馬の文献:末節骨骨折(O'Sullivan et al. 1999)
文献 - 2016年01月07日 (木)

「タイプ2末節骨骨折を起こした48頭のスタンダードブレッドに対する非外科的治療」
O'Sullivan CB, Dart AJ, Malikides N, Rawlinson RJ, Hutchins DR, Hodgson DR. Nonsurgical management of type II fractures of the distal phalanx in 48 standardbred horses. Aust Vet J. 1999; 77(8): 501-503.
この症例論文では、タイプ2の末節骨骨折(Type-2 distal phalanx fracture)(=関節性の斜位掌側突起骨折:Articular oblique palmar process fracture)に対する非外科的療法(Nonsurgical management)の治療効果を評価するため、タイプ2末節骨骨折を呈した48頭のスタンダードブレッドの医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、予後追跡(Follow-up)ができた43頭の患馬のうち、調教への復帰を果たしたのは81%(35/43頭)で、レースへの参加を果たしたのは63%(27/43頭)であったことが示されました。このうち、十回以上のレース参加ができた馬は41%(11/27頭)に及び、少なくとも一つのレースで勝利した馬は59%(16/27頭)であったことが報告されています。このため、スタンダードブレッドにおけるタイプ2の末節骨骨折では、非外科的療法によって中程度~良好な予後が期待され、レースへの復帰を達成する馬の割合も比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、48頭のタイプ2末節骨骨折の罹患馬のうち(前肢=47頭、後肢=1頭)、前肢に起きた骨折では、左前肢(35/47頭)のほうが右前肢(12/47頭)よりも発症率が高かったことが報告されています。また、左前肢に起きた骨折では、外側掌側突起(34/35頭)のほうが内側掌側突起(1/35頭)よりも圧倒的に発症率が高かったのに対して、右前肢に起きた骨折では、外側掌側突起(2/12頭)のほうが内側掌側突起(10/12頭)よりも発症率が低かったことが報告されています。これは、左回りでハーネスレースをするスタンダードブレッドでは、左前肢の外側、および右前肢の内側に掛かる負重が高く、この部位に骨折が発症しやすかったことを反映したデータであると考察されています。
この研究では、装蹄療法(Shoeing therapy)の医療記録が解析された19頭の罹患馬のうち、蹄側鉄唇蹄鉄(Bar shoe)の装着が行われた十頭の馬では、末節骨骨折の再発(Recurrence)は確認されず(骨折再発率:0%)、そのうち六頭がレースへの復帰を果たしたのに対して、蹄側鉄唇蹄鉄の装着が行われなかった九頭の馬では、そのうち八頭が末節骨骨折の再発(同じ骨折箇所)を起こしたことが報告されています(骨折再発率:89%)。このため、タイプ2の末節骨骨折の非外科的療法に際しては、蹄側鉄唇蹄鉄の装着を介して、蹄膨張(Hoof expansion)による骨折線拡大を防ぐ指針が重要であることが示唆されました。
この研究では、レースへの復帰を果たした患馬の休養期間は、平均して約一年に及び(11.8±2.9ヶ月)、初期の馬房休養(Stall rest)の期間も二ヶ月半近く(2.4±1.1ヶ月)に達したことが報告されています。このため、タイプ2の末節骨骨折に対する非外科的療法では、その予後は中程度~良好である場合が多いものの、極めて長期間にわたる根気強い休養を要する症例が多いことが示唆されました。一方、レースへの復帰を果たした馬と、レース復帰できなかった馬の休養期間には有意差は認められず、運動開始時期が早過ぎたことが予後不良を呈した原因であるという科学的根拠は示されませんでした。
馬の末節骨骨折に関する他の文献では、三歳以下の若齢馬のほうが、三歳以上の馬よりも予後が良いことが報告されていますが(Scott et al, 1979, JAVMA; Honnas et al, Vet Radiol, 1988)、この研究では、三歳以下の馬のレース復帰率(30%)と、三歳以下の馬のレース復帰率(18%)とのあいだに有意差は認められず、患馬の年齢が予後に有意に影響するという科学的根拠は示されませんでした。
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