馬の文献:蟻洞(Kuwano et al. 1998)
文献 - 2015年12月11日 (金)
「馬の白線病における蹄真菌症:病理学、菌類学、臨床的特徴」
Kuwano A, Yoshihara T, Takatori K, Kosuge J. Onychomycosis in white line disease in horses: pathology, mycology and clinical features. Equine Vet J Suppl. 1998; (26): 27-35.
この研究論文では、馬の白線病(White line disease)における蹄真菌症(Onychomycosis)を病態解明するため、51頭の白線病の罹患馬から採取した100蹄の病理組織学的&菌類学検査(Histopathological and mycological examination)、および、三頭の白線病の罹患馬における、臨床的特徴(Clinical feature)と剖検所見の解析が行われました。
この研究では、全ての患馬の病巣組織において、蹄壁と白線のあいだに不規則間隙(Irregular space between hoof wall and white line)が認められ、この領域の辺縁に、球形~桿形の好塩基性菌(Spherical/Bacilli forms of basophilic bacteria)の癒着(Adhesion)が見られました。また、蹄真菌症の診断が下された九頭では、パス染色陽性の真菌が多量に発見され、球状~ラケット状の酵母様真菌(Spherical to racket forms of yeast-like fungus)が確認された検体もありました。これらの組織から分離された菌には、Scedosporium apiospermum、Pseudallexheria boydii、S. apiospennum、Genus Scedosporium等が含まれ、このうち、Scedosporium菌が分離された症例では、いずれも重篤な亀裂形成(Severe fissure formation)が示されました。
一般的に蹄真菌症は、蛋白質分解酵素を生成する真菌(Protease-producing fungi)が、角質組織に寄生する病態を指し、馬において白線組織に蹄真菌症を生じた場合には、その病原的&病理的な特徴(Pathogenetic and pathological characteristics)を理解することが、獣医師および装蹄師に取って重要であると提唱されています。この研究では、白線病の罹患蹄の約10%において蹄真菌症の併発が認められ、その病巣は肥厚または異形成の白線様組織(Hypertrophy or metaplastic white line-like tissue)に見られ、これらの病巣においては、異形成した白線の末端角質様蹄葉(Terminal horn-like laminae in the metaplastic white line)に腐食性細菌(Saprophagous bacteria)が感染することで、軟化した角質組織が真菌感染の感受性領域(Susceptible region)になることが示唆されました。
この研究では、七割の検体においてGenus Scedosporiumが分離され、また、重篤な亀裂病変を生じた罹患蹄においては、Genus Scedosporiumが関与している場合が多かったことから、日本で見られる馬の蹄真菌症の原因菌として、Scedosporium菌が重要であることが示唆されました。しかし、Scedosporium菌はDeuteromycota菌に属し、これは世界中の土壌に分布していることが知られています(McGinnis. Laboratory Handbook of Medical Mycology. 1980; Rippon. Medical Mycology. 1988; Kwon-Chung and Bennett. Medical Mycology. 1992)。
この研究では、白線病が原因で安楽死(Euthanasia)となった三頭の患馬では、内層肥厚(Hypertrophy of stratum intemum)、蹄骨回転(Distal phalanx rotation)、壁下亀裂形成(Submural fissure formation)などの、特徴的な形態学変化(Morphological changes)が認められました。また、この三頭のうち一頭は、蹄葉炎(Laminitis)の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、他の二頭も先行疾患(Preseding disorder)として蹄葉炎を発症していたことが疑われたことから、蹄真菌症の病因(Etiology)として蹄葉炎が関与している可能性が示唆されました。そして、このような蹄葉炎型蟻洞(Laminitic hoof wall separation)においては、亀裂形成の悪化(Worsening fissure formation)は、真菌感染の度合いではなく、肥厚性白線の範囲(Extent of hypertrophic white line)に影響を受けるという仮説(Hypothesis)がなされています。一方で、蹄骨回転は蹄葉炎だけでなく、重篤な蹄壁離断から引き起こされる場合もあることから(Redden. Equine Pract. 1990;12:1)、蟻洞のほうが先に発症して、蹄壁の蹄骨支持機能が失われることで、蹄骨回転に至る可能性もある、という考察もなされています。
この研究では、安楽死となった三頭のうち二頭において、蹄壁空洞(Hoof wall cavities)の内部への樹脂充填(Resin packing)および木炭軟膏(Charcoal ointment)の塗布、周辺角質への消毒剤(=アイソプロピル・アルコール)の使用などが試みられましたが、病気の進行(Disease progression)を止めることは出来ませんでした。このため、蹄真菌症によって生じた空洞内への殺菌&消毒剤の使用は、それほど効果的ではないことが示唆され、この要因としては、硬い角質内(Hard horny tissue)に存在する真菌に対しては、殺菌&消毒剤の浸透が不十分であったことが挙げられています(薬剤自体は病原真菌に効能を示すため)。
この研究では、蹄真菌症の潜在的な予防法(Potential preventive methods)としては、初期病態において白線病を完全に除去すること(Complete resection of white line disease at an early stage)(Ball and Evans. Am Farriers J. 1992;18:30; Gallenberger. Am Farriers J. 1994;20:48)、角質親和性(Horn affinity)の高い焼烙剤および抗真菌剤の局所使用(Local application of cauterisation and antifungal agents)、などが挙げられています。また、蹄鑢や蹄刀などの装蹄道具(Horseshoeing tools)を介して蹄真菌症が伝播される可能性や、蹄真菌症の原因菌の薬剤耐性(Drug resistance)についても、更なる検討を要すると考えられました。
