馬の文献:中節骨骨折(Crabill et al. 1995)
文献 - 2016年02月12日 (金)
「馬の中節骨の粉砕骨折に対する二重プレート固定術:1985~1993年の10症例」
Crabill MR, Watkins JP, Schneider RK, Auer JA.Double-plate fixation of comminuted fractures of the second phalanx in horses: 10 cases (1985-1993). J Am Vet Med Assoc. 1995; 207(11): 1458-1461.
この研究論文では、馬の中節骨の粉砕骨折(Comminuted fracture of middle phalanx)に対する二重プレート固定術(Double-plate fixation)の治療効果を評価するため、1985~1993年にかけて中節骨の粉砕骨折を呈した十頭の患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、背側繋部に設けられたT字形皮膚切開創(T-shaped skin incision)と、総指伸筋腱のV字形切開(V-shaped transection of common digital extensor tendon)を介して骨折部位へのアプローチが行われました。その後、側副靭帯切断術(Collateral ligament desmotomy)を介して冠関節軟骨を除去(Articular cartilage removal of pastern joint)してから、二枚のDCP(Dynamic compression plate)による冠関節固定術(Pastern arthrodesis)、骨折片の再構築(Fracture fragment reconstruction)、海綿骨移植(Cancellous bone graft)が実施され、遠位肢ギプス(Distal limb cast)を装着してから麻酔覚醒(Anesthesia recovery)が行われました。
結果としては、術後の入院期間は平均一ヶ月で、退院時にはグレード2または3の跛行が認められましたが、レントゲン検査では、術後の60~120日間で冠関節の骨癒合(Bony fusion)が達成されたことが確認されました。そして、予後追跡(Follow-up)が出来なかった一頭と、疝痛によって安楽死(Euthanasia)となった一頭を除くと、残りの八頭は全て生存していましたが(長期生存率:100%)、跛行が完全に治癒(グレード0)したのは二頭のみで、他の六頭は軽度~中程度(グレード1~3)の慢性跛行(Chronic lameness)を呈したことが報告されています。このため、二重プレート固定術による中節骨の粉砕骨折の治療では、良好な冠関節固定が達成できることが示唆されましたが、骨折部位の治癒は完全には起きず、持続性の疼痛を示す症例も比較的に多いことが示唆されました。
この研究では、骨折が蹄関節(Coffin joint)と冠関節の両方を巻き込んでいたのは、十頭の中節骨の粉砕骨折の罹患馬のうち八頭、慢性跛行を呈した六頭のうち五頭を占めていました。また、慢性跛行を示した六頭のうち一頭では、蹄関節麻酔(Coffin joint block)によって跛行の改善が確認されています。このため、骨折病巣が二つの関節にまたがっていた症例においては、冠関節の堅固な不動化が達成されにくく、術後に蹄関節と冠関節の両方に変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発する危険が高いと推測され、これらの要因が、持続的な軽度跛行を示した原因であるという考察がなされています。
この研究の術式では、二枚のプレートを遠軸部位(Abaxial region)に平行に設置することで、一枚のプレートを正軸部位に設置した場合よりも、内固定法の強度を高めることが出来るだけでなく、プレートの遠位端が蹄骨の伸筋突起(Extensor process of distal phalanx)に接触する危険が少なくなる、という利点があると考えられています。また、プレートの数を一枚から二枚に増やすことで、骨折面の走行に合わせて、より柔軟に骨折片同士の再構築を試みることが可能で、また、捻転方向への力(Torsional force)をより強固に中和できるという考察もなされています。
この研究の術式では、二枚のプレートの設置に際して、中節骨の掌側&底側隆起の骨折片(Palmar/Planter eminence fragment)へと螺子を通す努力がなされており、この骨折片を内固定に含めることで、掌側&底側隆起に付着している遠位種子骨靭帯(Distal sesamoidean ligament)に作用する牽引力を中和させることができることから、骨折箇所のより堅固な整復が達成できると考察されています。さらに、螺子を掌側&底側隆起の骨折片へと到達させることで、十分に長い骨螺子が使用された場合においても、その先端が舟状骨(Navicular bone)や深屈腱(Deep digital flexor tendon)を圧迫して、持続性疼痛を起こすのを予防できる、という利点も指摘されています。
