馬の文献:末節骨骨折(Keegan et al. 1993)
文献 - 2016年01月03日 (日)
「馬の末節骨骨折の核シンティグラフィー検査:1979~1988年の27症例」
Keegan KG, Twardock AR, Losonsky JM, Baker GJ. Scintigraphic evaluation of fractures of the distal phalanx in horses: 27 cases (1979-1988). J Am Vet Med Assoc. 1993 Jun; 202(12): 1993-1997.
この研究論文では、末節骨骨折(Distal phalanx fracture)の診断における核シンティグラフィー(Nuclear scintigraphy)の有用性および信頼性を評価するため、1979~1988年においてレントゲン検査によって末節骨骨折が認められた25頭の患馬(27箇所の骨折)に対する核シンティグラフィー検査が実施されました。
結果としては、27箇所の骨折のうち74%(20/27骨折)において、放射医薬性取込(Radiopharmaceutical uptake)が見られ、特にスカイライン撮影像によって、骨折部位の特定が容易であるという結果が示されました。また、27箇所の骨折のうち三症例では、初診時のレントゲン検査では認められなかった骨折線が、核シンティグラフィーの使用によって始めて発見されました。このため、馬の末節骨骨折の診断における核シンティグラフィー検査は、有用性および信頼性が高く、レントゲン検査での発見が困難な症例をも、より高感度に探知できる可能性があることが示唆されました。末節骨骨折の罹患馬では、骨折線と脈管溝(Vascular channel)の陰影の見分けが難しい場合もあるため、レントゲン検査に核シンティグラフィー検査を併用して、より高い感度での診断指針が有効であると考察されています。
この研究では、骨折の経過が短い患馬(三ヶ月未満)の核シンティグラフィーのほうが、より一箇所に集中した放射医薬性取込(Intense uptake)が示され、経過が長い患馬(三ヶ月以上)の核シンティグラフィーでは、より拡散した放射医薬性取込(Diffuse uptake)が見られる傾向がありました。特に、経過が十日間未満の患馬では100%(7/7骨折)、経過が三ヶ月未満の患馬では89%(17/19骨折)において、一箇所に集中した放射医薬性取込が認められました。このため、末節骨骨折が疑われる症例においては、早期に核シンティグラフィー検査を実施することで、より正確に骨折箇所が特定できることが示唆されました。
この研究では、スカイライン撮影像に比べて、側方撮影像(Lateral view)のほうが、より拡散した放射医薬性取込が見られる傾向がありましたが、伸筋突起骨折(Extensor process fracture)(=タイプ4の末節骨骨折)は例外的で、側方撮影像のほうが、より限局性の放射医薬性取込(Focal uptake)が認められました。このため、側方撮影像を用いた核シンティグラフィー検査によって、タイプ4骨折と他の種類の末節骨骨折を、より信頼的に鑑別診断できると考えられました。
この研究では、九頭の患馬において、経時的な核シンティグラフィーによる末節骨骨折のモニタリングが行われ、初診から4~25ヵ月後の再検査によって、持続性の放射医薬性取込が認められました。そして、この九頭のうち一頭のみにおいて、初診から68ヶ月後の再検査時に、放射医薬性取込が消失している所見が確認されました。このため、核シンティグラフィーよって骨折と軟部組織損傷(Soft tissue injury)との鑑別が難しい症例においては(広範囲に拡散した放射医薬性取込が示された場合など)、経時的に複数回の核シンティグラフィーを実施することで、より信頼性の高い診断が可能であると考えられました。また、この九頭のうち五頭では、半年間にわたる馬房休養(Stall rest)によって、放射医薬性取込が減少していく所見も見られましたことから、末節骨骨折の治癒過程を、経時的な核シンティグラフィーを介してモニタリングすることで、適切に運動復帰の時期を見極める予後判定法も有用であるのかもしれません(レントゲン像上での末節骨の骨折線は殆ど変化しない症例が多いため)。
この研究では、スカイライン撮影像において、レントゲン像上の骨折線の位置と、核シンティグラフィー像上の骨折線の位置が、必ずしも一致しない現象が見られました。これは、レントゲン撮影時のエックス線が、フィルムに対して60度の角度で当たるのに対して、核シンティグラフィー撮影時のガンマ線は、カメラに対して90度の角度で当たることに反映していると考えられます。このため、二つの像を比較する際には、レントゲン像上の骨折線は、核シンティグラフィー像上の骨折線よりも、わずかに掌側変位(Palmar displacement)していることを考慮する必要がある、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、27箇所の末節骨骨折のうち、関節性の斜位掌側突起骨折(Articular oblique palmar process fracture)(=タイプ2の末節骨骨折)が、78%(21/27骨折)を占めており、最も発生頻度の高いタイプの骨折であることが示唆されました。また、25箇所の片軸性骨折の場合(=27箇所のうち2箇所の伸筋突起骨折を除いた場合)では、その84%(21/25骨折)を内側蹄骨(Medial aspect of distal phalanx)が占めており、これは、馬の遠位肢に掛かる負重&衝撃は外側よりも内側のほうが大きいことが関与していると推測されています。
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結果としては、27箇所の骨折のうち74%(20/27骨折)において、放射医薬性取込(Radiopharmaceutical uptake)が見られ、特にスカイライン撮影像によって、骨折部位の特定が容易であるという結果が示されました。また、27箇所の骨折のうち三症例では、初診時のレントゲン検査では認められなかった骨折線が、核シンティグラフィーの使用によって始めて発見されました。このため、馬の末節骨骨折の診断における核シンティグラフィー検査は、有用性および信頼性が高く、レントゲン検査での発見が困難な症例をも、より高感度に探知できる可能性があることが示唆されました。末節骨骨折の罹患馬では、骨折線と脈管溝(Vascular channel)の陰影の見分けが難しい場合もあるため、レントゲン検査に核シンティグラフィー検査を併用して、より高い感度での診断指針が有効であると考察されています。
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この研究では、スカイライン撮影像に比べて、側方撮影像(Lateral view)のほうが、より拡散した放射医薬性取込が見られる傾向がありましたが、伸筋突起骨折(Extensor process fracture)(=タイプ4の末節骨骨折)は例外的で、側方撮影像のほうが、より限局性の放射医薬性取込(Focal uptake)が認められました。このため、側方撮影像を用いた核シンティグラフィー検査によって、タイプ4骨折と他の種類の末節骨骨折を、より信頼的に鑑別診断できると考えられました。
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この研究では、27箇所の末節骨骨折のうち、関節性の斜位掌側突起骨折(Articular oblique palmar process fracture)(=タイプ2の末節骨骨折)が、78%(21/27骨折)を占めており、最も発生頻度の高いタイプの骨折であることが示唆されました。また、25箇所の片軸性骨折の場合(=27箇所のうち2箇所の伸筋突起骨折を除いた場合)では、その84%(21/25骨折)を内側蹄骨(Medial aspect of distal phalanx)が占めており、これは、馬の遠位肢に掛かる負重&衝撃は外側よりも内側のほうが大きいことが関与していると推測されています。
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