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馬の文献:蟻洞(Kuwano. 2008)

「蟻洞、発生の仕組みと対策」
桑野睦敏、競走馬事故防止対策委員会による刊行シリーズ(日本中央競馬会):2008年。

この指導論文では、馬の蟻洞(Hoof wall separation)の治療方法が解説されています。

馬の蟻洞は、蹄壁の深い部分が空洞化した状態を指し、その発現形態によって、白線裂型蟻洞(日本では最も多いタイプ)、蹄葉炎型蟻洞、単純型蟻洞の三種類に分類されます。蟻洞の発生要因としては、病気の影響によって蹄壁が脆くなること、飼料の問題によって角質形成が不十分になること、蹄壁を脆くさせる飼育環境の問題、力学的な負荷、微生物による蹄角質の侵食、などが挙げられます。また、日本の競走馬における蟻洞では、発症率は2.7~3.2%で、その八割以上が前肢に、半数以上が蹄尖部に発症することが報告されています。

馬の蟻洞の治療では、病変部を括削する装蹄療法(Therapeutic shoeing)が有効ですが、どこまで蹄壁を削っていいかは個体差が大きく、一概には決められませんが、蹄壁をあまり広く括削すると、蹄の堅牢性が失われ、蹄壁自体が損傷する危険性もあります。また、病変が小さいうちに削ってしまう早期括削は、蟻洞の広がりを防ぐために重要です。さらに、細菌や真菌が関わる蟻洞に対する処置では、消毒薬に蹄を漬け込む手法や(蹄が軟化するため現役競走馬には向いていない)、ガスバーナーを用いた焼烙法、抗真菌薬や抗生剤軟膏の塗布、などが試みられています。

馬の蟻洞の予防では、蹄尖短縮(Toe shortening)を施すことで、蹄反回(Hoof break-over)の際に蹄尖部(=蟻洞の好発箇所)に生まれる床反力(Ground reaction force)を軽減したり、過長蹄を修正することが不可欠です。そして、蹄下面に敷料が詰まって白線裂を起こさないよう、十分な頻度での裏掘りを徹底したり、蟻洞になり易い馬や既に発症した馬では、蹄下面に詰まりにくいワラ馬房に変更することが推奨されています。また、ワラ馬房においては、角質を脆くさせると言われるアンモニアが揮発しやすいという利点もあります。さらに、アンモニア以外にも湿った環境そのものが蹄の天敵であることから、手入れの後には蹄を十分に乾かしたり、蹄油を塗って蹄壁の水分含量を適正に保つことも大切です。

一方、蟻洞がどの程度まで悪化した時に運動制限するかに関しては、装蹄師さんとの相談が必要であると言えます。飼料については、蹄壁の成長を促すためのビタミン、ミネラル、アミノ酸をバランスよく給餌したり、市販の蹄用サプリメントを与える方法も有用です。一般的に、大きな負荷が掛かる馬蹄のケアーは難しい場合も多いですが、馬の飼養管理者、装蹄師、獣医師がそれぞれの役割を熟知して、一丸となって対応していくことで、蟻洞の発症や悪化を軽減できる、という提言がなされています。

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馬の病気:蟻洞




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