馬の文献:蟻洞(Kuwano. 2005)
文献 - 2015年12月14日 (月)
「蟻洞に関するこれまでの知見」
桑野睦敏、馬の科学(臨床トピック)、2005、Vol.42(4)、266-269。
この指導論文では、馬の蟻洞(Hoof wall separation)における発症の要因、増悪因子、診断法、診断法などが解説されています。
一般的に、蟻洞とは、蹄壁の奥深くに空洞が生じる蹄病の総称で、蹄壁中層と葉状層のあいだ、および蹄負面では白線と蹄壁中層とのあいだで、それらの結合が分離して空洞を有するもの、と定義されています。蟻洞が起こる要因には、蹄壁成長の異常(Abnormal hoof wall growth)、外傷(Trauma)、炎症(Inflammation)、乾燥と湿潤の繰り返し、などが挙げられており、真菌や細菌といった微生物の汚染(Bacterial/Fungal contamination)が、蟻洞を悪化させることが報告されています。馬の蟻洞は、その病態に応じて、(1)単純型蟻洞:基礎疾患の見つからない場合、(2)白線裂型蟻洞:白線裂から蹄壁を上へと逆上るように進行した病態、(3)蹄葉炎型蟻洞:蹄葉炎から進行した病態、の大きく三つに分類されています。
馬の蟻洞の診断では、蹄鉄を外した際の蹄鉄に隠れていた箇所の蹄負面の視診、蹄釘などの担子による触診、造影レントゲン検査(Contrast radiography)などを要することが多く、大きな蟻洞が生じた症例では、蹄壁の表面をコツコツ叩くことで空洞音を聴診(Auscultation)する手法が有効な場合もあります。日本のサラブレッド競走馬における、蟻洞の発症状況の調査では、その有病率(Prevalence)は3.2%(152/4765頭)に及び、蟻洞は前肢の蹄尖部(Toe region of forelimb foot)に好発する傾向が認められました。
馬の蟻洞の治療法は、空洞が広がらないように装蹄療法(Therapeutic shoeing)を工夫して、運動を控え、抗生剤、抗真菌剤、消毒薬などを使用しながら、蹄壁の生え変わりと共に、空洞が排出されるのを待つことを基本指針とします。また、空洞内への樹脂充填材(Resin filling material)の注入が応用される事もありますが、嫌気性菌(Anaerobic bacteria)の増殖から蟻洞の悪化を招く場合もあります。そして、空洞内に汚泥が残らないよう、蹄壁を大きく削り取り(Extensive hoof wall resection)、空洞を露出させる対処法を要することもありますが、この結果、不安定になった蹄骨が下方変位(Distal displacement)することで、蹄底真皮を圧迫して、重篤な疼痛や跛行(Severe pain/lameness)を続発する危険性もあります。
馬の蟻洞の予防のためには、馬房内を清潔に維持すること、装蹄師による初期病巣(Early-stage lesion)の早期薄削、蹄鉄の鉄唇(Clips)の位置の工夫などが試みられています。また、蟻洞は蹄尖部に好発するため、蹄反回(Hoof break-over)の際の床反力(Ground reaction force)が発症に関与すると推測されることから、削切によって蹄尖を短縮(Toe shortening)して、反回時の負担を軽減する手法も有効であると考えられています。
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桑野睦敏、馬の科学(臨床トピック)、2005、Vol.42(4)、266-269。
この指導論文では、馬の蟻洞(Hoof wall separation)における発症の要因、増悪因子、診断法、診断法などが解説されています。
一般的に、蟻洞とは、蹄壁の奥深くに空洞が生じる蹄病の総称で、蹄壁中層と葉状層のあいだ、および蹄負面では白線と蹄壁中層とのあいだで、それらの結合が分離して空洞を有するもの、と定義されています。蟻洞が起こる要因には、蹄壁成長の異常(Abnormal hoof wall growth)、外傷(Trauma)、炎症(Inflammation)、乾燥と湿潤の繰り返し、などが挙げられており、真菌や細菌といった微生物の汚染(Bacterial/Fungal contamination)が、蟻洞を悪化させることが報告されています。馬の蟻洞は、その病態に応じて、(1)単純型蟻洞:基礎疾患の見つからない場合、(2)白線裂型蟻洞:白線裂から蹄壁を上へと逆上るように進行した病態、(3)蹄葉炎型蟻洞:蹄葉炎から進行した病態、の大きく三つに分類されています。
馬の蟻洞の診断では、蹄鉄を外した際の蹄鉄に隠れていた箇所の蹄負面の視診、蹄釘などの担子による触診、造影レントゲン検査(Contrast radiography)などを要することが多く、大きな蟻洞が生じた症例では、蹄壁の表面をコツコツ叩くことで空洞音を聴診(Auscultation)する手法が有効な場合もあります。日本のサラブレッド競走馬における、蟻洞の発症状況の調査では、その有病率(Prevalence)は3.2%(152/4765頭)に及び、蟻洞は前肢の蹄尖部(Toe region of forelimb foot)に好発する傾向が認められました。
馬の蟻洞の治療法は、空洞が広がらないように装蹄療法(Therapeutic shoeing)を工夫して、運動を控え、抗生剤、抗真菌剤、消毒薬などを使用しながら、蹄壁の生え変わりと共に、空洞が排出されるのを待つことを基本指針とします。また、空洞内への樹脂充填材(Resin filling material)の注入が応用される事もありますが、嫌気性菌(Anaerobic bacteria)の増殖から蟻洞の悪化を招く場合もあります。そして、空洞内に汚泥が残らないよう、蹄壁を大きく削り取り(Extensive hoof wall resection)、空洞を露出させる対処法を要することもありますが、この結果、不安定になった蹄骨が下方変位(Distal displacement)することで、蹄底真皮を圧迫して、重篤な疼痛や跛行(Severe pain/lameness)を続発する危険性もあります。
馬の蟻洞の予防のためには、馬房内を清潔に維持すること、装蹄師による初期病巣(Early-stage lesion)の早期薄削、蹄鉄の鉄唇(Clips)の位置の工夫などが試みられています。また、蟻洞は蹄尖部に好発するため、蹄反回(Hoof break-over)の際の床反力(Ground reaction force)が発症に関与すると推測されることから、削切によって蹄尖を短縮(Toe shortening)して、反回時の負担を軽減する手法も有効であると考えられています。
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