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馬の文献:末節骨骨折(Scott et al. 1991)

「末節骨の伸筋突起骨折に起因して軟骨下嚢胞を発症した馬の一症例」
Scott EA, Snyder SP, Schmotzer WB, Pool R. Subchondral bone cysts with fractures of the extensor processes in a horse. J Am Vet Med Assoc. 1991; 199(5): 595-597.

この症例論文では、末節骨の伸筋突起骨折(Extensor process fracture of distal phalanx)に起因して、軟骨下嚢胞(Subchondral bone cyst)を発症した馬の一症例が報告されています。

この症例馬は、三歳齢のペイントホース去勢馬で、調馬索の際の跛行(両前肢とも)、球節屈曲試験による跛行悪化(Lameness exacerbation with fetlock flexion test)、遠軸種子骨神経麻酔(Abaxial sesamoid nerve block)による跛行の消失(両前肢とも)が認められました。

遠位肢のレントゲン検査(Distal limb radiography)では、両前肢における末節骨の伸筋突起骨折(Extensor process fracture of distal phalanx)と、その骨折片の深部における骨嚢胞形成(Bone cyst formation)が確認されました。その後、蹄関節麻酔(Coffin joint block)によっても跛行改善が見られ、末節骨の伸筋突起骨折にともなう骨嚢胞が跛行の原因であることが強く示唆されたことから、治療としては、この嚢胞の外科的除去が選択されました。

手術は背臥位(Dorsal recumbency)で実施され、背側蹄冠(Dorsal coronary band)に設けられた切開創から、総肢伸筋腱(Common digital extensor tendon)を切開するかたちで、術部へのアプローチが達成されました。その後、メスとエレベーターで骨折片を伸筋腱から剥離してから、この骨折片の外科的除去が行われました。骨折片の下部の嚢胞は、掻爬子(Curette)によって切除&清掃(Debridement)され、関節面を滑面化(Smoothing articular surface)してから、手術創は縫合閉鎖されました。

術後は、六週間の馬房休養(Stall rest)のあとに放牧された時には、既に跛行は消失しており、手術の四ヶ月後および18ヶ月後における稟告では、跛行の再発(Lameness recurrence)や外観の問題(Cosmetic diminish)は生じていないことが確認されました。骨折片の組織学的検査(Histologic examination)では、異型性軟骨が海綿骨内部に形成されている所見(Dysplastic cartilage formation within trabecular bone)や、ミネラル化および骨化組織が嚢胞様の空洞内に存在している所見(Mineralized/Osseous tissue in large cystic cavity)などが見られました。

他の文献では、関節面に発生した蹄関節の骨嚢胞は報告されていますが、伸筋突起の部位における骨嚢胞は一般的ではありません。この症例では、骨折によって損傷された関節軟骨(Articular cartilage)において、骨端骨化(Endochondral ossification)に異常がもたらされたか、関節軟骨の裂傷部に関節液が浸入(Joint fluid migration)したことで、骨嚢胞の形成に至った、という病因論が仮説されています。

蹄関節の骨嚢胞では、その形成箇所によっては直ちに重度跛行は呈するわけではありませんが、病態が慢性化することによって起こる、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の続発(=低繋骨瘤:Low ringbone)を予防するため、骨嚢胞の外科的除去を行うことが推奨されています。そして、この症例報告の結果から、伸筋突起骨折に併発した骨嚢胞においても、外科的治療によって、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。この際には、総肢伸筋腱が治癒して、伸筋突起面に対して再び線維結合するまで、術後の六~八週間にわたって患馬を十分に休養させることが重要であることが提唱されています。一方、初診時に既に変性関節疾患が起こってしまった症例では、その予後は必ずしも芳しくないことが知られており、この症例報告の考察でも、蹄関節の骨嚢胞における早期診断&外科治療の重要性があらためて指摘されています。

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