馬の文献:蟻洞(Kuwano et al. 2012)
文献 - 2015年12月21日 (月)
「競走馬における蹄壁空洞形成(日本語の蟻洞)の易学的調査」
Kuwano A, Yamauchi Y, Sasagawa T, Sasaki N, Hamano H. Epidemiological survey of the hoof wall cavity ('Gidoh' in Japanese) in racehorses. Vet Rec. 2012; 171(24): 623.
この研究論文では、競走馬における蹄壁空洞形成(hoof wall cavity)(日本語でいう蟻洞)の病態解明のため、中央競馬の二つのトレーニングセンター(TC)のサラブレッド競走馬における易学的調査(Epidemiological survey)、および、ロジスティック回帰解析(Logistic regression analysis)が行われました。この研究では、蹄葉の内層と中層のあいだの深部層(Deep layers between the stratum medium and stratum internum)に生じた進行性の空洞形成(Progressive cavity)を蟻洞と定義しました。
結果としては、調査対象となった5,386頭における蟻洞の有病率(Prevalence)は2.75%(148/5386頭)で、罹患蹄のうち前肢蹄が84.02%(205/244蹄)を占めていました。また、244蹄に認められた317箇所の病変のうち、蹄尖の真ん中(Midline dead center of the toe)がその59.62%(189/317病変)を占めていました。このため、蟻洞の一次性病因(Primary cause)は、運動時における蹄壁の物理的変形(Mechanical deformation of the hoof wall)であると仮説されており、二次性病因によって病変が蹄壁全体に拡大していくと考えられました。他の文献でも、馬が直線運動をする時には、反回点(Break-over point)に当たる蹄壁に大きな負荷が発生することが報告されています(Summerley et al. EVJ. 1998;s26.1)。
この研究では、蟻洞の病変を悪化させる二次性病因としては、(1)蹄の解剖学的形状の異常(Abnormal anatomical conformation)(Moyer. VetClinNAmEqPract. 2003;19:463)、(2)水分や尿による角質構造の腫脹および軟化(Swelling and softening of the horny structure)(Gregory. Aust Vet J. 2004;82:161)、(3)真菌または細菌の感染(Fungal or bacterial infection)(Kuwano et al. EVJ. 1998;s26:27)、(4)装蹄が不定期(Irregular farriery)であったため初期病変が軽視(Neglect of incipient lesions)されてしまったこと(Booth et al. Equine Podiatry. 2007:224)、などが挙げられています。このうち、軽視されがちな初期病変としては白線病(White line disease)の病巣が挙げられており、これを除去することで蟻洞へと進行するのを予防する、という管理方針も推奨されています。
この研究では、年齢ごとの蟻洞の有病率は、二歳では1.68%、三歳では2.42%、四歳では3.95%、五歳では4.78%、六歳では4.76%、七歳では10.39となっており、加齢によって蟻洞の有病率が高くなっていく傾向が認められました。ロジスティック回帰解析の結果では、蟻洞を起こしている確率が一歳ごとに43%増加する(オッズ比:1.43)ことが示されました。この要因としては、年齢を重ねた競走馬のほうが、運動量が多くなる傾向にあり、蹄に対して強い動的衝撃(Stronger dynamic impact)が掛かることが多かったことが挙げられています。
この研究では、所属地(Affiliation)ごとの蟻洞の有病率を見ると、栗東TCでは2.14%なのに対して、美浦TCでは3.28%とやや高くなっていました。ロジスティック回帰解析の結果では、栗東TCのほうが美浦TCと比較して、蟻洞を起こしている確率が約三分の二まで低い(オッズ比:0.65)ことが示されました。この理由については、この論文の中では明確には結論付けられておらず、調教法や装蹄法に大きな違いは無いことが指摘されています。しかし、一つの潜在的な可能性としては、美浦TCのほうが蹄尖過長(Long toe)の馬が多いという調教師の逸話的な口述("Trainers anecdotally said”)が紹介されており、蹄尖が長いことで深部角質構造(Separation of hoof wall from its deeper horny structures)からの蹄壁分離が起きやすくなった(O’Grady. Eq Vet Educ. 2002;14:51)、という考察がなされています。
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Kuwano A, Yamauchi Y, Sasagawa T, Sasaki N, Hamano H. Epidemiological survey of the hoof wall cavity ('Gidoh' in Japanese) in racehorses. Vet Rec. 2012; 171(24): 623.
