馬の文献:末節骨骨折(Crowe et al. 2010)
文献 - 2016年01月18日 (月)
「末節骨伸筋突起の骨片を関節鏡によって病巣清掃された13頭の馬における長期的予後」
Crowe OM, Hepburn RJ, Kold SE, Smith RK. Long-term outcome after arthroscopic debridement of distal phalanx extensor process fragmentation in 13 horses. Vet Surg. 2010; 39(1): 107-114.
この症例論文では、末節骨の伸筋突起における骨片(Distal phalanx extensor process fragmentation)に対する外科的療法の長期的な予後(Long-term outcome)を評価するため、2003~2004年にわたって末節骨伸筋突起の骨片を、関節鏡を介しての病巣清掃(Arthroscopic debridement)によって治療された13頭の馬の医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、関節鏡手術から四ヶ月後までに跛行を示さず、騎乗使役への復帰を果たした馬は85%(11/13 頭)に上りましたが、術後の四年目までに跛行の再発(Lameness recurrence)もなく、良好な予後を示した馬は46%(6/13頭)に過ぎませんでした。つまり、末節骨伸筋突起の骨片に対して関節鏡手術が行われた馬では、短期的には跛行の改善が見られる場合が殆どであるものの、その長期的な予後は必ずしも芳しくない症例も多いことが示唆されました。一方で、手術前の跛行の病歴が12週間以内であった五頭の患馬では、その80%(4/5頭)が術後の四年目までに跛行再発せずに良好な予後を示していました。このため、レントゲン像上で末節骨伸筋突起の骨片が発見された患馬においては、出来るだけ早期に積極的な病巣清掃(Aggressive debridement)を実施することで、その後の予後を改善できる可能性があるという考察がなされています。
この研究では、末節骨伸筋突起の骨片を有した馬は、跛行は軽度であったものの、蹄関節の腫脹(Coffin joint effusion)はその全頭に認められました。また、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)によって顕著な跛行改善が見られたのは85%(11/13頭)、蹄関節麻酔(Coffin joint block)によって顕著な跛行改善が見られたのは69%(9/13頭)であったのに対して、舟嚢麻酔(Navicular bursa block)によって顕著な跛行改善が見られたのは0%でした(0/13頭)。このため、末節骨伸筋突起の骨片自体は無疼痛性で、舟状骨症候群(Navicular syndrome)などの他の疾患による跛行を呈している可能性のある患馬に対しては、掌側指神経および蹄関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)による疼痛箇所の限局化(Pain localization)にあわせて、舟嚢麻酔による除外診断も有効であると考えられました。
この研究では、末節骨伸筋突起の骨片を呈した13頭の患馬のうち、術前のレントゲン検査によって蹄関節の骨関節炎(Osteoarthritis)が認められたのは九頭でしたが、骨関節炎の有無とその予後(術後の四年目における跛行の有無)とのあいだには、有意な相関は認められませんでした。また、術前のレントゲン像上での骨片のサイズとその予後とのあいだにも、有意な関係は見られておらず、手術前のレントゲン検査所見から、その後の長期的な予後判定(Prognostication)を行うのは難しいことが示唆されました。
この研究では、左右両方の蹄関節の関節鏡手術が実施された馬では、七頭の対側肢の蹄関節においても、小型の骨片、伸筋突起部位の軟骨下骨がボロボロになっている所見(crumbling subchondral bone of extensor process)、伸筋突起部位の顕著な骨再構築像(Marked bone remodeling)などが確認されました。このため、たとえ術前レントゲン検査によって、末節骨伸筋突起の骨片が片方の蹄関節のみに発見された場合でも、必ず対側肢の蹄関節へも関節鏡手術を応用して、レントゲンでは見つけることのできない僅かな病変を治療することが重要であると考察されています。
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この症例論文では、末節骨の伸筋突起における骨片(Distal phalanx extensor process fragmentation)に対する外科的療法の長期的な予後(Long-term outcome)を評価するため、2003~2004年にわたって末節骨伸筋突起の骨片を、関節鏡を介しての病巣清掃(Arthroscopic debridement)によって治療された13頭の馬の医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、関節鏡手術から四ヶ月後までに跛行を示さず、騎乗使役への復帰を果たした馬は85%(11/13 頭)に上りましたが、術後の四年目までに跛行の再発(Lameness recurrence)もなく、良好な予後を示した馬は46%(6/13頭)に過ぎませんでした。つまり、末節骨伸筋突起の骨片に対して関節鏡手術が行われた馬では、短期的には跛行の改善が見られる場合が殆どであるものの、その長期的な予後は必ずしも芳しくない症例も多いことが示唆されました。一方で、手術前の跛行の病歴が12週間以内であった五頭の患馬では、その80%(4/5頭)が術後の四年目までに跛行再発せずに良好な予後を示していました。このため、レントゲン像上で末節骨伸筋突起の骨片が発見された患馬においては、出来るだけ早期に積極的な病巣清掃(Aggressive debridement)を実施することで、その後の予後を改善できる可能性があるという考察がなされています。
この研究では、末節骨伸筋突起の骨片を有した馬は、跛行は軽度であったものの、蹄関節の腫脹(Coffin joint effusion)はその全頭に認められました。また、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)によって顕著な跛行改善が見られたのは85%(11/13頭)、蹄関節麻酔(Coffin joint block)によって顕著な跛行改善が見られたのは69%(9/13頭)であったのに対して、舟嚢麻酔(Navicular bursa block)によって顕著な跛行改善が見られたのは0%でした(0/13頭)。このため、末節骨伸筋突起の骨片自体は無疼痛性で、舟状骨症候群(Navicular syndrome)などの他の疾患による跛行を呈している可能性のある患馬に対しては、掌側指神経および蹄関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)による疼痛箇所の限局化(Pain localization)にあわせて、舟嚢麻酔による除外診断も有効であると考えられました。
この研究では、末節骨伸筋突起の骨片を呈した13頭の患馬のうち、術前のレントゲン検査によって蹄関節の骨関節炎(Osteoarthritis)が認められたのは九頭でしたが、骨関節炎の有無とその予後(術後の四年目における跛行の有無)とのあいだには、有意な相関は認められませんでした。また、術前のレントゲン像上での骨片のサイズとその予後とのあいだにも、有意な関係は見られておらず、手術前のレントゲン検査所見から、その後の長期的な予後判定(Prognostication)を行うのは難しいことが示唆されました。
この研究では、左右両方の蹄関節の関節鏡手術が実施された馬では、七頭の対側肢の蹄関節においても、小型の骨片、伸筋突起部位の軟骨下骨がボロボロになっている所見(crumbling subchondral bone of extensor process)、伸筋突起部位の顕著な骨再構築像(Marked bone remodeling)などが確認されました。このため、たとえ術前レントゲン検査によって、末節骨伸筋突起の骨片が片方の蹄関節のみに発見された場合でも、必ず対側肢の蹄関節へも関節鏡手術を応用して、レントゲンでは見つけることのできない僅かな病変を治療することが重要であると考察されています。
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