馬の文献:末節骨骨折(Kaneps et al. 1998)
文献 - 2016年01月05日 (火)
「子馬の末節骨の掌側突起骨折の発症における削蹄の影響」
Kaneps AJ, O'Brien TR, Willits NH, Dykes JE, Stover SM. Effect of hoof trimming on the occurrence of distal phalangeal palmar process fractures in foals. Equine Vet J Suppl. 1998; 26: 36-45.
この研究論文では、子馬の末節骨の掌側突起骨折(Distal phalangeal palmar process fractures)の発症における削蹄(Hoof trimming)の影響を評価するため、四週~八週齢の子馬における、末節骨骨折の発現と削蹄法の比較が行われました。
結果としては、削蹄郡(四週ごとの削蹄)の子馬では、十頭中の四頭において末節骨骨折の発症が認められたのに対して、対照郡(無削蹄)の子馬では、十頭中の三頭において末節骨骨折の発症が認められ、その有病率(Prevalence)には有意差は認められませんでした。また、蹄尖の長さ、蹄側の長さ、蹄踵の長さ、蹄底面の幅、蹄底面の長さなどの評価では、いずれの数値も骨折馬郡と非骨折馬郡のあいだで有意差は認められませんでした。このことから、子馬における削蹄法の違いと掌側突起骨折の発症には、有意な因果関係は見られないという結果が示されました。また、飼養環境の違い(舎飼い v.s. 放牧場)、および子馬の体重も、末節骨骨折の発症率とは有意な相関を示していませんでした。
子馬における末節骨の掌側突起骨折では、深屈腱(Deep digital flexor tendon)から掛かる過剰な緊張によって、掌側突起が剥離骨折(Avulsion fracture)に至るという病因論が仮説されています。このため、削蹄法のミスによって深屈腱から作用する牽引力が増加すると、掌側突起の骨折を起こし易くなると考えられますが、この研究論文では、削蹄法の相違が掌側突起骨折を誘発するという科学的根拠は確認されませんでした。しかし、両側性のクラブフット(=蹄関節の屈曲性肢変形症:Flexural deformity of coffin joint)を呈した三頭の子馬では、そのうち二頭に末節骨骨折が生じていたことから、削蹄療法を介してクラブフットの異常蹄形を矯正することで、末節骨骨折の予防効果が期待される可能性もあるという考察がなされています。
この研究では、子馬の掌側突起骨折の殆どが、六週齢前後の時期にレントゲン検査によって発見されましたが、蹄鉗子(Hoof tester)による診断では、感度(Sensitivity)は0.33で、特異度(Specificity)は0.73であったことが報告されています。これらの罹患馬では、跛行自体は軽度(グレード1または2)にとどまっており、また、全症例において二週~十八週間(平均8.4週)の馬房休養(Stall rest)によって、骨折部位の良好な治癒が見られました。このため、子馬の掌側突起骨折では、跛行検査(Lameness examination)や蹄鉗子による推定診断(Presumptive diagnosis)は難しく、その診断にはレントゲン撮影を要することが多いものの、保存性治療(Conservative treatment)による予後は比較的に良好である場合が多いことが示唆されました。
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Kaneps AJ, O'Brien TR, Willits NH, Dykes JE, Stover SM. Effect of hoof trimming on the occurrence of distal phalangeal palmar process fractures in foals. Equine Vet J Suppl. 1998; 26: 36-45.
この研究論文では、子馬の末節骨の掌側突起骨折(Distal phalangeal palmar process fractures)の発症における削蹄(Hoof trimming)の影響を評価するため、四週~八週齢の子馬における、末節骨骨折の発現と削蹄法の比較が行われました。
結果としては、削蹄郡(四週ごとの削蹄)の子馬では、十頭中の四頭において末節骨骨折の発症が認められたのに対して、対照郡(無削蹄)の子馬では、十頭中の三頭において末節骨骨折の発症が認められ、その有病率(Prevalence)には有意差は認められませんでした。また、蹄尖の長さ、蹄側の長さ、蹄踵の長さ、蹄底面の幅、蹄底面の長さなどの評価では、いずれの数値も骨折馬郡と非骨折馬郡のあいだで有意差は認められませんでした。このことから、子馬における削蹄法の違いと掌側突起骨折の発症には、有意な因果関係は見られないという結果が示されました。また、飼養環境の違い(舎飼い v.s. 放牧場)、および子馬の体重も、末節骨骨折の発症率とは有意な相関を示していませんでした。
子馬における末節骨の掌側突起骨折では、深屈腱(Deep digital flexor tendon)から掛かる過剰な緊張によって、掌側突起が剥離骨折(Avulsion fracture)に至るという病因論が仮説されています。このため、削蹄法のミスによって深屈腱から作用する牽引力が増加すると、掌側突起の骨折を起こし易くなると考えられますが、この研究論文では、削蹄法の相違が掌側突起骨折を誘発するという科学的根拠は確認されませんでした。しかし、両側性のクラブフット(=蹄関節の屈曲性肢変形症:Flexural deformity of coffin joint)を呈した三頭の子馬では、そのうち二頭に末節骨骨折が生じていたことから、削蹄療法を介してクラブフットの異常蹄形を矯正することで、末節骨骨折の予防効果が期待される可能性もあるという考察がなされています。
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