この研究論文では、競走馬における蹄壁空洞形成(hoof wall cavity)(日本語でいう蟻洞)の病態解明のため、中央競馬の二つのトレーニングセンター(TC)のサラブレッド競走馬における易学的調査(Epidemiological survey)、および、ロジスティック回帰解析(Logistic regression analysis)が行われました。この研究では、蹄葉の内層と中層のあいだの深部層(Deep layers between the stratum medium and stratum internum)に生じた進行性の空洞形成(Progressive cavity)を蟻洞と定義しました。
結果としては、調査対象となった5,386頭における蟻洞の有病率(Prevalence)は2.75%(148/5386頭)で、罹患蹄のうち前肢蹄が84.02%(205/244蹄)を占めていました。また、244蹄に認められた317箇所の病変のうち、蹄尖の真ん中(Midline dead center of the toe)がその59.62%(189/317病変)を占めていました。このため、蟻洞の一次性病因(Primary cause)は、運動時における蹄壁の物理的変形(Mechanical deformation of the hoof wall)であると仮説されており、二次性病因によって病変が蹄壁全体に拡大していくと考えられました。他の文献でも、馬が直線運動をする時には、反回点(Break-over point)に当たる蹄壁に大きな負荷が発生することが報告されています(Summerley et al. EVJ. 1998;s26.1)。
この研究では、蟻洞の病変を悪化させる二次性病因としては、(1)蹄の解剖学的形状の異常(Abnormal anatomical conformation)(Moyer. VetClinNAmEqPract. 2003;19:463)、(2)水分や尿による角質構造の腫脹および軟化(Swelling and softening of the horny structure)(Gregory. Aust Vet J. 2004;82:161)、(3)真菌または細菌の感染(Fungal or bacterial infection)(Kuwano et al. EVJ. 1998;s26:27)、(4)装蹄が不定期(Irregular farriery)であったため初期病変が軽視(Neglect of incipient lesions)されてしまったこと(Booth et al. Equine Podiatry. 2007:224)、などが挙げられています。このうち、軽視されがちな初期病変としては白線病(White line disease)の病巣が挙げられており、これを除去することで蟻洞へと進行するのを予防する、という管理方針も推奨されています。
この研究では、年齢ごとの蟻洞の有病率は、二歳では1.68%、三歳では2.42%、四歳では3.95%、五歳では4.78%、六歳では4.76%、七歳では10.39となっており、加齢によって蟻洞の有病率が高くなっていく傾向が認められました。ロジスティック回帰解析の結果では、蟻洞を起こしている確率が一歳ごとに43%増加する(オッズ比:1.43)ことが示されました。この要因としては、年齢を重ねた競走馬のほうが、運動量が多くなる傾向にあり、蹄に対して強い動的衝撃(Stronger dynamic impact)が掛かることが多かったことが挙げられています。
この研究では、所属地(Affiliation)ごとの蟻洞の有病率を見ると、栗東TCでは2.14%なのに対して、美浦TCでは3.28%とやや高くなっていました。ロジスティック回帰解析の結果では、栗東TCのほうが美浦TCと比較して、蟻洞を起こしている確率が約三分の二まで低い(オッズ比:0.65)ことが示されました。この理由については、この論文の中では明確には結論付けられておらず、調教法や装蹄法に大きな違いは無いことが指摘されています。しかし、一つの潜在的な可能性としては、美浦TCのほうが蹄尖過長(Long toe)の馬が多いという調教師の逸話的な口述("Trainers anecdotally said”)が紹介されており、蹄尖が長いことで深部角質構造(Separation of hoof wall from its deeper horny structures)からの蹄壁分離が起きやすくなった(O’Grady. Eq Vet Educ. 2002;14:51)、という考察がなされています。
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