馬の文献:末節骨骨折(Martens et al. 1999)
文献 - 2016年01月07日 (木)
「レントゲン潜在性の末節骨外側掌側突起骨折をCTスキャンで探知した馬の一症例」
Martens P, Ihler CF, Rennesund J. Detection of a radiographically occult fracture of the lateral palmar process of the distal phalanx in a horse using computed tomography. Vet Radiol Ultrasound. 1999; 40(4): 346-349.
この症例論文では、末節骨外側掌側突起(Lateral palmar process of distal phalanx)におけるレントゲン潜在性骨折(Radiographically occult fracture)を、CTスキャンで探知した馬の一症例が報告されています。
患馬は二歳齢のスタンダードブレッドの牝馬で、急性発現性(Acute onset)の右前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)(=グレード5跛行)の病歴で来院し、蹄鉗子検査(Hoof tester examination)の陽性反応、肢動脈拍動の亢進(Increased digital pulse)、蹄壁の熱感(Heat on hoof wall)などが認められました。また、跛行検査では、片軸性(Uniaxial)の外側掌側指神経麻酔(Lateral palmar digital nerve block)ではグレード2まで跛行が改善し、片軸性の外側遠軸種子骨神経麻酔(Lateral abaxial sesamoid block)ではグレード1まで跛行が改善したことから、末節骨や中節骨などの蹄内部組織の外側部位に疼痛の原因が存在することが強く示唆されました。また、蹄関節麻酔(Coffin joint block)では、跛行の改善は見られなかったことから、変性関節疾患(Degenerative joint disease)や関節性骨折(Articular fracture)の可能性は低いと考えられました。
診断では、発症の二日後に、末節骨のスカイライン像にて、X線の投射角度を細かく変えながらレントゲン撮影が試みられましたが、外側掌側突起(Lateral palmar process)に僅かな骨組織の透過性変化が見られた以外は、顕著な異常は発見されませんでした。その後、発症の19日後のレントゲン再検査でも異常は見つからなかったことから、精密検査のための遠位肢のCTスキャン検査が実施されました。CTスキャン像では、外側掌側突起におけるややカーブした骨折面が探知され、複数の骨片を含む粉砕骨折(Comminuted fracture)の発症が示されましたが、骨折自体は蹄関節面(Coffin joint surface)には達していないことが確認されました。
治療では、馬房休養(Stall rest)に併行して、蹄側鉄唇を施したバー蹄鉄を用いての装蹄療法(Shoeing therapy)が行われ、発症から三ヶ月半後の時点では、跛行の再発(Lameness recurrence)も見られず、良好な予後を示していることが報告されています。
一般的に、馬におけるタイプ1末節骨骨折(=非関節性の掌側突起骨折:Non-articular palmar process fracture)のレントゲン検査では、骨折線と脈管溝(Vascular channel)の陰影の鑑別が困難であったり、骨折が蹄関節まで及んでいるかの判断(タイプ1 vs タイプ2)が難しい症例が多いことが知られています。このため、CTスキャン検査を介して、末節骨骨折の確定診断を下し、予後判定(Prognostication)や治療指針決定の際に重要な要因である、関節組織への骨折の波及(Articular tissue involvement)を特定する診断法が有用であると考えられます。
この症例報告では、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって、疼痛の発生箇所が蹄組織の外側部位に存在することが強く示唆されていましたが、残念ながら骨折面がカーブを描いていたため、X線が完全に骨折面の全長を通過することができず、レントゲン上で骨折の診断を下すことは出来ませんでした。この患馬は、非関節性の骨折であったことが幸いして、骨折部位の螺子固定術(Lag screw fixation)や、コルチコステロイドおよびヒアルロン酸の関節注射(Joint injection)を要することなく、馬房休養と装蹄療法のみによる保存性療法(Conservative treatment)によって、良好な予後を示したと推測されています。
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この症例論文では、末節骨外側掌側突起(Lateral palmar process of distal phalanx)におけるレントゲン潜在性骨折(Radiographically occult fracture)を、CTスキャンで探知した馬の一症例が報告されています。
患馬は二歳齢のスタンダードブレッドの牝馬で、急性発現性(Acute onset)の右前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)(=グレード5跛行)の病歴で来院し、蹄鉗子検査(Hoof tester examination)の陽性反応、肢動脈拍動の亢進(Increased digital pulse)、蹄壁の熱感(Heat on hoof wall)などが認められました。また、跛行検査では、片軸性(Uniaxial)の外側掌側指神経麻酔(Lateral palmar digital nerve block)ではグレード2まで跛行が改善し、片軸性の外側遠軸種子骨神経麻酔(Lateral abaxial sesamoid block)ではグレード1まで跛行が改善したことから、末節骨や中節骨などの蹄内部組織の外側部位に疼痛の原因が存在することが強く示唆されました。また、蹄関節麻酔(Coffin joint block)では、跛行の改善は見られなかったことから、変性関節疾患(Degenerative joint disease)や関節性骨折(Articular fracture)の可能性は低いと考えられました。
診断では、発症の二日後に、末節骨のスカイライン像にて、X線の投射角度を細かく変えながらレントゲン撮影が試みられましたが、外側掌側突起(Lateral palmar process)に僅かな骨組織の透過性変化が見られた以外は、顕著な異常は発見されませんでした。その後、発症の19日後のレントゲン再検査でも異常は見つからなかったことから、精密検査のための遠位肢のCTスキャン検査が実施されました。CTスキャン像では、外側掌側突起におけるややカーブした骨折面が探知され、複数の骨片を含む粉砕骨折(Comminuted fracture)の発症が示されましたが、骨折自体は蹄関節面(Coffin joint surface)には達していないことが確認されました。
治療では、馬房休養(Stall rest)に併行して、蹄側鉄唇を施したバー蹄鉄を用いての装蹄療法(Shoeing therapy)が行われ、発症から三ヶ月半後の時点では、跛行の再発(Lameness recurrence)も見られず、良好な予後を示していることが報告されています。
一般的に、馬におけるタイプ1末節骨骨折(=非関節性の掌側突起骨折:Non-articular palmar process fracture)のレントゲン検査では、骨折線と脈管溝(Vascular channel)の陰影の鑑別が困難であったり、骨折が蹄関節まで及んでいるかの判断(タイプ1 vs タイプ2)が難しい症例が多いことが知られています。このため、CTスキャン検査を介して、末節骨骨折の確定診断を下し、予後判定(Prognostication)や治療指針決定の際に重要な要因である、関節組織への骨折の波及(Articular tissue involvement)を特定する診断法が有用であると考えられます。
この症例報告では、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって、疼痛の発生箇所が蹄組織の外側部位に存在することが強く示唆されていましたが、残念ながら骨折面がカーブを描いていたため、X線が完全に骨折面の全長を通過することができず、レントゲン上で骨折の診断を下すことは出来ませんでした。この患馬は、非関節性の骨折であったことが幸いして、骨折部位の螺子固定術(Lag screw fixation)や、コルチコステロイドおよびヒアルロン酸の関節注射(Joint injection)を要することなく、馬房休養と装蹄療法のみによる保存性療法(Conservative treatment)によって、良好な予後を示したと推測されています。
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