馬の文献:末節骨骨折(Klohnen et al. 1997)
文献 - 2016年01月05日 (火)
「馬の末節骨における斜骨折の治療例」
Klohnen A, Trostle SS, Stone WC, Johanningmeier D, Wilson DG, Hendrickson DA. Management of a transverse fracture in the distal phalanx of a horse. Can Vet J. 1997; 38(9): 561-563.
この症例論文では、感染性蹄骨炎(Septic pedal osteitis)から、末節骨の病理的骨折(Pathologic fracture)を続発した馬の一症例が報告されています。
患馬は、十ヶ月齢の体重300kgの子馬で、左後肢の管部の外傷と、その後の三週間にわたる跛行の病歴を示し、初診時にはグレード4の跛行を呈しており、レントゲン上で発見された第三中足骨の腐骨(Sequestrum)の外科的切除が行われました。しかし、この患馬は、二ヵ月後に再びグレード5の跛行を起こして来院し、蹄部のレントゲン検査で、感染性蹄骨炎と、タイプ5の末節骨骨折(Distal phalanx fracture)が認められました。
この患馬の治療では、起立位手術(Standing surgery)において、蹄底の削切、骨折片の除去(Fracture fragment removal)、感染した蹄骨組織の清掃(Debridement of infected bone)が行われ、術部は消毒液をひたしたスポンジと、抗生物質のペーストで充填されました。この患馬は、術後の二~三ヶ月にかけて創傷内への健常肉芽組織の生成(Healthy granulation tissue formation)を示し、術後の27ヶ月目の時点での蹄壁と蹄骨背側面の角度は20度に保たれており、その後も跛行の再発(Lameness recurrence)を示すことなく、乗用馬としての騎乗に正常に使役されていることが報告されています。
この患馬の末節骨骨折の原因は特定されていませんが、蹄底膿瘍(Sobsolar abscess)から波及して生じた感染性蹄骨炎によって、末節骨の骨粗鬆症(OSteoporosis)を続発し、この虚弱化した末節骨が、深屈腱(Deep digital flexor tendon)からの牽引力によって、病理的骨折に至ったという病因論が仮説されています。この患馬から除去された骨折片の組織学的検査では、骨溶解(Osteolysis)と化膿性骨炎(Suppurative osteitis)の所見が示されたことから、この病理的骨折の発病機序が裏付けられたという考察がなされています。
一般的に、馬の感染性蹄骨炎では、外科的除去された末節骨の割合が多いほど、その予後は悪いことが知られており、他の文献によれば、術後に生存した感染性蹄骨炎の罹患馬では、末節骨容積の4~24%が除去されたことが報告されています。しかし、今回の症例論文の患馬は、末節骨容積の45%におよぶ骨組織が外科的に除去されたにも関わらず、良好な予後と、騎乗使役の復帰が達成されており、この要因としては、感染した骨組織が主に末節骨の尖端部に位置していたことから、骨組織の除去後にも深屈腱の付着部が維持され、蹄関節(Coffin joint)や舟嚢(Navicular bursa)への感染拡大も起きなかったことが挙げられています。
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Klohnen A, Trostle SS, Stone WC, Johanningmeier D, Wilson DG, Hendrickson DA. Management of a transverse fracture in the distal phalanx of a horse. Can Vet J. 1997; 38(9): 561-563.
この症例論文では、感染性蹄骨炎(Septic pedal osteitis)から、末節骨の病理的骨折(Pathologic fracture)を続発した馬の一症例が報告されています。
患馬は、十ヶ月齢の体重300kgの子馬で、左後肢の管部の外傷と、その後の三週間にわたる跛行の病歴を示し、初診時にはグレード4の跛行を呈しており、レントゲン上で発見された第三中足骨の腐骨(Sequestrum)の外科的切除が行われました。しかし、この患馬は、二ヵ月後に再びグレード5の跛行を起こして来院し、蹄部のレントゲン検査で、感染性蹄骨炎と、タイプ5の末節骨骨折(Distal phalanx fracture)が認められました。
この患馬の治療では、起立位手術(Standing surgery)において、蹄底の削切、骨折片の除去(Fracture fragment removal)、感染した蹄骨組織の清掃(Debridement of infected bone)が行われ、術部は消毒液をひたしたスポンジと、抗生物質のペーストで充填されました。この患馬は、術後の二~三ヶ月にかけて創傷内への健常肉芽組織の生成(Healthy granulation tissue formation)を示し、術後の27ヶ月目の時点での蹄壁と蹄骨背側面の角度は20度に保たれており、その後も跛行の再発(Lameness recurrence)を示すことなく、乗用馬としての騎乗に正常に使役されていることが報告されています。
この患馬の末節骨骨折の原因は特定されていませんが、蹄底膿瘍(Sobsolar abscess)から波及して生じた感染性蹄骨炎によって、末節骨の骨粗鬆症(OSteoporosis)を続発し、この虚弱化した末節骨が、深屈腱(Deep digital flexor tendon)からの牽引力によって、病理的骨折に至ったという病因論が仮説されています。この患馬から除去された骨折片の組織学的検査では、骨溶解(Osteolysis)と化膿性骨炎(Suppurative osteitis)の所見が示されたことから、この病理的骨折の発病機序が裏付けられたという考察がなされています。
一般的に、馬の感染性蹄骨炎では、外科的除去された末節骨の割合が多いほど、その予後は悪いことが知られており、他の文献によれば、術後に生存した感染性蹄骨炎の罹患馬では、末節骨容積の4~24%が除去されたことが報告されています。しかし、今回の症例論文の患馬は、末節骨容積の45%におよぶ骨組織が外科的に除去されたにも関わらず、良好な予後と、騎乗使役の復帰が達成されており、この要因としては、感染した骨組織が主に末節骨の尖端部に位置していたことから、骨組織の除去後にも深屈腱の付着部が維持され、蹄関節(Coffin joint)や舟嚢(Navicular bursa)への感染拡大も起きなかったことが挙げられています。
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