馬の文献:末節骨骨折(Dechant et al. 2000)
文献 - 2016年01月11日 (月)
「関節切開術による馬の末節骨伸筋突起の大型の骨折片摘出:1992~1998年の14症例」
Dechant JE, Trotter GW, Stashak TS, Hendrickson DA. Removal of large fragments of the extensor process of the distal phalanx via arthrotomy in horses: 14 cases (1992-1998). J Am Vet Med Assoc. 2000; 217(9): 1351-1355.
この研究論文では、関節切開術(Arthrotomy)を介しての末節骨の伸筋突起骨折(Extensor process fracture of distal phalanx)(=タイプ4の末節骨骨折)の外科的療法の治療効果を評価するため、1992~1998年にかけて末節骨の伸筋突起骨折を呈した14頭の馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、14頭の末節骨伸筋突起骨折の罹患馬のうち、八頭は術前と同程度もしくはより高いレベルの競争および競技への復帰を果たしており、跛行の再発(Lameness recurrence)も見られなかったことが報告されています。また、14頭の休養期間は平均七ヶ月半でしたが、手術時にすでに休養期間を置いていた五頭の馬を除けば、残りの九頭の平均休養期間は六ヶ月であったことが示されました。このため、馬の末節骨の伸筋突起骨折では、関節切開術を介しての骨折片摘出によって、中程度~良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、側方レントゲン像(Lateral radiographic view)の画像上での骨折片のサイズを、末節骨の関節面の幅に占める割合によって計測しており、その割合は20~45%(中央値:35%)に及んでいました。つまり、この研究の症例馬の多くは、術後に関節面の三分の一以上を失っていたと考えられますが、この骨折片の大きさと予後(運動復帰の有無)とのあいだには有意な相関は認められませんでした。このため、初診時に重篤な変性関節疾患(Degenerative joint disease)を起こしていなければ、例え手術によって広範囲におよぶ蹄関節面が損失したとしても、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究における関節切開術では、背側蹄冠(Dorsal coronary band)よりも近位側へ0.5cmの位置から設けられた3~4cmの長さの切開創を介して、末節骨伸筋突起へのアプローチが行われており、骨ノミ(Osteotome)によって骨折片を分断しながら摘出する術式が用いられました。一般的に、末節骨の伸筋突起骨折では、骨折片の幅が広く、関節鏡手術(Arthroscopy)による摘出が難しい場合が多いことが知られており、上述の骨折片のサイズの計測に合わせて、背掌側撮影像(Dorso-palmar radiographic view)を介して術前に骨折片の幅を計測することで、適切な手術プランを立てることが重要であると考察されています。
この研究では、患馬の年齢や跛行病歴の長さと、予後(運動復帰の有無)とのあいだには有意な相関は認められませんでした。しかし、14頭の末節骨伸筋突起骨折の罹患馬のうち、来院時に一ヶ月以上にわたる慢性跛行(Chronic lameness)の病歴を示した馬は十頭にのぼり、二年以上にわたる慢性跛行の病歴を呈した馬も三頭含まれていました。さらに、この二年以上の病歴を持っていた三頭の患馬は、いずれも運動復帰できず、予後不良となっていることから、馬の末節骨の伸筋突起骨折では、出来るだけ早期に外科的療法を応用することが重要であるという考察がなされています。
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結果としては、14頭の末節骨伸筋突起骨折の罹患馬のうち、八頭は術前と同程度もしくはより高いレベルの競争および競技への復帰を果たしており、跛行の再発(Lameness recurrence)も見られなかったことが報告されています。また、14頭の休養期間は平均七ヶ月半でしたが、手術時にすでに休養期間を置いていた五頭の馬を除けば、残りの九頭の平均休養期間は六ヶ月であったことが示されました。このため、馬の末節骨の伸筋突起骨折では、関節切開術を介しての骨折片摘出によって、中程度~良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、側方レントゲン像(Lateral radiographic view)の画像上での骨折片のサイズを、末節骨の関節面の幅に占める割合によって計測しており、その割合は20~45%(中央値:35%)に及んでいました。つまり、この研究の症例馬の多くは、術後に関節面の三分の一以上を失っていたと考えられますが、この骨折片の大きさと予後(運動復帰の有無)とのあいだには有意な相関は認められませんでした。このため、初診時に重篤な変性関節疾患(Degenerative joint disease)を起こしていなければ、例え手術によって広範囲におよぶ蹄関節面が損失したとしても、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究における関節切開術では、背側蹄冠(Dorsal coronary band)よりも近位側へ0.5cmの位置から設けられた3~4cmの長さの切開創を介して、末節骨伸筋突起へのアプローチが行われており、骨ノミ(Osteotome)によって骨折片を分断しながら摘出する術式が用いられました。一般的に、末節骨の伸筋突起骨折では、骨折片の幅が広く、関節鏡手術(Arthroscopy)による摘出が難しい場合が多いことが知られており、上述の骨折片のサイズの計測に合わせて、背掌側撮影像(Dorso-palmar radiographic view)を介して術前に骨折片の幅を計測することで、適切な手術プランを立てることが重要であると考察されています。
この研究では、患馬の年齢や跛行病歴の長さと、予後(運動復帰の有無)とのあいだには有意な相関は認められませんでした。しかし、14頭の末節骨伸筋突起骨折の罹患馬のうち、来院時に一ヶ月以上にわたる慢性跛行(Chronic lameness)の病歴を示した馬は十頭にのぼり、二年以上にわたる慢性跛行の病歴を呈した馬も三頭含まれていました。さらに、この二年以上の病歴を持っていた三頭の患馬は、いずれも運動復帰できず、予後不良となっていることから、馬の末節骨の伸筋突起骨折では、出来るだけ早期に外科的療法を応用することが重要であるという考察がなされています。
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