEP; 1996; 42: 205-207.
この研究論文では、馬の蟻洞(Hoof wall separation)に対する有用な装蹄療法(Therapeutic shoeing)を検討するため、抗生物質含有の蹄整復素材(Antibiotic-impregnated hoof repair material)を用いての蹄壁欠損部の被覆が実施された、十八頭の患馬の治療成績が報告されています。
この研究では、まず、溶出試験(Elution testing)として、ゲンタマイシンをアクリル素材に混合し、立方体状に加工してから、それを37度の温度の電解質溶液(Electrolyte solution)に浸して、この溶液中に溶け出したゲンタマイシンの濃度測定が行われました。この結果、電解質溶液への浸してから78時間後までゲンタマイシンの溶出が確認され、アクリル素材に抗生物質を含有させることで、蹄部組織へと局所投与(Local administration)する手法が有効であることが示唆されました。
この研究では、臨床試験(Clinical trial)に先立って、八頭の健常なポニーを用いて、前肢蹄の背側蹄壁(Dorsal hoof wall)に、蹄冠(Coronary band)から5mmの位置から地面まで達する欠損部を作成し、それを通常のアクリル素材(=八頭中の四頭)、もしくは抗生物質(メトロニダゾール)を含有させたアクリル素材で覆ってから(=残りの四頭)、一週間後における蹄壁再生の評価が行われました。この結果、通常のアクリル素材が用いられた四頭のうち二頭が治療“失敗”(The repairs were “failed”)となり、蹄壁組織における中程度の炎症(Moderate inflammation)が確認されました。一方、抗生物質含有のアクリル素材が用いられた四頭では、治療失敗となった馬は一頭もなく、蹄壁組織の炎症も認められませんでした。
この研究での臨床試験では、十八頭(二十五蹄)の症例において、病変箇所の蹄壁切除によって露出した蹄葉組織を、メトロニダゾールを含有させたアクリル素材で覆ってから、その表面をさらに通常のアクリル素材で被覆する手法が実施されました。この結果、全ての症例において、罹患蹄の良好な治癒と、“予想よりも早期”(Earlier than expected)の体重負荷が認められました。そして、抗生物質含有のアクリル素材の再使用(Reapplication)を要したのは二頭のみで、この二頭も治癒過程の遅延(Delayed healing process)を示すことなく、良好な予後を達成したことが報告されています。このため、蟻洞に起因する蹄壁損失(Hoof wall loss)に対しては、抗生物質含有の蹄整復素材の使用によって、充分な病巣治癒と良好な予後が期待され、早期の運動復帰(Early return to exercise)を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
一般的に、馬の蹄壁欠損においては、充填素材の深部に細菌&真菌増殖(Bacterial/Fungal proliferation)を続発すると、被覆素材のゆるみや破損につながり、慢性経過(Chronic progression)を示す危険性が高いと考えられており、抗生物質を含有させた蹄壁整復素材を用いることで、深部での細菌&真菌感染を抑える効果が期待できる、という考察がなされています。しかし、抗生物質と混合させたアクリル素材は、完全に硬化するまでの時間が長くなる傾向が認められ、蹄壁の堅固な保護が充分に達成できない可能性もあると予測されたことから、実際の臨床応用に際しては、この抗生物質含有素材の外側を、もう一層の通常素材で覆う工夫がなされました。
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