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馬の病気:蹄底膿瘍

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蹄底膿瘍(Subsolar abscess)について。

蹄底角質下での膿瘍形成は、釘傷などの穿孔性外傷(Penetrating wound)から感染が起きるものと、衝撃による蹄血斑(Corns)から二次性に起こるものがあります。穿孔性外傷はその部位と深度に応じて、蹄真皮(Hoof corium)に到達しない浅部外傷(Superficial wound)、蹄底部(Hoof sole)における真皮に達する深部外傷(Type-1 deep wound)、蹄叉部(Frog)における真皮に達する深部外傷(Type-2 deep wound)、蹄冠部(Coronary band)における真皮に達する深部外傷(Type-3 deep wound)、などに分類されます。

症状としては、重度~負重不能な跛行(Severe to non-weight-bearing lameness)を呈し、蹄壁の熱感(Heat on hoof wall)や肢動脈拍動の亢進(Increased digital pulse)などが見られる場合もあります。白線膿瘍(White line abscess)を併発した症例では、蹄冠部での腫脹や熱感が触診されます。釘などの穿孔性異物が発見された場合には、除去する前にレントゲン検査を行って、蹄骨(Distal phalanx)や滑液嚢組織(Synovial structure)への侵入を確認することが推奨されていますが、さらに深部へと侵襲する危険がないかを判断する必要があります。穿孔性異物が残存していない場合は、慎重な視診によって穿孔部位の発見が試みられますが、特に蹄叉部では軟性組織によって侵入孔が塞がれて見つけにくい場合もあります。侵入孔が発見された場合には、探索子(Probe)または造影剤を注入してのレントゲン検査(Fistulogram)によって、滑液嚢組織への穿孔の有無を確かめます。一般に重篤な深部組織への感染を起こす侵入深度は、蹄底から1cm、蹄叉から1.5cm、蹄壁から1.2cmと言われています(表面から垂直に侵入した場合)。蹄関節(Coffin joint)、舟嚢(Navicular bursa)、深屈腱鞘(Deep digital flexor tendon sheath)の感染が疑われる症例では、滑液検査(Synovial fluid examination)によって、白血球数の増加(>30,000 WBCs/µL)、pHの減少(<6.9)、蛋白濃度の上昇(>4.0 g/dL)などの感染を示す徴候を確認し、細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質感受性試験(Antibiotic susceptibility test)を実施することが重要です。滑液異常を示さない急性病態では、滑液嚢組織へ注入した生理食塩水が、蹄底の穿孔孔から出てくるのか否かを確かめる漏出試験が有効です。

治療としては、蹄鉗子検査(Hoof tester examination)によって膿瘍の発症部位を特定し、疼痛部位の削切によって排膿(Pus drainage)と壊死組織の清掃(Debridement of necrotic tissues)が行われます。羅患蹄はバンテージまたは治療用プレート蹄鉄(Treatment plate shoe)の装着によって保護され、滅菌生理食塩水による洗浄と消毒剤の塗布が実施されます。また、Epson saltを用いての高浸透圧性療法(Hyperosmotic therapy)が併用される場合もあります。深部外傷に起因する症例では、広域抗生物質の全身投与(Broad-spectrum systemic anti-microbial therapy)、トキソイドワクチンによる破傷風予防(Tetanus prophylaxis)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与などが行われます。蹄骨への感染を併発した症例では、蹄骨掻爬術(Coffin bone curettage)によって壊死組織の除去が施され、海綿骨移植(Cancellous bone graft)や抗生物質含有PMMAビーズ(Antibiotic-impregnated polymethylmethacrylate beads)の充填が応用される場合もあります。蹄関節、舟嚢、深屈腱鞘などの感染を併発した症例では、滑液嚢洗浄(Lavage of synovial structures)と抗生物質の注入を行います。また、球節上部に巻いた駆血帯(Tourniquet)を用いての局所灌流(Regional perfusion)、またはカニューレ皮質骨螺子(Cannulated cortical bone screw)を用いての骨髄灌流(Medullary bone perfusion)によって、遠位肢へ高濃度の抗生物質を作用させる療法も有効です。長期間に渡って重度な跛行を呈する症例では、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis)を予防するため、底部をくりぬいた遠位肢ギプス(Bottom-less distal limb cast)を用いて、患肢への体重負荷を促しつつ病巣治療を継続する手法も試みられています。

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