この研究では、十頭の中節骨の粉砕骨折の罹患馬のうち、前肢の骨折が80%(8/10頭)を占めていましたが、馬の中節骨骨折に関する他の文献では、前肢の骨折は28%(13/47頭)にとどまったことが報告されています。この傾向は、粉砕骨折というタイプに限れば、体重負荷が大きく、後肢の衝突によって粉砕骨折を生じるという病因論から、後肢に比べて前肢のほうが発症率が高くなったためと考えられています。
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この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、背側繋部に設けられたT字形皮膚切開創(T-shaped skin incision)と、総指伸筋腱のV字形切開(V-shaped transection of common digital extensor tendon)を介して骨折部位へのアプローチが行われました。その後、側副靭帯切断術(Collateral ligament desmotomy)を介して冠関節軟骨を除去(Articular cartilage removal of pastern joint)してから、二枚のDCP(Dynamic compression plate)による冠関節固定術(Pastern arthrodesis)、骨折片の再構築(Fracture fragment reconstruction)、海綿骨移植(Cancellous bone graft)が実施され、遠位肢ギプス(Distal limb cast)を装着してから麻酔覚醒(Anesthesia recovery)が行われました。
結果としては、術後の入院期間は平均一ヶ月で、退院時にはグレード2または3の跛行が認められましたが、レントゲン検査では、術後の60~120日間で冠関節の骨癒合(Bony fusion)が達成されたことが確認されました。そして、予後追跡(Follow-up)が出来なかった一頭と、疝痛によって安楽死(Euthanasia)となった一頭を除くと、残りの八頭は全て生存していましたが(長期生存率:100%)、跛行が完全に治癒(グレード0)したのは二頭のみで、他の六頭は軽度~中程度(グレード1~3)の慢性跛行(Chronic lameness)を呈したことが報告されています。このため、二重プレート固定術による中節骨の粉砕骨折の治療では、良好な冠関節固定が達成できることが示唆されましたが、骨折部位の治癒は完全には起きず、持続性の疼痛を示す症例も比較的に多いことが示唆されました。
この研究では、骨折が蹄関節(Coffin joint)と冠関節の両方を巻き込んでいたのは、十頭の中節骨の粉砕骨折の罹患馬のうち八頭、慢性跛行を呈した六頭のうち五頭を占めていました。また、慢性跛行を示した六頭のうち一頭では、蹄関節麻酔(Coffin joint block)によって跛行の改善が確認されています。このため、骨折病巣が二つの関節にまたがっていた症例においては、冠関節の堅固な不動化が達成されにくく、術後に蹄関節と冠関節の両方に変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発する危険が高いと推測され、これらの要因が、持続的な軽度跛行を示した原因であるという考察がなされています。
この研究の術式では、二枚のプレートを遠軸部位(Abaxial region)に平行に設置することで、一枚のプレートを正軸部位に設置した場合よりも、内固定法の強度を高めることが出来るだけでなく、プレートの遠位端が蹄骨の伸筋突起(Extensor process of distal phalanx)に接触する危険が少なくなる、という利点があると考えられています。また、プレートの数を一枚から二枚に増やすことで、骨折面の走行に合わせて、より柔軟に骨折片同士の再構築を試みることが可能で、また、捻転方向への力(Torsional force)をより強固に中和できるという考察もなされています。
この研究の術式では、二枚のプレートの設置に際して、中節骨の掌側&底側隆起の骨折片(Palmar/Planter eminence fragment)へと螺子を通す努力がなされており、この骨折片を内固定に含めることで、掌側&底側隆起に付着している遠位種子骨靭帯(Distal sesamoidean ligament)に作用する牽引力を中和させることができることから、骨折箇所のより堅固な整復が達成できると考察されています。さらに、螺子を掌側&底側隆起の骨折片へと到達させることで、十分に長い骨螺子が使用された場合においても、その先端が舟状骨(Navicular bone)や深屈腱(Deep digital flexor tendon)を圧迫して、持続性疼痛を起こすのを予防できる、という利点も指摘されています。
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