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この研究論文では、馬の白線病(White line disease)における蹄真菌症(Onychomycosis)を病態解明するため、51頭の白線病の罹患馬から採取した100蹄の病理組織学的&菌類学検査(Histopathological and mycological examination)、および、三頭の白線病の罹患馬における、臨床的特徴(Clinical feature)と剖検所見の解析が行われました。
この研究では、全ての患馬の病巣組織において、蹄壁と白線のあいだに不規則間隙(Irregular space between hoof wall and white line)が認められ、この領域の辺縁に、球形~桿形の好塩基性菌(Spherical/Bacilli forms of basophilic bacteria)の癒着(Adhesion)が見られました。また、蹄真菌症の診断が下された九頭では、パス染色陽性の真菌が多量に発見され、球状~ラケット状の酵母様真菌(Spherical to racket forms of yeast-like fungus)が確認された検体もありました。これらの組織から分離された菌には、Scedosporium apiospermum、Pseudallexheria boydii、S. apiospennum、Genus Scedosporium等が含まれ、このうち、Scedosporium菌が分離された症例では、いずれも重篤な亀裂形成(Severe fissure formation)が示されました。
一般的に蹄真菌症は、蛋白質分解酵素を生成する真菌(Protease-producing fungi)が、角質組織に寄生する病態を指し、馬において白線組織に蹄真菌症を生じた場合には、その病原的&病理的な特徴(Pathogenetic and pathological characteristics)を理解することが、獣医師および装蹄師に取って重要であると提唱されています。この研究では、白線病の罹患蹄の約10%において蹄真菌症の併発が認められ、その病巣は肥厚または異形成の白線様組織(Hypertrophy or metaplastic white line-like tissue)に見られ、これらの病巣においては、異形成した白線の末端角質様蹄葉(Terminal horn-like laminae in the metaplastic white line)に腐食性細菌(Saprophagous bacteria)が感染することで、軟化した角質組織が真菌感染の感受性領域(Susceptible region)になることが示唆されました。
この研究では、七割の検体においてGenus Scedosporiumが分離され、また、重篤な亀裂病変を生じた罹患蹄においては、Genus Scedosporiumが関与している場合が多かったことから、日本で見られる馬の蹄真菌症の原因菌として、Scedosporium菌が重要であることが示唆されました。しかし、Scedosporium菌はDeuteromycota菌に属し、これは世界中の土壌に分布していることが知られています(McGinnis. Laboratory Handbook of Medical Mycology. 1980; Rippon. Medical Mycology. 1988; Kwon-Chung and Bennett. Medical Mycology. 1992)。
この研究では、白線病が原因で安楽死(Euthanasia)となった三頭の患馬では、内層肥厚(Hypertrophy of stratum intemum)、蹄骨回転(Distal phalanx rotation)、壁下亀裂形成(Submural fissure formation)などの、特徴的な形態学変化(Morphological changes)が認められました。また、この三頭のうち一頭は、蹄葉炎(Laminitis)の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、他の二頭も先行疾患(Preseding disorder)として蹄葉炎を発症していたことが疑われたことから、蹄真菌症の病因(Etiology)として蹄葉炎が関与している可能性が示唆されました。そして、このような蹄葉炎型蟻洞(Laminitic hoof wall separation)においては、亀裂形成の悪化(Worsening fissure formation)は、真菌感染の度合いではなく、肥厚性白線の範囲(Extent of hypertrophic white line)に影響を受けるという仮説(Hypothesis)がなされています。一方で、蹄骨回転は蹄葉炎だけでなく、重篤な蹄壁離断から引き起こされる場合もあることから(Redden. Equine Pract. 1990;12:1)、蟻洞のほうが先に発症して、蹄壁の蹄骨支持機能が失われることで、蹄骨回転に至る可能性もある、という考察もなされています。
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この研究では、蹄真菌症の潜在的な予防法(Potential preventive methods)としては、初期病態において白線病を完全に除去すること(Complete resection of white line disease at an early stage)(Ball and Evans. Am Farriers J. 1992;18:30; Gallenberger. Am Farriers J. 1994;20:48)、角質親和性(Horn affinity)の高い焼烙剤および抗真菌剤の局所使用(Local application of cauterisation and antifungal agents)、などが挙げられています。また、蹄鑢や蹄刀などの装蹄道具(Horseshoeing tools)を介して蹄真菌症が伝播される可能性や、蹄真菌症の原因菌の薬剤耐性(Drug resistance)についても、更なる検討を要すると考えられました。
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