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馬の文献:末節骨骨折(Rijkenhuizen et al. 2012)

「末節骨骨折の治療と予後:285頭の回顧的研究と223頭の長期治療成績」
Rijkenhuizen AB, de Graaf K, Hak A, Fürst A, ter Braake F, Stanek C, Greet TR. Management and outcome of fractures of the distal phalanx: a retrospective study of 285 horses with a long term outcome in 223 cases. Vet J. 2012; 192(2): 176-182.

この症例論文では、末節骨骨折(Distal phalanx fracture)における治療法と予後を評価するため、1984~2007年にかけて、末節骨骨折を呈した285頭の症例馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究では、治療の“成功”(Successful treatment)を、骨折前または予測した用途での使役に復帰できた事(Return to original or expected level of use)と定義していました。その結果、骨折のタイプごとの長期的な治療成功率(Long term success rate)は、タイプ1では92%(77/84頭)、タイプ2では70%(48/69頭)、タイプ3では74%(20/27頭)、タイプ4では58%(15/26頭)、タイプ5では57%(4/7頭)、タイプ6では80%(8/10頭)となっていました。このため、タイプ1骨折のほうが、タイプ2またはタイプ3骨折と比較して、有意に予後が良かったことが報告されています。

この研究では、保存療法(Conservative treatment)による治療成功率のほうが、蹄不動化(Hoof immobilization)による治療成功率よりも高い傾向が認められました。それぞれの骨折タイプにおける治療成功率の比較を見ると(保存療法による治療成功率→蹄不動化による治療成功率)、タイプ1では98%→93%、タイプ2では100%→70%、タイプ3では80%→82%、タイプ4では67%→50%等となっており、いずれも減少または同程度にとどまっていました。この理由としては、ギプスや横蹄唇などで蹄壁の動きを抑えても、深屈腱(Deep digital flexor tendon)や蹄関節の側副靭帯(Collateral ligaments of the distal interphalangeal joint)による牽引は残ることが挙げられており、むしろ、半肢ギプス(Half limb cast)を装着して、深屈腱や側副靭帯の動きを制限するほうが、より良い治療効果を誘導できる可能性があると考察されています。しかし、その一方で、骨折の病態が軽い症例に対しては、馬房休養だけの治療(保存療法)が選択されるケースが多かったという、治療法の選択に関わる偏向(Bias)が働いたことは否定できない(=その結果、保存療法における治療成功率が高く示されてしまった)、という指摘もなされています。

この研究では、末節骨骨折の治療成功率は、前肢蹄の骨折では73%であったのに対して、後肢蹄の骨折では87%と、やや良い予後を示していました。この理由としては、前肢蹄の骨折のほうが、保存療法が選択された症例の割合が多かった(つまり、骨折病態が軽い症例が多かった?)ことが挙げられています。

この研究では、末節骨骨折の治療成功率は、非関節性骨折(Non-articular fracture)では90%であったのに対して、関節性骨折(Articular fracture)では67%と、やや悪い予後を示していました。そして、蹄関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)が起こった場合の治療成功率は87%にとどまっており、起こらなかった場合の治療成功率(96%)よりも低かったことから、骨折が関節面に及んで変性関節疾患を続発することが、予後の悪化に寄与すると考察されています。

この研究では、末節骨骨折の治療成功率は、三歳以下の馬(79%)と、三歳以上の馬(77%)で、有意差はありませんでした。また、骨折発症から治療までの経過期間が、六日間以下であった場合(79%)と、六日間以上であった場合(79%)とを比較した場合にも、やはり有意差はありませんでした。

この研究では、タイプ4骨折における治療成功率は、保存療法では67%であったのに比べて、螺子固定術(Screw fixation)では80%、関節鏡手術(Arthroscopy)では83%となっていました。このため、末節骨の伸筋突起(Extensor process)に生じた骨折に対しては、関節鏡手術による骨折片摘出(Removal of fracture fragment)によって、最も優れた治療成績が期待できると考えられました。

この研究では、X線検査上での所見(Radiological findings)は、臨床上の骨折治癒(Clinical healing)とは正確には相関しないことが示されており、調教の開始時期(Re-commencement of training)を判断するには、X線画像よりも臨床症状を重視すべきであると提唱されています。

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