馬の文献:中節骨骨折(Welch et al. 1991)
文献 - 2016年02月06日 (土)
「近位掌側中節骨の骨軟骨骨折を呈したサラブレッドの一症例」
Welch RD, Watkins JP. Osteochondral fracture of the proximal palmar middle phalanx in a Thoroughbred. Equine Vet J. 1991; 23(1): 67-69.
この症例論文では、近位掌側中節骨(Proximal palmar middle phalanx)における、骨軟骨骨折(Osteochondral fracture)を呈したサラブレッドの一症例が報告されています。
患馬は、三歳齢のサラブレッド雄馬で、二ヶ月間にわたるプアパフォーマンスの病歴を示し、歩様検査においては常歩および速歩での直進時(Straight line at walk/trot)には跛行は認められませんでしたが、駈歩での右回転時(Right circling at canter)にはグレード2の右前肢跛行が認められました。患馬は、冠関節麻酔(Pastern joint block)によって顕著な跛行の改善を示したことから、レントゲン検査が実施され、右前肢における近位掌側中節骨の骨軟骨骨折片が発見されました。
治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、中節骨の掌側部位に7cmの皮膚切開創が設けられ、腱鞘(Tendon sheath)および輪状靭帯(Annular ligament)を切開してから深屈腱(Deep digital flexor tendon)を外側へとずらし、直鎖遠位種子骨靭帯(Straight distal sesamoidean ligament)および関節包(Joint capsule)に穿刺切開創(Stab incision)を設けることで、骨折部位へのアプローチが達成されました。その後、近位掌側中節骨に触知された骨折片が、ロンジュールによって摘出され、中節骨掌側突起(Palmar eminence)の病巣清掃(Debridement)が実施されました。そして、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)によって、細かい骨折片が残存していないことを確認してから、術創の縫合閉鎖と、圧迫包帯(Pressure bandage)の装着が行われました。
患馬は、手術直後にはグレード2跛行を示したものの、六ヶ月間の馬房休養(Stall rest)の後には跛行は認められず、術後の二ヶ月目および九ヶ月目の再診時には、レントゲン上での異常や跛行の再発(Recurrence)も見られず、調教&競争への復帰を果たしたことが報告されています。残念ながら患馬は、術後の十二ヶ月目に重篤な蹄底膿瘍(Subsolar abscess)と蹄部壊死によって安楽死(Euthanasia)となりましたが、病理組織学的検査(Histopathologic examination)では、冠関節に関わる異常所見は確認されませんでした。
この研究では、近位掌側中節骨の骨軟骨骨折においては、関節切開術(Arthrotomy)を介しての骨折片の外科的摘出によって、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されましたが、術後に腱鞘内へのヒアルロン酸注射を行うことで、腱鞘内での癒着(Adhesion)を予防する治療指針も推奨されています。また、冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)の合併症を呈した症例に対しては、冠関節固定術(Pastern arthrodesis)による関節不動化(Joint stabilization)を要する場合もあることが報告されています。
馬の中節骨の近位掌側部位における骨軟骨骨折は、疼痛を伴わず偶発性に発見(Incidental finding)される症例もあることが報告されています。このため、外科的療法の応用に際しては、この症例のように、冠関節麻酔による跛行の改善を証明することで、骨折片除去の必要性を慎重に見極めることが重要である、という考察がなされています。
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患馬は、三歳齢のサラブレッド雄馬で、二ヶ月間にわたるプアパフォーマンスの病歴を示し、歩様検査においては常歩および速歩での直進時(Straight line at walk/trot)には跛行は認められませんでしたが、駈歩での右回転時(Right circling at canter)にはグレード2の右前肢跛行が認められました。患馬は、冠関節麻酔(Pastern joint block)によって顕著な跛行の改善を示したことから、レントゲン検査が実施され、右前肢における近位掌側中節骨の骨軟骨骨折片が発見されました。
治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、中節骨の掌側部位に7cmの皮膚切開創が設けられ、腱鞘(Tendon sheath)および輪状靭帯(Annular ligament)を切開してから深屈腱(Deep digital flexor tendon)を外側へとずらし、直鎖遠位種子骨靭帯(Straight distal sesamoidean ligament)および関節包(Joint capsule)に穿刺切開創(Stab incision)を設けることで、骨折部位へのアプローチが達成されました。その後、近位掌側中節骨に触知された骨折片が、ロンジュールによって摘出され、中節骨掌側突起(Palmar eminence)の病巣清掃(Debridement)が実施されました。そして、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)によって、細かい骨折片が残存していないことを確認してから、術創の縫合閉鎖と、圧迫包帯(Pressure bandage)の装着が行われました。
患馬は、手術直後にはグレード2跛行を示したものの、六ヶ月間の馬房休養(Stall rest)の後には跛行は認められず、術後の二ヶ月目および九ヶ月目の再診時には、レントゲン上での異常や跛行の再発(Recurrence)も見られず、調教&競争への復帰を果たしたことが報告されています。残念ながら患馬は、術後の十二ヶ月目に重篤な蹄底膿瘍(Subsolar abscess)と蹄部壊死によって安楽死(Euthanasia)となりましたが、病理組織学的検査(Histopathologic examination)では、冠関節に関わる異常所見は確認されませんでした。
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馬の中節骨の近位掌側部位における骨軟骨骨折は、疼痛を伴わず偶発性に発見(Incidental finding)される症例もあることが報告されています。このため、外科的療法の応用に際しては、この症例のように、冠関節麻酔による跛行の改善を証明することで、骨折片除去の必要性を慎重に見極めることが重要である、という考察がなされています。
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